27.違法薬物と商人
レイジを追い返したメイヒは、新しく訪問した男を招き入れていた。
美味しいパンが食べたいという依頼に関することである。
「本当に困ったもんだよ。パンの依頼に、中途半端な冒険者が来たよ。あんな少額の報酬で、しかも下らない依頼を受ける冒険者がいたとは思わなかった」
レイジを追い返した老婆メイヒと若い男性が、密会していた。メイリィは扉の前に静かに立ち、メイヒ達の会話にひっそりと聞き耳を立てた。
「ギルドを通して依頼することで、正当化しているというのに。ところで、クスリの品質が落ちているようだが、どういうことかな?」
メイヒは何のことだと惚けたように返答した。
「なんのことだい? きちんと納品しているよ。リースさん、私は薄めたりなんてしてないよ」
男の名はリース、高価な商売正装を着込んでいて、スラリとした体つきである。
メイヒの返答を聴いたリースは音無く立ち上がり、メイヒの傍に立った。
「メイヒ、私はね。裏切者が嫌いなのだよ。あれは、純度が低い。つまり混ぜ物をしたということだ。隠しているだろう? 混ぜ物をして余らせた薬を」
聞き耳を立てたメイリィは顔を真っ青にした。昨晩、メイヒから受け取り必死に隠した袋。その中にはきっと…… このままでは命が危ないのではないか、何か危険なことをしてしまったのではないか……
そう思ったメイリィは音を立てずに、扉から離れていく。
「リースさん、あの薬物は違法性の高いもので、私が裁く術はないよ。もしそうだとしたら家に金があるはずだが、そんなものもない。探してくれたって構わないよ」
リースは弁解を始め、リースは無表情でそれを聞いた。何を考えているかわからない虚無の表情をするリースの瞳は、メイヒを射すくめた。リースは立ち上がりメイヒの傍まで近づくと、腰を曲げて屈み頬をペロリと舐めてから天井を仰いだ。
「私はね、超能力があるんだ。他人の嘘がわかる。メイヒ、残念だよ。売りさばいてしまったようだな。余らせたクスリを!」
リースがそう呟いた瞬間、玄関から激しい音が響いた。身の危険を感じたメイリィは、傍に置いてあったクローゼットに隠れた。殆ど本能的なものだ。
「おまえら、壊して殺せ!!!」
男が数人、勢いよく扉を壊して家内に侵入していた。
メイヒがマズいと直感して弁解の口を開こうとした瞬間、メイヒの意識は刈り取られた。リースがメイヒの首を掴み、その手で握りつぶしたのだ。
リースは力強くメイヒの首を握り潰した後、甲高く笑い声をあげた。
「はーっはっはっは! 裏切者には死を! 裏切りは血で償われる! おまえら、証拠を残すな! 燃やせ!!!」
リースの部下たちは、木造の家に油をまき始めた。木造の柱や家具に油が浸透し、独特の匂いが部屋に充満する。
「リース様、準備が完了しました! すぐに取り掛かれます!」
部下は背筋を正して報告したが、リースはその部下を殴りつけた。部下は黙ったまま殴られ、顔にあざを作りながらも姿勢を崩さない。
「声がでかくて煩い、私は繊細なんだ……」
リースは懐から煙草を取り出した。部下が傅いて煙草に小さな火をつける。煙を大きく吸い込んだリースは体を震わせ、天井を仰ぎみた。
「私は神だ」
そして目を大きく見開いて、さながら指揮者のように、手を大きくふって尊大に踊り、機嫌がよさそうに顔を蕩けさせた。部下と共に玄関まで踊りながら歩いたリースは、突然蕩けたような顔を引き締めて、真顔で言った。
「では撤収だ」
口角を吊り上げたリースは、口にくわえた煙草をポイと投げ捨てた。瞬く間に家に火が広がり、周囲に騒ぎが広がる中、リースとその部下は一瞥もせず悠々とその場を立ち去った。
「失望したよ、メイヒ。おしまいさ、信頼が失せた」
日曜日はお休み。
月曜日は短編作品を投稿するのでお休み。
火曜日に本作の続きを予約投稿済みです。




