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初恋の彩り  作者: みこえ
~恋愛~
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番外編【如月友喜の恋の行方】

 卒業式の時、ひと目姫川(ひめかわ)先輩を見たいと思っていた。見納めだと思ったし、特別な日だから。だから、捜したのだ。それがいけなかったのかよかったのか。最後の最後に答えは見つかった。






 篠原(しのはら)先輩と姫川先輩が楽しげに話しながら歩いている姿を見つけた。本当に二人は仲がいい。お互いに向けるその表情はとても柔らかくて、卒業式とは思えない明るさがある。二人は何かに気づいたのかクスクスと笑った後、走り出した。速いとは言わないがそれなりに運動神経はいいのだと初めて知った。比較相手が篠原先輩だからかもしれないが。


 二人が向かった先は竹原(たけはら)先輩の元、いや、もう一人増永(ますなが)先輩がそこにいた。なぜ増永先輩がここにいるのだろう?いくら篠原先輩と仲が良くてもわざわざ卒業式に来るだろうか?やはり二人は付き合っていたのだろうか?そうではないと結論付けていたが、その見解は間違いだったと言うことだろうか。


「何?やっぱり篠原先輩に未練があんの?」

 幼馴染の間島優太(まじまゆうた)が楽しげに聞いてきた。確かに未練があるが、相手は篠原先輩ではない。彼にはそのことは告げていないのだから勘違いしても仕方ないだろう。


「俺ずっと、興味本位だと思っていたんだけど、違ったのか?」

「違っていないよ。興味本位だから」

 ふと、増永先輩が姫川先輩に優しく微笑んだ。なぜ彼がここに来たのか?その答えははじきだされた。優しい笑みを浮かべた増永先輩と嬉しそうに話す姫川先輩を見れば誰でも分かるだろう。途端に胸がぎゅっと締め付けられた。その胸の部分のシャツをぎゅっと掴む。初めての感覚で怖くなる。


 僕、如月友喜(きさらぎともき)は確かに篠原先輩に興味を抱いていた。だが、その感情は恋まではいかず、興味でとどまった。その代わりに別の場所からその恋は芽生えた。


 篠原先輩に姫川先輩への想いを口にした時、篠原先輩は少し言葉を濁した。多分姫川先輩には好きな人がいるのだろう。そう軽く考えていた。その相手が増永先輩だなんて考えもしなかった。しかも二人は恋人同士だ。二人の醸し出す空気を見れば一目瞭然と言うもの。眼を逸らしたいのに逸らせない。あのかわいらしい優しい笑みから眼を離せなかった。もったいなくて。


 あの時、篠原先輩に強がるように言った言葉。片想いでも構わないと言ったが、そんなのは今吹っ飛んだ。あの光景を見て胸が痛い。キュッと締め付けられたような感覚。最後の最後に両想いになれればいい。それは本心だ。それまでは通り道なのだから、その恋は結ばれなくて当然だと冷静に思っていた。だが、そんな理屈通用しない。人間の感情と言うものは想像以上に我が儘らしい。抑えこもうと思って抑えこめる代物ではない。僕は初めてそれを知った。






 楽しげに話すその団体は多くの人間の目を引く。

「なあ、俺ずっと思っていたんだけどさ、篠原先輩と竹原先輩って兄妹なんだよな?」

「そう言う話だな」

「でも、そうには見えないんだよな。ずっと思っていたんだよ。竹原先輩の篠原先輩に対する眼差しって言うの?なんか、兄妹同士の眼差しには見えないっていうかさ。恋愛感情がひしひし感じるようなさ、なんて言うのかな、熱い眼差し?」

 優太に言われて二人を見るとなるほど、言っている意味はよく分かる。熱い眼差しと言うよりもとても優しい眼差しだとは思う。愛しそうな感じだ。それを受け止める篠原先輩にもその空気はある。恋人同士だと言われればそれはそれで納得できる感じではあるだろう。だが、あくまでも兄妹だろう?


「二人って苗字が違うって騒がれていたじゃん。両親が離婚したからって話だけどさ、実は血がつながっていないとか、だったりしたらおもしろいよな」

「滅多なことは口にするな」

 そうは言っていたものの、確かに二人は似ていないし、そうであってもおかしくはないような気もする。


「まあな。別にどっちでもいいけど」

「そうだな」

「おまえはどっちでもいいわけじゃないだろう?篠原先輩に想いを伝えなくていいのか?」

「すでに伝えてあるから問題ない」

「はあ?」

 ものすごく大きな声で叫ばれ、左耳がキンキンする。思わず耳を抑えると、興味深そうに僕の顔を覗きこんできた。まあ、気持ちは分かる。今までそんな事話すような事しなかったから、優太にとっては興味深いのだろう。だからと言って、曝け出せるものではない。


