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初恋の彩り  作者: みこえ
~出逢い~
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【貴之と春里と奏太と】

 最近、貴之の習慣が変わった。以前は夜に勉強をしていた。だが、今は早朝にしている。


 以前、貴之はなぜか早く目覚めてしまった。いつもより一時間程早かったように思う。もう一度寝ると起きる時に辛いように感じ、寝ることを諦めて、顔を洗いに一階に下りた。その後なにもする事がなくて、自室で勉強を始めた。結構集中できたと思う。そのせいかもしれない。いつもは分からなかった物音を聞いた。隣の部屋から聞こえる物音。


 ――春里、起きたな。

 そう分かり、ちょっと楽しくなって耳を澄ました。寝起きの悪い彼女だから、結構物音をたてる。なぜ今まで気づかなかったのかと思えるくらいだった。多分貴之も春里ほどではないが寝起きが悪いからだろう。


 そして、その日貴之は余裕を持って部屋の前で春里を待ち構えることができたのだ。


 その日から寝る時間を三時間ほど早めた。その代わり起きる時間を三時間ほど早めた。勉強もはかどった。学校に行くときには当然のように頭はすっきりしていた。なんだかそれがいいような気がして習慣づけた。まだ、それほど長い間、していないから、習慣づけようと頑張っている、と言うのが正しいだろうか。


 今日も早朝に目覚ましが鳴り、ゆっくりと眼を開けた。部屋はまだ暗い。夏は明るくなる寸前、冬は暗い時間帯。なんとなく冬が近づいていることを感じた。


 眼を覚ますために顔を洗い、水を飲む。そして、両頬を軽く叩き、勉強を始める。

受験もそうだが中間テストが近い。授業はきちんと受けているし、別に特別な勉強をする必要はないが、やはり対策として少しは時間を割くべきだろう。貴之は三時間の予定を立てて、ノートを開いた。春里が物音をたてるまでの間。




 貴之が授業を受けていると、校庭の方から騒がしい声が聞こえてきた。そっと窓の外を見ると、女の子たちがサッカーをしていた。ボールに人が集中している絵はとても滑稽に見える。笑いそうになるのを必死に抑えた。笑ったら最後、先生にどやされる。理数数学Ⅰの先生は結構厳しくて、今時珍しく手が出る。だから、先生の様子を窺いつつ、また校庭を見た。


 ――あ、春里だ。

 多くの女の子たちがボールに集まっているのに、ボールから離れ、やる気なさそうにぼうっと見ている姿が眼に映った。いつもは垂らしている肩まで長い髪を一つに結っている。貴之は近くで見たいな、と思った。


 春里は一応参加しているようだった。かったるそうに見えるが、きちんと走っている。ただ、ボールに集まらないから、あまり動かないだけだ。それに、春里に一度もパスは回っていないようだ。あれでは体育ではないような気がした。


 授業が終わり、貴之がそのまま外をぼうっと見ていると、奏太がやってきた。ニヤニヤしていて気持ち悪い。


「なあ、昨日のあの子と付き合えば良かったのに」

 思い出したくない事を口にする。

「なんでだよ」

「そうすればガードが少しは固くなくなるだろう?そりゃ、春里ちゃん一人でもガードは固いけどさ。おまえがいると無敵だから」


「そのために俺を売り払うのか?」

「そんな悪い子じゃなさそうだったけど」

「そういう問題じゃないよ。俺はあいつを初めて見たんだ。どんな奴かも分からない。それはあいつだって一緒だよ。俺と話したこともないのに何が分かるっていうんだよ」


「そうイライラするなよ。言えばチャンスを与えるつもりでさ。おまえには女の子と付き合うという青春の選択肢はないのかよ」

「そんな余裕ない」

 昨日の女の子の何が気に食わないのかと言われたら雰囲気だ。何となく嫌な雰囲気を纏っていた。ような気がするだけなのだが。


 貴之は苛立ちを沈めるために息をゆっくりと吐き出した。

「そんなに春里がいいのか?」

「うん。デートがしたい。あんな子、滅多にいないよ。いっぱい色々知りたいって思う」

 奏太は何かを思い出しているのかとても幸せそうな顔をしている。ただのアホ面なのかもしれないが。


「あ、そうだ。何でお前教えてくれなかったんだよ」

 突然奏太が勢いよく身を乗り出してきたので、貴之の身体がのけぞった。もう少しで椅子と一緒に倒れるところだった。


「春里ちゃんと苗字が違うんだな。と言うことは、もしかして血がつながっていないんじゃないか?」

 奏太はきちんと小声で話した。そういうことはきちんと分かってくれるやつだ。でも、最初に挨拶をした時、確かに春里は苗字を言ったはずだ。浮かれ過ぎて聞き逃したのか、忘れただけではないだろうか。


