38.それぞれの作戦
「くそったれ!!! あのゴミ冒険者が…… この街で俺が一番偉いというのに……!生意気な奴め!」
ヴィンセールは一人で酒を煽っていた。
金銀財宝がきらめく部屋に、大きなベッド、怪しい薬の香りが部屋の中に充満している。
机の上には、上品な装飾があしらわれた手紙が一つ。
ヴィンセールはそれをつまみ上げて顔の笑みを深めた。
「リースからの手紙か……! ククッ! 今度はどんな薬をおろしてくれるんだ?」
リース商会の印章で封がされた手紙を開ける。
リース商会特性のインクで書かれた手紙を読み進めていくヴィンセール。
『ヴィンセール様へ
…………
レイジと銀孤と呼ばれる冒険者の殺害もしくは監禁を。当商会の助けが必要なら、自由に使ってくれ。その後、メイリィと呼ばれる少女を私の所へ連れてきてほしい。
リースより』
「くっくっく。そうかリースの奴。俺の力が必要と来たわけか…… レイジめ……! 思い知らせてやろう!!!」
ヴィンセールはおもむろに立ち上がり、本棚へと向かった。
本棚の本をいくつか引っ張り出すと、何かが地響きを上げはじめると同時に、本棚が動き始めた。
鈍い音を響かせ振動しながら本棚がその場をどくと、豪華絢爛な装飾が施された扉が現れた。
ヴィンセールはドアに手をかけ、ガチャリと音を立てながら扉を開けた。
そこには空気が歪むような、邪悪な気配を感じさせる腕輪が置かれている。
「くくくっ、呪われた腕輪を使う日がくるとはな……。遥か昔、神々の迷宮で持ち帰られたというこの腕輪で、あの憎たらしい小僧どもをわからせてやろう……!」
ヴィンセールは、口角を吊り上げて高く笑う。
奇しくもその表情は、リースと同様のものであった……
◇◇◇
レイジと銀孤は宿屋に戻り作戦を立案していた。狭い宿ではあるが、作戦会議には十分。
机の上には、ギルマスからもらった地図やリース商会の情報を広げ、銀孤と相談を進めている。
「ギルド長から俺達の所に話が来るということは、リース商会に目をつけられていると見るべきだろう。速やかに商会に忍び込んで、証拠をあげたのちにギルド長へ持っていく必要がある」
「そんなもん、さっさと片付けた方がええと思うよ。強行突破が早いやろなぁ」
銀孤は着物の腕をまくりつつ、力こぶを作る。
といっても腕は細く滑らかだ。白銀を落としたような肌の美しさだが油断してはいけない。魔力を通して強化した銀孤の腕は怪力無双なのだ。
「その通りだな。ギルド長が話を持ってきているということは、物事が動いている可能性が高い。巻き込まれたというやつだな。それにメイリィは、叔母さんの不正なお金の場所を知っているといっていただろう? メイリィのことを考えても、速やかに行動に移すべきだし、強行突破がいいかもしれない」
「それなら今晩にでも侵入するとして、どうするん? 鍵もかかってるだろうし、簡単には商会の本店には入れんやろ?」
「問題ない。正面突破だ。商会の本店だから閉まってることはないが、警備がいるだろう。警備の目を盗みながら本店に入る。リースがいたら脅して証拠を巻き上げる。縛り上げて終わりだ」
「単純な作戦やなぁ。まぁ失敗しても、ウチがその辺の冒険者に捕まる訳もないし、迷いの森で過ごすのもいいかもしれんね」
銀孤はレイジの作戦に同意を示す。銀孤は人の世を知らない。トラブルは力で。それが群れに生きる妖狐の定めであった。
レイジとしてはもう少しスマートな作戦を立てたかったが、実際は正面突破が早い。力があるなら力押しが最もシンプルなのだ。
それにリースは間違いなく違法薬物を取り扱っているとい確信しているため、侵入して本人の口を割らせた方が早い。商人は賢いことをレイジは良く知っていて、簡単に証拠は上がらないとみているためだ。
仮に失敗したとしても、本気で逃げればレイジも銀孤も街の警備に捕まることはない。そうなれば素早く逃げてしまえる。ギルド長も、流石に正面突破に失敗すればレイジ達をかばえないだろう。
ついでに一緒に逃げれば駆け落ちになるわけで、それはそれでロマンがあるかも、と心の算盤を叩いていた。レイジは実利主義なのである。
(さて……、銀孤との同棲に向けて頑張りるかな!)
レイジは心の中で気合を入れた。
必ず完結させます。




