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初恋の彩り  作者: みこえ
~出逢い~
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【春里と奏太の時間】

 春里は布団の中にいた。ベッドヘッドに置いてある時計は零時を少し過ぎたところを指していた。時計の隣に置いてある小さな明かりを消すと、部屋は暗闇になった。


 今日一日を思い返すと、『楽しかった』の一言に尽きる。久しぶりの映画館は昔のイメージと全く違った。何年かぶりの映画館だったからか、田舎と都会の違いなのか、今のところ不明だが、明らかに違う。


 以前行ったことのある映画館は古くて汚かった。それに比べて今日行ったところはとてもきれいだった。いくつものスクリーンがあるようで、多くの映画が上映されていた。奏太はどれがいいのか聞いてきたが、春里にはさっぱりだったので、奏太のお薦めだったファンタジーを一緒に観た。指定席だったのには驚いた。だから、チケットさえ買えば急いで入場をする必要もなかった。


 奏太は映画館に入る前に飲み物を買ってくれ、記念にとパンフレットを買ってくれた。

 この映画はまた続編が放映される予定らしく、奏太が「また一緒に観に来よう」と言ってくれた。


 映画が始まるまで一緒にパンフレットを覗きこみ、それについて話をした。今思えば今までにない近い距離だったように感じるが、あの時は自然で気にもならなかった。確かにお互いの肩が触れ合っていて、一つのパンフレットを覗きこんでいたから、頭も微かに触れていた。


 映画を観ている時は、途中から奏太の手が春里の手の上に乗ってきたが、あまり気にならなかった。奏太の身体も春里の方に傾いていたが、そこが観えやすい位置なのだと思っていた。冷静に考えると、もしかしたら違っていたのかもしれない。


 映画が終わってから、洋食屋で昼食を食べた。奏太はオムライスを迷わず注文し、春里は海鮮ドリアを迷った末注文した。その時も奏太はいっぱい話題を振ってくれた。映画のことはもちろん、学校の事も以前住んでいたところの話もした。春里のどんなつまらない話も笑顔で聞いてくれていたから、春里も聞かれるまま話していた。


 不思議だった。奏太は聞き上手だ。聞きだし上手でもある。いつもなら話さないような事まで自然に話していた。春里を真っ直ぐ見つめる眼差しとか、常に角度を持っている口角とか、優しく眼が細められているとか、色々な作用が彼を魅力的にしているのだと思う。そして、春里はそんな彼を拒否できないのだと思う。


 最初こそ印象は悪かったものの、ずっと誠実に春里と接してくれていた。貴之と一緒にいる時の姿は幼くてかわいい。だけれど、春里と二人きりの時はとても大人で、春里をきちんとリードしてくれる。今日一日一緒に過ごし、それがとても心地良いものなのだと気づいた。

 時々、非日常を味わうのも悪くないと春里は思っていた。


 奏太が食事のときに春里に話した事がずっと心の中に留まっていた。どんな会話の流れでこんな話しになったのかはもう思い出せない。


「貴之ってさ、春里ちゃんの前では普通の人間って感じだろうけれど、少し前までは違っていたんだよね。妙に冷めていると言うのかな。俺たちと騒いでいてもどこかで冷めている感じがしてね、ずっとそれが気になっていたんだ」

 奏太の表情はいつになく優しかった。


「冷めている、ですか?」

「そうは見えないでしょう?」

「はい。どちらかというと、からかい甲斐のあるおもしろい人という感じで。何でも表情に出ると言うか」

「うん、そう。何でも表情に出るのは前も一緒。だから冷めているって丸分かりなんだよね。自分ではそこは隠しているつもりみたいなんだけれどね」

 奏太が軽くウインクをして見せた。キザったらしいわざとらしい仕草に春里はクスリと笑った。


「でも、もっと前は違っていたんだよ。とても明るかった。多分ね……モデルの仕事をし始めてからだと思うんだよね、あんな冷めた感じになったのは」

「貴之さんを取り巻く環境が変わってからということですね」

「そう。確かにちやほやする人たちも増えたしね。急に女子にも人気が出たから妬む男たちも増えたし」

 奏太はスプーンを上下に振りながら言った。


「なるほど。女の子たちに自由を奪われて可哀想だと思っていたけれど、それだけじゃなかったんですね」

「そう。きっと周りの人間を信頼しないでいるんだよ。信頼しないところからだんだんプラス計算していって信頼に値するか確認する」

「かわいそうですね」

 春里はそんな事を何気なく口にしたが、実のところ春里も似たところがある。疑うところはないにしても、完全に信頼するまでに時間はかかる。しかも、信頼できると思える人は数少ない。


「でも、春里ちゃんといると全然違うよね。あれがおもしろいところだな。だからついからかっちゃうんだけれどね」

 何かを思い出したのか奏太が急に品の良くない笑い方をした。


「からかいすぎると信頼を失いますよ」

「大丈夫だよ。春里ちゃんを傷つけるような事をしない限りはね」

 奏太の言葉に春里はどう反応していいのか分からなかった。ただ、春里も感じている。大切にしてもらっていること。貴之の中では特別の枠に入っていること。奏太もまたそういう人間だ。それを知っているからこそ、今回のデートも引き受けたのだ。奏太が春里を傷つけるような事はしないと確信できたから。


 春里はフッと息を吐いた。貴之の冷めた姿を見たのは女の子に告白されたあの時だけだ。後は最初からいつも優しく、温かかった。そして、いつも楽しい時間を提供してくれていた。


春里と奏太のデートの回想。まあ、デートシーンを書いてもよかったのですが、それよりも、貴之の焦っている滑稽な姿を書きたかったので、今回はこちらは回想。


次回は貴之の過去と感情。会話文が極端に少ないです。


次回もお付き合いください。

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