37.風呂付で一軒家
そんな折に、部屋に入ってくる人物がいた。ギルドマスターのメイスである。
レイジ的な評価で言えば誠実でありながら世渡り上手という印象である。ヴィンセールの対応から考えると、信頼はできる人物である。
「やぁレイジ君。少女の様子を見に来たんだが、大丈夫そうだな。実はメイヒの家が燃えたことについて相談がある」
強面のギルドマスター、メイスが顔を顰めて言った。近場の椅子に座り込み、一方的に話し始めたので、レイジと銀孤は黙って聞くことにした。
「メイヒの家が燃えたのは、違法薬物を横流しして、裏組織に燃やされたものだということがギルドの調査で分かった。しかしこの裏組織、ギルドにも顔が利くようで、違法薬物を売りさばいている。ギルマスとして恥ずかしい話だが、彼らに手が出せないんだ。そこでレイジ君、君の出番な訳だ」
レイジはそれを聞いて、「あ~」と嘆息した。メイヒの家の燃え方は明らかに常軌を逸していた。火の回りが早すぎるし、ギルドの調査で出火原因も不明というのも怪しかった。
どうやらギルドマスターとしては、レイジ達の腕を見込んでこれらの事件の調査をお願いしたいようだ。
「つまり俺らにそれを調査して、可能ならば壊滅させろってことかな?」
「その通り! 金色の万能薬を調達してくる腕前! 妖狐である銀孤君! どうかこの街に巣くっている悪を退治してくれないだろうか」
レイジは逡巡する。カブルポートは活動拠点として住みたい場所でもあるし、港町で良い場所なのだ。そんな所で薬の売買を見逃したくはない。ただ危険な依頼であることには間違いないし、報酬も確認しなければ安請け合いはできない。
「流石に危険だろう? 難易度の高い依頼だから報酬は奮発してもらいたいし、成功の保証もできないぞ」
「それは勿論。だが大丈夫だとワシは思う。人を見る目には自信があるんだ。報酬だが、ギルドに空き家がある。ギルドが接収した建物なんだが、住む人がいなくてね。これを土地付きでプレゼントしたい。どうだい、新居に? ワシとしては、あそこの風呂は広いし住みやすいと思うぞ」
ギルマスはレイジと銀弧を交互に見て、報酬の説明をする。銀孤はそれを聞いて狐耳をピンッと立てた。レイジとしても、空き家をもらえるというのは破格である。Aランク級の仕事を多くこなさなくてはそれの報酬はでるまい。
「レイジはん、うちらで受けよう。家があるって、とっても良いことや」
そんな安請け合いな…… とレイジは思ったが、ここでレイジに電流が走る。
まて、一軒家ということは風呂がある。つまり銀孤と一緒に風呂に入れる可能性だ。
銀孤と一緒に風呂に入ることを考える。モフモフの狐耳が水を吸って髪の毛から水が滴る銀孤。美しいプロモーションを独占して……
◇◇◇
「レイジはん~! 一緒にお風呂入ろっ❤ ウチがお背中流してあげる❤」
水気を含むタオルを体に巻いた銀孤を想像する。綺麗よりのお乳にピタリと張り付くそれは柔らかな印象を与えてきて、スラっとした銀孤のスタイルを強調するように張り付いている。さらにタオルで隠された体だが、太ももは絶妙に見え隠れしている。
「んもぅ、レイジはんたらまた緊張してもて! 大丈夫やで。ウチとレイジはんだけしか、ここにはいないから……❤」
ハラリとバスタオルが床に落ちて……
◇◇◇
「分かりました。カブルポートの平和のためにその依頼を受けましょう。ただ何か手がかりはありますか?」
レイジは美味しい妄想をしたため、即断した。できる男は即断即決なのだ。
後にギルドマスターは語った。あれほどやる気のある顔を見せたのは初めてだと。
とてもキリリとしていたそうだ。
レイジが都合の良いことを考えていると、メイリィが口をはさんだ。
「私、知ってるわ。メイヒ叔母ちゃん、悪い人と付き合ってた。リースって名前の人だよ。悪いお金を隠したりしてたし、私はその場所を知っているわ」
「お嬢ちゃん、ありがとう。リースか、リース商会の会長だな。確かにあそこは黒い噂が絶えないが……、なるほど。薬の悪巧みか」
リース商会の黒い噂にはギルドマスターのメイスも聞き及んでいたらしい。十中八九、リース商会の仕業だろう。
「それなら、私達で商会に侵入して証拠を押さえましょう。身柄はギルドマスターに引き渡すということで」
「ん、それは良い考えだ。ではそれで行こう。少女の方は私の方で保護しようではないか」
話は決まった。では悪役退治と行こうか。




