34.金色の万能薬ゲットだぜ!
「お? お~ん? ん~~~~~? なんだか懐かしい魔力反応だね。もしかしてレイジか?」
ファンリエッタがレイジにそう問うと、レイジは苦虫をかみしめたような表情になる。この魔女、優秀なのだ。ダボったくて田舎臭い格好をしているが、しかし目ざといのである。百年たった人間を覚えているのだから。
「お久しぶり。そう、あのレイジだ。いろいろ訳あって、たずねに来た。事情は聴かないでくれると嬉しい」
レイジは頼むから察して何も聞かないでくれと無茶な願いを込めながら、ファンリエッタを見た。ファンリエッタは、とんでもないものを見たという表情をしていた。
「レイジ、死んだんじゃなかったのか」
そう、幽霊である。ファンリエッタからすると、レイジは百年前の人物なのだ。人間であれば死んでいる。しかも音沙汰なく消えたものだから、冒険に失敗して死んだものと思われていた。あのレイジが冒険で死ぬのか? とファンリエッタ的には思っていたので、ひょっこり顔を出しても不思議ではないが……。
「死んでないよ。俺が死ぬと思うか? 未練を残して」
ファンリエッタは、若返る前のレイジを知る珍しい人物でもある。傑出した強さと周到な準備をもって冒険を成功させ続けた伝説的な人物。ファンリエッタ自身、レイジに珍しい素材などを依頼したこともあり冒険の腕前を信頼していた。それに嫁がほしい嫁がほしいと煩かったので印象に残っている。確かに簡単に死ぬかと言われれば死にそうになかったが。
「まぁ、煩かったし。で、その横の女の子はなんや? まさかおまえ!?!?」
ファンリエッタは今度こそ信じられないものを見たという表情をした。
「銀孤です。レイジはんと一緒のパーティを組ませてもらってるよ」
ファンリエッタは銀孤をじろじろと見る。遠慮のないその視線は失礼にあたるものだが、銀孤もファンリエッタの様子がなんだかおかしそうだったので特に何も言うことはなかった。ファンリエッタは、銀孤の顔を見て、胸を見て、腰を見て、足を見た。
信じられないといった表情を百面相のように見せる。
レイジは、こいつこんなに表情豊かだったかなと思うレベルであった。
「マジか……。嘘だろ……。あのレイジに……、美人のおんなぁ?」
「失礼な奴だな。とりあえず要件をいう。金色の万能薬を調合してくれないか。卵はとってきた」
レイジは腰を抜かして驚いているファンリエッタに本題を切り出した。
「め、珍しいもんを見せてもらったから作ってやるが…… いったい何がどうなったんだ。いや、ワシも気を利かそう。聞かないでやる。中で茶でも飲んでろ」
◇◇◇
洞窟の中に案内されたレイジと銀孤はお茶をすすっていた。
調合自体はすぐ終わるものであるが、銀孤は少し不機嫌であった。当然ながら、きちんとした説明もなく、それなりに仲のよさそうな異性が出てきたからだ。ファンリエッタは女性を磨いておらず、何とも恋愛には無頓着そうではあったが、しかしそれでも面白くない。
「レイジはん、うちはなんも聞かんけどさ。あの子とはなんもないんやね?」
朴念仁であるレイジであるが、あまりにあからさまな態度の銀孤を見て気が付く。そう、嫉妬されていることにである!
「ファンリエッタとはそういう関係じゃない。俺は銀孤一筋だよ!」
レイジは銀孤のことになると周りが見えなくなる。この時もそうであり、語勢が強くなった。もちろん、ファンリエッタにも聞こえたようで、調合室から声が返ってきた。
「銀孤さん、その男とワシはなんともない。レイジに異性的な興味なんてないから安心しな!」
銀孤は頬を染めた。こういったことに、ファンリエッタ自身から否定の言葉が返ってくると、かえって恥ずかしいものであった。
「そういうことさ。ファンリエッタは研究以外に興味はない。俺も付き合うならもう少し女性的というか身だしなみに気を使った女の子がいいしね」
レイジが銀孤に弁解していると、ファンリエッタが戻ってきた。どうやら調合を終えたらしく、手にはガラス瓶にはいった金色に輝く薬があった。
「やかましいわ! ワシは研究に身をささげてるわ! ほらできたぞ! 一人分な!」
ファンリエッタはそれを机の上に置いた。その後、銀孤を見据えていった。
「銀孤さん、あんたの思うようなところは一切ないからな! ほら用が終わったら出てけ出てけ、また用があったらこいや」
ファンリエッタは手をちょいちょいとふり、出ていくように促した。ファンリエッタのそれは本当に出て行ってほしいと思っている所作であることを、レイジは知っている。
「ファンリエッタ、世話になった。ありがとう」
「礼なんて言わんでええわ。旧友が訪ねてきた、存外に嬉しいからな。よっしゃ、お前の結婚式にはよべや」
ファンリエッタが口角を上げてレイジに告げる。
レイジと銀孤は顔を真っ赤にしたことは言うまでもない。
帰り道、二人は顔が真っ赤であったらしい。