 しかし鋭い男だ。まあ、貴之の育ってきた環境が分かっていれば、おのずと答えが出ることなのだが。


「ああ。色々面倒くさいんだよ」

 この場で短い時間で話すには少し面倒くさい内容だ。話すのであれば誰も聞いていない場所で、きちんと話せる場所でなければならない。誤解がないように。


「なら、おまえ春里ちゃんに惹かれないのか?」

「は?」

 貴之自身でも驚くくらい素っ頓狂な声が出た。

「謎が多いだろう?」


 確かに謎は多いかもしれない。貴之はゆっくりと思いを巡らす。掴めないところがあるのは確かだ。敬語で話してみたり、敬語がなくなったり。なんとなく距離を感じたり身近に感じたり。笑顔も場合によって何となく雰囲気が違う感じもした。多分総てが演技なのだろうと思えるくらい掴めない。


「確かにな」

 そう認めると、なぜか貴之の心がざわめいた。そわそわすると言うか得体の知れない焦燥感と言うか。




 学校の帰り、貴之は校門を出たところで春里と奏太を捕まえた。おまけに春里につき纏っている男もいた。貴之が睨みつけると、深々と頭を下げた後、走り去って行った。


「お兄様は厳しいねえ」

 奏太がからかうように言った。

「でも、わたしは助かりますから」

 にこにこしながら春里は言う。この笑みでさえ作り物のように見えてしまうのは、今日奏太と話したことが原因かもしれない。今まで感じなかった事が感じられるようになった。ような気がする。だから、貴之は観察をし始めた。言葉や表情や仕草。どれ一つ逃さないように観察をしていきたい、そう思う。そして、その中から本物の春里を見つけ出したい。人間誰しも作りものだけでは生きていけないのだから。


「それにしても今日もなんか暑いよな」

 奏太は前髪を書きあげながらぼやいた。もう十月も入ったと言うのに汗が出る程だ。貴之はブレザーを腕にかけていた。奏太は腰に巻いていた。だが、春里はそれを脱ごうともしなかった。それなのになぜか涼しげににこにこしている。


 ――もしかして、人間じゃないんじゃないか?

 なんてばかげた想像もしたくなる。


「でも、来週からは涼しくなるみたいですよ」

 まるで模範回答だな。なんて思いながら春里を見ると、眼がばっちりあった。そして、春里はすかさず貴之に微笑む。こういうのもわざとらしく感じてしまうのだから末期かもしれない。


「そう言えば奏太、おまえ試験勉強しているのか?」

 貴之が思いついたことを言うと、奏太はひどく嫌そうな顔をした。

「そういう話はこういう時には言わないの。春里ちゃんと語らえる唯一の楽しい時間なんだからさ」

 そう言って奏太は春里の肩を引き寄せた。貴之が眼を眇めたのが分かったらしく、奏太はすぐに腕を離した。


「そう怒るなよ」

「おまえには百年早いんだよ」

 貴之は奏太と春里の間に割って入った。いつも春里が真ん中で男二人が挟んでいるから簡単に奏太に触れられてしまうのだ。当の本人は何ともない風にしていて、今はなぜか笑っている。


「増永さんはテスト勉強をしなくても余裕なんですよね」

 春里の言葉は嫌味なのか本気なのか分からない口調だった。だが、奏太は明らかに顔を歪めた。そして、不貞腐れた風を装う。


「春里ちゃんが同い年だったら、勉強を教わりに行くのにな」

「俺が招待しないから安心しろよ」

 想像しただけでも苛立ってくる。


 春里の部屋で奏太と春里二人きり。そんな映像を思い描いた途端、奏太が憎らしく思い、貴之は思いっきり奏太のお尻を蹴った。


「想像したじゃないか、馬鹿野郎」

「なんだよ、それ」

 春里の部屋に貴之だって入ったことはない。そういう失礼なことはしたくなかったし、警戒もされたくなかったから避けてきた。それなのに、奏太に簡単に入られたら、兄としての立場と言うものがなくなる。


「貴之さん、わたしがどんな立場でも増永さんを部屋に招待するなんて愚かなことはないですから、想像なんてしないでくださいね」

 春里の言葉は厳しい。にこやかに言っているから余計だ。隣を見ると、奏太が何とも言えない複雑そうな顔をしていた。


どうしても三人そろっている会話が好きなので、多くなってしまいます。

前回更新の日、初めてユニーク数100を超え、ちょっと嬉しくなりました。上を見ればまだ底辺。でも、やはり誰かに読んでもらえるって嬉しいものですね。何か困難があるわけでもなく、のほほんとした日常の中で生まれる感情、という感じでこれからも書いていくのでお付き合いくださいませ。


次回は貴之、春香に会う。

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