【悲しみと温もりと安心】
一階の和室で春里が春香のお骨と写真の前でぼうっとしていると、貴之がカフェオレを持ってきた。春里が振り返ると、そっとカフェオレを貴之は差し出す。
「ありがとう」
「ああ」
「やっと落ち着いた感じだね」
「春里の心はどう?」
春里の隣に座った貴之が春香の写真を見つめたまま言った。春里は貴之を見つめる。
「もっと泣きたいなら泣けばいい」
「うん。でも、今は大丈夫」
強がりではなかった。春香がなくなってから幾度も泣いた。もう泣かないと決めても、何かをきっかけに涙があふれ出した。そのたびに貴之はゆっくりと背中を叩いてくれる。まるでなく事を促すように。春里はそれにずっと甘え、そして少しずつではあるが落ち着いてきた。
春香が近いうちに亡くなることは覚悟をしていた。覚悟を決めていれば大丈夫だと春里は思っていた。だが、現実は全く違っていた。突然だろうとなかろうと大切な人を失う気持ちは同じだ。初めての経験でもあったため、春里はどう処理していいのか分からなかったのだ。当然割り切ることはできなかった。何度か泣けば気持ちも落ち着くと思っていた。だが、それはずっと繰り返されていた。
――落ち着いた?
春里は自分に尋ねる。今は大丈夫。でも、突然何かが襲ってきて、泣きたくもないのに勝手に涙が流れ出るときがある。だから、まだきっと落ち着いていないのだろう。貴之に心配はかけたくない。だが、貴之が優しければ優しいほど春里は泣きたくなる。
春里は、カップの中の液体を見つめた後、ゆっくりと砂糖と牛乳がたっぷり入っているカフェオレを飲んだ。
「甘いだろう?」
貴之が冗談めかして言う。
「本当。甘い」
疲れているだろう春里を気遣っての貴之の優しさだ。
春香のお葬式も淋しいものだった。久しぶりに会った祖父母は呆然と祭壇の前で突っ立っていた。二人を支えるように文登の両親がいた。文登は眼を朱くしていた。久しぶりに会った春香の姉はじっと春香の写真を呆然と眺めていた。春里は何人かに何か声をかけられたが覚えてはいない。ただ、貴之が常にそばにいて、肩を抱いていてくれたから、気丈に振る舞えていた。
「貴之さん、ありがとうね。お母さんが亡くなった時も、お葬式の時も、ずっと」
自然に出た感謝の言葉は春里の涙を誘った。もう涙も出ないと思っていたのに、ぽろぽろと信じられない量が流れ出る。貴之は微笑んだ後、ゆっくりと春里を引き寄せた。
「少しでも役に立てたのなら嬉しいよ。春里の支えになりたかったんだ。苦しんでいる春里が少しでも楽になってくれればと思っていた」
「すごく助かったよ」
「よかった」
貴之の呟きが一層春里の涙を誘う。知らないうちに声を出して泣きだしていた。
これを書きながらこういう場合は喪主は?とか現実を考えてしまったのですが、総て放棄です。考えないことにしました。ただ、一つ引っかかることがあって、それはのちほど解決させる形で。
次回は2話同時更新にしようと思っています。一話が大体1500文字。実はこの2話のあとがクリスマスイブなのです。3話同時を4話同時にしていればいいタイミングだったかもしれませんね。
次回は久しぶりに奏太が登場。本来の明るいお話に戻ってくれます。
次回もお付き合いください。




