23.お義父さん! お嬢さんを俺にください!
第二部、始まります!
「お義父さん、銀孤さんを俺に下さい!」
六畳一間の和室、畳に座り頭を下げるレイジ。
対面に座る男の姿勢は厳しく、険しい表情を見せる。
「人間なんぞにお義父さん等と呼ばれる筋合いはない!!! 黙れ!!!」
銀孤の父である。妖狐の里の腕利きが脇を固めており、穏やかな雰囲気ではない。里の者達はレイジに容赦なく非難の目を浴びせ、殺気まで感じさせるものもいた。
レイジは極力気にしないようにしながらも冷や汗をかいた。しかし当の本人の銀孤はニコニコと笑いながら、涼し気な顔だ。
「わかっとらんなぁ。あんたがどう思おうと、うちの心はレイジのもん。あんたのことは嫌いやけど、それでも親やからな。報告だけしにきたんやで」
銀孤はピシャリと言い放つ。底冷えするような表情はレイジが見たことのないものであり、何だか恐ろしい。
「おまえは金狐家に嫁がせると決まっている。家出したと思えば、どことも知れぬ人間の男なんぞ連れて来よって。おまえがそんなに愚か者だとは思わなかったぞ」
銀孤の父親はというと、娘の一瞥を正面から受け止め、表情をさらに硬くした。
銀孤家の事情をある程度は把握しているレイジとしては、仕方のないことなのかなと鷹揚な態度を貫く。
「了承なんてもらいに来てない。レイジ、帰るよ。義理は果たした」
銀孤がレイジの腕を掴み立ち上がると、襖の出口は里の若者たちにふさがれていた。
レイジは内心ため息を付きながらも、こうなるのかとあきらめ気味である。
レイジ達の行く道をふさぐ者達は、どれもが腕に自信がありそうな笑みを浮かべていた。
「人間よ、銀孤お嬢様に手を出して帰れるとでも?」
里の者がレイジを強く威圧した。
そこには侮蔑を含んだ、とても強い感情が含まれている。
そしてレイジは顔を真っ青にして、叫びあげた。
「誓って、婚前なので! 手は出していません!!!」
◇◇◇
「はっ!?」
レイジは陽気な朝日を浴び目を覚ました。背中はぐっしょりと寝汗でぬれており、銀孤と恋仲になったのはつい先日のこと。
「妙にリアルな夢だった、結婚交渉の夢とかヤバすぎるだろ……」
夢だと自覚したレイジは途端に頬を朱に染めて呟いた。あまりにも自意識過剰である。
付き合って数日、だというのに、五十を超えた大人が見るような夢ではない。
レイジとしては、可愛い銀孤のことだから、結婚までこぎつけたいと本気で思っている。それにしても夢にまで出てくるとは、自身の結婚願望の大きさを自覚するばかりである。
こじらせると恐ろしい、われながら……とレイジは自省する次第である。
「十代の子供以下だな、俺は」
そうニヤリと口角をあげた。とても恥ずかしいが、そこに虚しさはない。
若返る前は埋めることの出来なかった、単身でいる孤独さ。どうしようもない閉塞感と孤独さは決して埋めることはできなかったはずだ。
しかし今は、銀孤がいる。
もう一人ではない。
「銀孤ともっと仲良くなりたい」
そう心から願うレイジであった。