「聞いていない」

「言う必要がない」

「なんだよ。幼馴染で親友だろう?」

「親友?どこが?」

「冷たい男だな。それで、いつ?」

「さあ、いつだったかな」

「惚け過ぎだ」

 腕をおもいっきり叩かれ、僕は顔を顰めた。もう過ぎたことだ。別に聞きたいわけでもないだろう。


「振られたのか?」

「どうなのだろうな。でも、見事に失恋だろうな」

 増永先輩と姫川先輩のあの空気を見れば分かる。僕が姫川先輩に惹かれた時には二人は恋人同士だったのだろう。すでに叶わなかったのだ。僕のこの想いは。


「振られても一緒に帰っていたってことか?」

「そばにいさせてほしいと言ったのは僕だから。取り巻きとして一緒に過ごしていただけだ」

 文化祭の後、あの団体に姫川先輩も加わった。とても楽しげで、その表情を見ているだけで幸せだった。気持ちを伝えれば誠意を持って返事をくれる人だっただろう。だけれど、僕にその勇気がなかった。満足をしていたのだ。一緒に帰れるだけで幸せだと思ったから。


「なんだよ、そんなに本気だったのか?」

「そうかもしれないな。なんか今きついから」

 姫川先輩のあの表情を見られることはとても幸せだ。だが、その表情を向けている相手が増永先輩と言う事が絶望的だ。誰にも執着しない男が執着したのは篠原春里ではなく姫川春だったと言う事だ。きっと敵わないだろう。想い自体、次元が違うような気がする。


「あ、帰るみたいだぞ。いいのか?話しかけなくて」

「余計なお世話ばかり言って来るな。構わないよ。今日は一目見たかっただけだから」

「健気だな」

 そう言うつもりではない。ただ、話しかけられないのだ。怖くて。あの空気の中に入り込めるほど僕は強くない。いつも、本心を隠して違う自分を演じるしかできない僕があの場所で平然としていられるはずがないのだ。


「なんだよ。そんな顔すんなよ。俺がどうすればいいのか分かんなくなるだろう?」

「そんな顔って?」

「泣きそうな顔」

 優太の言葉に思わず驚き、優太をじっと見つめてしまった。多分この男が悪い。この男の前だとどうも演技ができない。素の自分が見事に顔を出してしまう。誤魔化しきれなくなるのだ。


「なんだよ。本当のことを言ったまでだ。ほら、仕方ないから励ましてやんよ。どっかに食べに行こうぜ」

 優太は僕の肩を抱いて励ますように腕を何度か叩いた。僕よりも男らしい優太は身体を鍛えることが趣味の様な男だ。勉強はあまりできないが、この高校に入学できるだけの頭脳は持っている。運動神経は飛びぬけてよく、水泳部に所属している。僕よりも身長が低く、それがコンプレックスだと騒いでいた。だけれど、男らしいのはこの男だ。


「何を食いに行く?」

「そうだな。いつものあのカフェに行こう。あのカフェでランチをいただく」

「本当にあそこ好きだな。おまえは似合うかもしれないけど、俺には似合わんのだよ」

「男二人って言うのも似合わない」

「確かにな。でも、確かにあそこの飯はうまい」

「だから、人目を気にしない者同士食べに行こうか」

 彼は彼なりに僕を励ましているのだろう。それが分かるから無下にはできない。僕の恋の相手が篠原先輩ではなく姫川先輩なんて思いもしないだろう。


「そう言えばさ、篠原先輩と一緒にいたあのかわいらしい人、誰だ?」

「姫川先輩」

「へえ。なんか似合わない二人だな」

 僕も最初はそう思った。なぜ二人、仲が良いのか不思議だった。だが――。


「そんなことはない。二人揃って話している姿を見ればそんな風には思わない」

 そう。二人仲良く話している姿を見ればそんな不釣り合いなんて考えは出てこないのだ。お互いが大切にしていて、尊重していて、なのに遠慮がない。きつい言葉を口にしてもそれを受け流す力量がそれぞれあって、でもしっかりと受け止めていて。お互いが高め合っているような仲だった。そして、きちんと分かっている仲だった。だからどんなきつい言葉を口にされても傷つくことがないのだろう。その言葉の真意を感じ取っているから。


「そうなんだ。でも、かわいくてよかったな、あの人」

 昔から女性の好みはかぶった。全く似ていない二人なのに女性の好みだけは似ている。それに気づいているのは僕だけだ。優太は誰かを好きになるたびに僕にその気持ちを告げる。一人では抱えきれないのだと言う。そして、その時に僕の気持ちは消えるのだ。同じ人をいいな、と思っていると知った途端に封印をしてしまう。諦める事を苦に思わなくなってしまったのは花が咲く前に枯れてしまっていたからだろう。


