【穏やかさに春香は微笑む】
春香は優しい温もりに微笑む。春里はだんだん柔らかくなっていく。それが口調からも表情からも分かる。
春香が病気だと知った時の表情、俊介に預けると伝えた時の表情。今でも忘れられない。不安は春香にもあった。俊介はとても優しい人だ。自分の身を削っても誰かのために尽くすくらいの人だ。その人が愛した人ならば心配はいらないと思っていたが、やはり、会ったことのない女性を無条件には信じられなかった。不安はあった。だが、一人にするよりはいいと思っていた。孤独程淋しくつらいものはない。今はまだ祖父母はいるが、近い将来春里が一人取り残されることは眼に見えている。
今の春里と貴之の表情を見ているととても素敵な環境に春里は身を置いているのだなと想像できる。雰囲気が和らいで、楽しげだ。これが作りものではない事がよく分かる。
貴之が携帯電話を取り出し、春里のメイド姿を見せてくれた。かわいらしい笑みを浮かべ、接客している春里の姿がそこにあった。
「ずいぶんとかわいらしい写真ね」
「今度はプリントアウトしてきましょう」
「あら、素敵」
春里の写真を飾ればいつでも楽しい気分でいられるかもしれない。
「この写真だけでも、春里が楽しく過ごしている事が分かるわ」
ずっと病気で辛かったのに、春里の楽しそうな写真を見ていると春香は安心できて、辛ささえ吹き飛ぶ。今は話すことさえ苦しくはない。
「確かに楽しかったよ。学園祭」
ずっと不貞腐れた表情をしているが、嘘は吐いていないだろう。春里は春香の手から携帯電話を奪いながら言った。
「本当良かった。春里だけだと分からないことも、貴之さんも一緒だと分かるから嬉しいわ」
貴之は春里を見守るように見つめてくれている。その笑みがとても柔らかくて春香は嬉しく思う。本当に素敵な人たちに出逢えたのだと安心できる。
「もう、行くね」
春里はそう言っていつものように春香の頬を撫でた。本当は春香が春里の頬を撫で、頭を撫でてあげたい。今は力尽きて、その動作さえつらい。
「じゃあ、また来週ね」
「うん。それを楽しみに待っているわね」
春里がとても淋しげな笑みを見せた。そんな春里を元気づけるように貴之の手が春里の頭に乗った。今まで自分がやってきたことが貴之によって行われている。それを春香は見つめ、優しく微笑む。素敵な愛情を向けられている春里の未来はきっと素敵なものになる。きっと自分を失ったとしても。
――大丈夫。
心の呟きは春香の安心につながった。
病院で携帯電話の使用はダメですけどね。まあ、大目に見てあげてください。写真ですから。
あと二話お付き合いください。




