36.リースの悪巧み
「リース様! 言われていた通りメイヒの隠し財産を捜索しましたが、何も出てきませんでした!」
リースは柔らかそうなソファに座りながら、顔にキュウリを載せていた。キュウリパックと呼ばれる美肌法らしいが、効果があるのかは不明だ。
「ならあの屋敷に住んでいたのかな? メイヒ以外にだれかが」
キュウリパックを手に取り、そのキュウリを部下の頭にのせながらリースは報告を待った。部下は眉一つ動かさずに、頭の上にキュウリパックを載せられる。少し頭の毛が抜けだしたリースの部下であり、毛が薄い所にキュウリを載せたのはリースの優しさ故だろうか。
「はっ、調査させていただいた結果、メイリィという少女がいたようです。火事にまかれたそうですが、冒険者に助けられたらしく、ギルドの保護に入っているようです!」
リースは指で顎をかきながら部下の話を聞いた。
とはいっても、目線はキュウリパックが乗せられた頭の上だが。
「その子だな、金を持って行ったのは。隠したんだろう、どこかに。誘拐は簡単か?」
「はっ、追加でご報告します。少女を保護したのは二人組の冒険者です。ヴィンセール様に深手を負わせ、底知れぬ実力者と呼ばれ始めている腕利きの模様。ギルド長の保護も入っており、我々単独では難しいかと思います」
「ははは、ヴィンセールの腕を落とした冒険者だね、間抜けなヴィンセールの。さらった女に私の薬を使う彼は、私に恩義がある。誘拐しろ、少女を。借りるといい、ヴィンセールの力を」
リースは傍に置いてある羊皮紙に文章を書き始める。内容はヴィンセールにあてた、少女の誘拐への協力依頼である。頭にキュウリを張り付けた部下にそれを渡して、次はレモンを顔に張り付けだした。
「はっ、承知しました。それでは」
カカッと踵を返した部下には目もくれず、レモンパックを楽しむリース。その笑みはやむことがない。
◇◇◇
一方、「これからどうしたいか」をレイジに問われた少女メイリィ。
少し逡巡した後、口を開き震える声で答えた。
「私は……、何をしたらいいか判らない……。だからもう少し考えてみたい」
少女メイリィは素直に自分の気持ちを告白した。憎い叔母が急に亡くなったとは言え、目の前にいるレイジ達のことをよく知らない。人が良さそうな感じはするが、しかし起きてすぐに返事をするというのは少女にはあまりに難しい出来事だった。
叔母のメイヒだって、引き取りにきた日は笑顔だったのだ。引き取られてすぐに豹変して、メイリィはレイジ達もそうなるのではないかと、頭に心配がよぎった。
「うん。無理をする必要はないよ。ゆっくり考えてみてね」
レイジは少女の頭を撫でながら、笑顔を見せる。大人の視点で聞いてしまったが、目の前の少女は年端も行かない。難しいことをきいてしまったかなと内心反省するレイジである。
「正直に言えて偉いね。ゆっくりと心の声を聴いてみて、考えてみてね」
一方銀孤はと言うと、少女の台詞に感心し、此方も頭を撫でた。こんな時、無理を言ったり何も考えずに答えたりしてしまうものだ。しかし聡明なメイリィは良く考えてみたいと答えた。メイリィ自身の思いを整理する時間がなかったことに気づいた銀孤は、彼女のよく考えた思いを聞いてみたいと考えて、そして頭を撫で続けた。
メイリィは二人の手によって頭を撫でられるも悪い気はしない。そういえばこんな風に撫でてもらったのはいつぶりだろうと考えて、人肌の柔らかさを思い出した。
撫でられると髪の毛が絡み付いていくが、それも悪い気はしない。二人の手から優しさが何故か伝わってきて、人の善意というものに久しぶりに触れた気がした。
亡くなった母が撫でてくれた以来であり、心が穏やかに落ち着いていくのがわかる。しばらくこうしてほしいと思いつつも口には出せなかった。しかしレイジと銀孤は黙っているメイリィを延々と撫で続けて、それがとても嬉しいメイリィであった。
少し不定期になるかもしれませんが、頑張って投稿していきます!
終わりまでお付き合いいただけると幸いです。