「姫川先輩には恋人がいるから駄目だ」

「え?そうなの?」

「さっき見ていて分からなかったのか?」

「何が?」

「増永先輩がその恋人だ」

 本人からそんな事は聞いていないが、確定だろう。


「へ?」

「何きょとんとしている」

「いや、増永先輩の彼女は篠原先輩で――」

「いや、二人は本当に仲がいいだけだ」

 現に先程姫川先輩と増永先輩は一緒に帰ったではないか。仲よさげに会話をしながら。


「優太も失恋だな」

「え?瞬殺かよ。おまえが種明かししなければ少しは余韻に――」

「浸りたかったのか?」

「いや。そんなことはない」

 優太の恋も実ったためしがない。この雑な性格がよくないのかもしれない。僕からすればこの男らしさとか友人思いなところとか、魅力的なところは山ほどあると思うのだが、女性はそう言うところを評価しないらしい。きっと女性を大切にするタイプだと思うのだが。


「二人でやけ食いか?」

「あの店はやけ食いには向かない」

 僕の言葉に盛大に優太は笑う。優太のこの性格に僕は助けられるのだろう。彼がそばにいるから今も平気でいられるのかもしれない。ちょっとビビらせてみようか。驚かせてみようか。そんな悪戯心が芽生えた。


「僕の失恋相手も姫川先輩だった」

 見事に大きく眼が開き口をポカンと開け、俺をじっと見つめている間抜け顔の優太を見ることができた。満足だ。


「結構好みが被る」

 優太を無視して歩きだすと、走ってくる足音が聞こえた。そしてかなりの衝撃。後ろから思いっきり肩を組まれ、前のめりになった。


「初めてかもしれないな。友喜が好みの話をしたのはさ。そうか。まさか、ずっと遠慮していたか?」

 優太はとても楽しげだ。

「いや」

「そうか?ずっと思っていたんだよな。俺から見ても男前のおまえがなぜまだ恋人ができないのかってさ。今だって騒がれて選びたい放題じゃん」

「ミーハーと付き合えと?」

「いや。友喜には似合わないな」

 ケラケラと笑う優太の頭をおもいっきりはたいてやった。調子に乗り過ぎだ。


 篠原先輩と初めて話をした時の事を思い出す。あの時は精一杯背伸びをして見せた。こういうことに慣れている、と思わせるように懸命に。その姿をするたびに心の中で笑っていた。自分には似合わない、一番遠い仕草だったからだ。


「でも、よかったよ。こういう話ができてさ。やけ食いするならファミレスがベストだな」

「いや、僕はやけ食いするつもりはないから、あのカフェで」

「どんだけ好きなんだよ」

 ケラケラ笑う友人を見つめる。姫川先輩を見たら惹かれるだろうと思っていたが、本当にそうなって複雑な思いを抱いた。僕の場合は彼女のあの姿を見て惹かれたのではなく、あの明るさに惹かれたのだ。好みが被ると思っていたが、実は違ったのかもしれない。そうであるならば、今後二人は別々の女性に惹かれる時が来るだろう。そうであって欲しい。認めたくはないが唯一の親友だと言っていい優太と同じ女性を取りあうような事はしたくない。その女性と優太が結ばれて、僕が遠くから見守るなんて構図耐えられなのだ。きちんと祝いたい。彼の想いが初めて通じた時は。妬むこともなく、自然に笑みを浮かべて。


 そう言えば以前きれいな笑みだと篠原先輩に言われた。鏡の前で練習でもしているのかと。そんなことはないが、笑みを浮かべる時はそれなりに気をつけて笑みを浮かべている。きれいになるように。だけれど、優太の恋が実った時はそう言う事を抜きに笑みを浮かべたい。計算ではなく自然に。この男の前ではいつも自然だけれど。


「友喜はどういうところが好きになったんだ?」

「え?」

「隠さずに言えよ。俺は姫川先輩の外見しか知らないけど、おまえは知ってんだろう?」

 確かに、知っている。学園祭が終わってから毎日のように一緒に帰ったのだから。大体は篠原先輩と話している姿を見るだけだったが、時折無邪気な笑みを僕に向けて話を振ってくれた。その度にドキリとした。僕の反応をおもしろがって時々如月ではなく友喜君と呼ぶ。そう呼ばれるたびに僕はドキドキしてそわそわした。ふざけて触れられるたびに跳ね上がりそうだった。そう、好きになったのはそんな弾けた人だと知った時。


「大人しそうに見えるのに実は明るいところのギャップがきっかけ。その後は姿を見るたびに惹かれた。微笑まれるともうとめどなく気持ちが溢れた。こんな感情は初めてだったかもしれない」

 そう、ここまで気持ちが育ったのが初めてなのだ。だから、痛い。切ない。


「そうか。だから泣きそうだったんだな」

 先程の楽しげな口調とは違い、とても落ち着いた口調に驚いて僕は優太の方を見た。その表情はとても優しげで全くからかっている様子がない。


「そうかもしれない。思っていた以上に好きだったのかもしれないな」

 最後の恋で結ばれればいい。その考えは変わらない。そうであればその後はとても幸せなはずだから。でも、できればその途中の恋も実ってほしい。もっと色々な感情を抱いてみたい。そう思えたのは初めてだった。その後別れが訪れようとも、これが最後の恋なのだと思いながら愛しく思える女性に出逢い、想いを告げてみたい。


あともう一編、番外編投入です。


次回もお付き合いください。

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