35.メイリィ復活!
レイジと銀孤はアンフィルに金色の万能薬を渡した。
アンフィルは呆れたというような声でつぶやいた。
「ほ、本物ですね。金色の万能薬を持ってくるなんて。どこで入手してきたんですか? 常備薬としてもう少し仕入れたいですよ……」
「本物だよ。とは言っても貴重品でいつでも入手できるわけじゃない。俺が手に入れてきた薬だし他言無用で頼む。それよりメイリィの容態は?」
「安定してますよ。さすが金色の万能薬といった所です。顔色の血色がよくなってますし、すぐに目を覚ますかもしれませんよ」
レイジは横目で銀孤の様子を見た。ほっとしたように深く息を吐いて一安心といった表情だ。こんな小さな子にまで優しいというかお人好しなんだと思わされる。しかし子供に優しいということは、子供を作っても楽しく過ごせそうだ。
銀孤との子供かぁ、とレイジは見ぬ子どもと三人で手をつないで外を歩く景色を妄想する。幸せの絶頂というような気持でいっぱいになりそうだった。レイジは気が付かないが、銀孤のお腹をじっと見つめてしまう。妄想力の逞しい五十台であった。
「お、お姉ちゃん? 私、家が燃えて…… それでっ!?」
体を起こし、サァーっと血の気が引いたように声を失う少女メイリィ。
どうやら体は無事なようだが、火事の記憶がフラッシュバックしているらしい。両手でその小さい体を抱え、ブルブルと震えている。
銀孤がメイリィの頭を柔らかく撫でると、メイリィは困惑したような顔になる。
「よくお聞き、君の家は燃えてもた。通りかかったうちらが、燃える家から救助したんや。それで治療の甲斐あって、こうやって意識が戻ったんや。残念ながらおうちの人は亡くなってしまったんや」
それを聞いたメイリィは、息を吸って、顔を膨らまし目を大きく見開いた。
「それって本当? 私、メイヒ叔母ちゃんと二人で住んでたの」
冷淡な声でボソボソと呟くメイリィ。
「本当だよ。火事の家から老婆と思われる女性の遺体が発見された。燃えた理由はよくわからないらしいが……」
レイジは火事の後始末の情報をギルドから入手していた。不審なのは火事の出火原因が不明という点だ。木造で作られた家は火の回りが早い。だいたい火が付いて15分もすれば全燃と呼ばれるほどに燃えてしまう。しかし出火原因というのは、燃えカスから判断が付きやすいものである。しかし、出火原因不明。放火なのかさえわからないと調査隊は言ってきたらしい。
「そう、なの。メイヒ叔母さんが……」
レイジと銀孤の話を聞いたメイリィは、火事の話を難なく飲み込んだらしい。しかもその顔には、笑みが浮かんでいるようにさえ見えた。レイジは、メイリィは親族である叔母を嫌っていたのだろうと当たりをつけた。日常的な虐待を受けた体、住んでいるのは叔母と二人きり等となれば、当然の帰結だ。そしてそれは珍しくないことでもある。
「で、君はこれからの身寄りがなくなった。ギルドの孤児院を紹介するが、君はどうしたい?」
レイジは本題を切り出す。病床から起きたばかりの少女に聞くことではないことは承知しているが、人生とは決断の連続だ。どうしたいか、これが少女にとって最も重要なことで、心のままに言えるチャンスは今しかないとも考えていた。
「私は……」




