弱い勇者と強い勇者
手合わせ最後の日が来た。今日こそ一本取ってやる!
イダスは、気合いを入れて挑んだ。
だが、勇者キュレアは強すぎた。
何度倒れても向かっていった。
「あいつ何で向かって行けるんだ?」
「勝てるはずがないのは、もうわかってるはずだろ?」
「あいつ、ビビって震えてるのに向かって行ってるぞ!」
「本気でキュレア様から一本取るつもりで斬りかかってるぜ」
イダスは、諦めなかった。
相手は勇者だ!俺が本気で斬っても死なないだろ!
遠慮なく斬らせてもらうぜ!
イダスは、自分が、震えている事を忘れキュレアを斬ることだけを考えていた。
だが、キュレアは、圧倒的に巨大な相手だった。
何度倒れても向かっていくイダスの姿に観客達の見方が変わってきた。
しだいに神達が、イダスを応援しはじめた。
「いいぞ~イダス~~!!」
「イダス君!頑張って~~!!」
イダスは、これが実戦だったらどうなるんだと思った。
俺は、また何も出来ないでアントリュウスを助けられない
次にアントリュウスに危険がきたときアントリュウスを守るのは、アシュレイじゃない!俺だ!!
イダスの青白い闘気がより一層強くなった。
全てのオーラを注ぎ込みキュレアに斬りかかった。
キュレアの顔が真剣になった。
剣と剣がぶつかり合い凄まじい衝撃音がなった。
その振動にイダスは気を失い倒れた。
観客の声援を受けたが、力つき意識を無くした。
アシュレイが救護に入った。
観客達がイダスに声援を送った。
レニイがキュレアにタオルを持ってきた。
「ナイスファイトだ!いい勇者になるぞ~!!」
観客達の声を聞いたレニーが呆れた顔をした。
「勇者ですか?それは途方もなく遠い夢ですね実戦でしたら死んでますよ!」
「そうか?実戦だったら本当の力が出たんじゃないか?」
「本当の力?」
「俺がまだ勇者になっていない駆け出しの頃、強い勇者がいた!格上の神や勝てるはずもない怪物に立ち向かって行き倒した!その勇者にどうすれば貴女のような勇敢な勇者になれますか?と聞いた」
「私が勇敢?私は、臆病で強い敵を前にすると震えてるよそんな自分に勝ちたいだけだ」
「誰かを守りたい誰かの為に倒したいその思いが強ければ強いほど力が湧くってな」
キュレアが、レニイに尋ねた。
「なあ、もし圧倒的に強い奴と戦う事になったらどうする?」
「戦わないでしょ、そんな奴と戦っても死ぬだけです」
「手足が震え剣も振れなくなったときそれを乗り越えて戦えないよな?」
「ええ、一か八かのヤケクソで向かうかもしれませんが、体が動くんですかね?」
「あいつは、ヤケクソじゃない、体は、怯えているくせに勝とうとして斬りかかってきた」
「怯えてるやつが勝とうとですか?まさか!?」
この三日間何度も、圧倒的な力の前に震えているのにそれを乗り越えて斬りかかってきた。
その度に恐怖を感じた。
震えててもいい、泣きながらでもいい、それを乗る越えられなければ勇者になっても弱い勇者のままだ、だが、それを乗り越えて立ち向かって行く奴は、間違いなく強い勇者になる。
自分より強い奴を倒してしまう事もあるんだからな
あいつは、弱くない強い勇者だ。
俺が知る強い勇者は、この二人だけだな。
キュレアは、ゼウスと直接戦う事を想定していた。
アントリュウスが死んでから千年、パネースの所で特訓をしながら神にはない人間の勇気の情報と研究をしていた。
アントリュウスをゼウスと戦わせたくなかった。
アントリュウスを死なせない為にキュレアは、この千年、過酷な修業をしていた。
戦うとき護衛をし自分がゼウスに立ち向かう気でいた。
キュレアは、イダスが持っている勇気に興味があった。
もうすぐ戦争が始まる!イダス、俺と共闘出来るくらい強くなれ
ゼウスに留めを刺すのは、俺かお前だ!
いつまでもアントリュウスに頼るわけにはいかないだろ、アントリュウスは女の子だぞ
イダスはアシュレイから治療をしてもらい目が覚めた。
「イダス、大丈夫かい?」
「ああ!全く相手にならなかったな・・・」
イダスが落ち込んだ。
「食事どうする?ここに運んでもらう?」
「アシュレイ!悪い、俺を一人にしてくれ」
イダスが自分の部屋へ行き閉じこもった。
イダスが泣いた
観客達が応援してくれたのに全く歯が立たなかった。
その事を思い出し惨めな自分に目柱があつくなり悔し涙が流れた。
クソッ あれだけ強くなる為に特訓したのに、何故俺は弱いんだ・・・
トントン、背中を指で叩かれた。
「えっ!!」
誰!?
振り向くと、メジェンドが ハンカチを差し出した。
「いつからいたんだ~~っ!?」
ドアが開く音は、しなかった。
と言うことは最初からいたのか?
イダスは 弱みを握られたと思った。
「なあ!メジェンド、誰にも言うなよ!仲良くしような」
何処で誰が見てるかわからないから、この日から泣くときはトイレで泣こうと誓った。




