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初恋の彩り  作者: みこえ
~進展~
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【男の子同士】

 夏休みに入り、去年なら浮かれながら貴之は実家に帰っていたが、今年は春里が一緒に住んでいることもあり、実家から足は遠のいていた。


 貴之は久しぶりに奏太の家にやってきていた。高校時代はよく奏太の家に遊びに来て、一緒にゲームをして遊んでいた。だが、違う大学に通い始め、お互いの生活が変化して、この習慣はあっという間になくなった。


 今日は昼から春里はアルバイトに出ている。家にいても楽しくないので奏太に連絡を入れたら、奏太も暇を持て余していると言うので、久しぶりに訪れた。


「久しぶりだな、ゲームするの」

「春里ちゃんとはしないの?」

「春里はこういうの得意じゃないんだよ。そうじゃなくてもあまり好きじゃないみたいだな」

「へえ」

「奏太は姫川さんとはするのか?」

「うん。よくここに遊びに来て、ゲームして本読んでまったりしていくよ」

「へえ」

 この部屋には姫川も遊びに来るのか、と思いながら部屋を眺めた。


 奏太は両親と姉二人の五人家族だ。姉二人が怖いやらなんやら言っているが、それなりに仲がいい。下僕扱いで、よく買い物に連れ回され、荷物持ちをさせられるなんて愚痴を言いながらもあまり嫌そうではないのだ。きちんと姉二人も心得ているようで、飴も用意されているらしい。食事やらご褒美の品やら色々らしいが。


 母親は外で働いておらず、家にいる。今日も貴之は母親にあいさつをした。「あら久しぶりね」と優しげな笑みを浮かべながら言ってくれた。人当たりがいい奏太の母親はきっと姫川の事を気に入っているのだろう。そうでなければ何度も姫川がここに訪れるはずがない。


「部屋をじろじろ見るな」

「なんか痕跡でもあるかと思ってね」

「なんのだよ」

「冗談だよ。ただ、姫川さんがここに来ているって想像していなかったからさ」

 会話をしながらもゲームをする手は止まらない。貴之は久しぶりだが奏太は相当やりこんでいるらしく、どうしても敵わない。それが悔しくて仕方ない。


「そう言えばさ、春里ちゃんとはその後どう?」

「何が聞きたいのか分からない問いだな」

「進展ってことだよ。一緒に住んでずいぶん経つしさ、もう楽しみ放題ってやつ?」

 気が置けない男が集まればこんな話にもなるだろう。集まると言っても二人きりだけれど。


「俺の理性を褒めてやってくれ」

「え?」

「お前とは違う。悟りを開けるくらいに素晴らしい理性だ」

「何を言っているんだか」

 奏太はクツクツと笑う。


「どうせ怖くて一歩踏み込めないだけでしょう」

「春里の方がな」

「ああ、まあなんていうか、女の子もそれぞれだもんな」

 確かに奏太が羨ましくも感じるがだからと言って焦る気持ちはない。焦るとすれば貴之の限界に対してだ。


「まあ、最初から二人はスローペースだったからね。ゆっくりが二人らしいんだよ」

 分かった風な口を利く。貴之は少しイラッと来て、奏太の肩をおもいっきり押した。奏太は貴之のこの行動が予想できなかったようで思いっきり横に倒れた。


「おい、邪魔するなよ」

「ハンデだよ」

 ズルをしてでも一度は勝ちたい。なんて口が裂けても言わないけれど。


「でも、貴之には感心するな。一緒に住んでいてそれだもんな。羨ましいけれど羨ましくない」

「別に羨んで欲しいなんて思っていない。だけど、毎日が幸せだ」

「ケッ!貴之からそんな言葉が出る時が来ようとは」

「フン、温泉に一緒に入ったなんていやらしい笑み浮かべながら報告する男よりマシだよ」

「だって、幸せだったんだもん」

 なにが「もん」だ。なんだか更にむかついてきた。


「アルバイト頑張って、また温泉に行きたいな。時間を気にせずに過ごせるって幸せだもんな」

 横に座っている男がどんな顔をしているのか見なくても分かる。だからこそ、見たくなかった。


「はにかむ表情なんて本当にかわいいんだからさ。それに何と言っても浴衣姿だよねえ。何であんなに色っぽく見えちゃうんだろうね。浴衣マジックだよねえ」

「知るか、そんなの」

 風呂上がりの春里はいつも色っぽくて危険だ。それを毎日見ているんだぞ、なんてことは言わない。想像だってさせたくはない。もったいなくて自分の胸のうちにしまっておきたいものだ。なぜ奏太がここまでぺちゃくちゃと話せるのか不思議でならない。


