33.魔女ファンリエッタさん
「で、この卵どうすんの?」
「渓谷の近くに調合専門の魔女が住んでいる。卵をもって依頼すれば作ってくれるはず」
レイジは持ってきた地図を広げ、とある地点を指し示す。渓谷の傍からそう遠くない場所で、徒歩で数日歩けば到着するような場所だ。
「へぇ、魔女。会ったことないけど噂には聞く種族やね」
魔女、それはとても珍しい種族である。いわゆる研究者気質の種族であり、各々がテーマを決めて研究に没頭しているといわれる種族。長寿であり、外界からの接触を嫌い、殆ど交流を持たない。妖狐は上級魔人のカテゴリにいる種族だが、魔女も同様にカテゴリされる強大な種族であった。
「かなり長生きしてるからね。あと結構面倒くさいよ」
レイジは若返る前の魔女を思い出す。俺に気づくだろうか。気づかれたらそれはそれで困るため、何とも難しい気持ちになった。それでも薬は作ってもらわなければいけないのだが。
「レイジはんの知り合いなん?」
「知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知らない。なんというか難しい関係なんだ」
レイジはごまかした。これはもうごまかす以外に手はない。銀孤もわかってくれるはず。
「まぁええけど。いつか話してよね」
銀孤はつまらなさそうにしながら、それ以上追及しなかった。レイジ的にはとてもありがたい。もう若返った話もしてもいい気はするが、しかし秘密を明かすのは勇気がいることだ。おじさんだと知られたら幻滅されないだろうか、その心配がレイジの勇気を遮った。
◇◇◇
渓谷を歩き続けて数日、レイジと銀孤は洞窟の前にいた。洞窟の傍には、ポストが置かれており、何ともちぐはぐな印象だ。
「ファンリエッタさん、おられますか~?」
レイジは声をあげて洞窟に呼びかける。返事はなく、洞窟からはレイジの声が反響して帰ってくるばかり。
「ファンリエッタさ~ん」
レイジはもう一度呼びかける。あの魔女は面倒くさがりであり、呼びかけ続けなければ出てこないからだ。洞窟の中で反響し続ける声を、魔女も無視し続けることもできまい。
「うるさいわね。聞こえてるわ。あんた誰よ?」
中からいそいそと小柄な女性が出てきた。紫のパジャマを着ており、埃っぽい。なんだか変な匂いもするし、決して清潔ではなさそうだ。
それは魔女、ファンリエッタであった。