「いつもにこにこしている春がさ、急に妙に色っぽく見える瞬間って言うのがあってね、その時が堪らなく俺の心を擽るわけ」

 これ以上聞きたくなくて、貴之はおもいっきり奏太の頭を叩いた。


「何すんだよ。話したくてうずうずしていたんだから聞いてくれよ。こんなこと話せるのは貴之しかいないんだからさ」

「聞いていてこっちが恥ずかしくなる。よくもまあそんな事口にできるよな」

「幸せのおすそわけ?」

「分けてもらわなくても充分俺は幸せだ」


 先日、胸を触っただけで拒否されてしまったことなど気にしてはいないさ。そう心の中でぼやきながら、あの時の春里の表情を思い出した。固まった表情の後にある、申し訳なさそうな表情。あんな顔をされたら貴之は謝ることしかできない。


「まあ、そんな事は知っているけどね。一緒に住んでいるんだし、幸せだろうよ。同じ大学だしね」

「羨ましいのか?」

「春が通っているのは男のいない短大だ。だから心配いらないって思っていたんだけど、実はそうでもない事を知った」

「は?」

「合コンの誘いが後を絶たないらしい。仲良くなった女が合コン好きだった、と言うことらしい」

「でも、行かないんだろう?」

「いいや。これがね、人数合わせの付き合いで何度か行っているんだよねえ。困ったことにさ」

「はあ?」

「はあ?だろう?俺もおもわず『はあ?』って言ったよ。俺が行ったらどう思うんだって聞き返したよ。それは俺の権利でしょう?でも『仕方ないの。あれだけ頼まれたら断れない』だって。俺の気持ちは考えてくれないわけ?」

 奏太は身を乗り出し、貴之に顔を近づけて訴える。つばが飛んで貴之は状態を反らした。


「なぜ、あの惚気からこんな愚痴に方向転換されているわけ?」

「だから、俺は暗示をかけるんだって。俺は幸せだって」

「他人におすそわけしているどころの話じゃないじゃないか」

「すっごくかっこいい男と出逢ったらどうしようか」

「その時はその時だ。諦めろ」

「は?」

「姫川さんにとって奏太はそれだけの男だったと言うことで諦めて、自分磨きに精を出せ」

「自分は幸せだからって冷たすぎるんじゃないの?」

「さっきまで奏太だって幸せだって言っていたじゃないか」

 鬱陶しい。


「だからかなあ、俺、最近気持ちが焦って、春を押し倒してばっかり」

 最終的にはそこに戻るのか、と呆れながらも奏太の気持ちは充分に分かった。春里ならばどんなに誘われても断ってくるだろう。そう言うことはきっちりしている性格だし、断ることに何の躊躇もないだろう。下手すれば誘って来る方がおかしいとその友達の縁を切りかねない。


「春はさ、他人の顔色を窺うところがあるんだよな。窺うべき人と別に気にする必要がない人がいると思うんだけどさ」

「姫川さんは奏太に甘えてんだよ。奏太の顔色は窺わなくても大丈夫だと信じているんだ」

「どうでもいいって事?」

「違う。その逆。窺う必要がないくらい信頼し合っているって事じゃないの?だから、嫌なら嫌って言えばいいんだよ。奏太ならそう言う事をきちんと口にしてくれるって思っているから顔色を窺う事をしないんじゃないか」

 奏太はコントローラーを投げ、ごろりと寝転がった。とうとうゲームも放りだしたか。


「なんか心が狭い男って見られないかな」

「何でそうなるんだよ。好きだからこそって思ってくれるんじゃないの?」

「そうかな?」

「何ウジウジしてんだよ。本当に鬱陶しい」

「いやいや、ここは仕方ないところでしょう」

「そうか?そんなに悩むところじゃないと思うぞ。『他の男と楽しく遊んでいるところを想像しただけで嫌だ』って泣き落せばいいだけの話だ。そう言うこと、得意じゃないのかよ」


「そんな事一度だってしたことないって」

「まあ、そうだろうけどさ」

 貴之はペットボトルのお茶をグラスに注いだ。


「あ、氷入れて来ようか?」

「別にいい」

 貴之は一気にそのお茶を飲み干す。久しぶりに多くしゃべったから喉が渇いたのだ。春里と話をする時はもっと落ち着いて話をするからそこまで喉が乾かないのだが、今回は結構興奮気味で話してしまったために身体も熱を持っている。冷房もかかって涼しいはずなのに不思議なものだ。


「まあ、なんだ。奏太の気持ちをきちんと伝えるしか方法はないんじゃないか?姫川さんだって悪気があるわけじゃないだろうし。どちらかと言えば天然って感じじゃないか?気づいていないんだよ、色々と」

「そう言うもの?」

「だって、見るからに慣れていなそうじゃん」

「ああ」


まあ、奏太にもいろいろあると言うことで。この二人を書いているとやっぱり楽しい。会話が弾んでくるんですよね。男の子同士ってところがまた楽しくなってくる!


次回もお付き合いください。

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