22.新しい一日
レイジは寝不足だった。とても寝不足だ。
昨日、銀孤と思いを伝えあって、寄り添った。とても幸せな結末だ。
しかしレイジは、筋金入りの独身。あんないい雰囲気でも手が出せるわけもなく。
「レイジはん、一緒に寝る?」
「銀孤、すまん。俺にそこまで度胸はない。君の事は好きだけど、それはもう少し待ってほしい」
「アハッ、知ってる。今日うちを抱こうなんて欲張りもいい所や。うん、でも一緒の布団で寝よ。恋人を床に寝させられへん」
レイジの心境は、いかほどか。
レイジは泣いていた。嬉しくて。で、一緒の布団に入ると温かい。
それに銀弧からはいい匂いもする。レイジには辛抱堪らなかった。
ああいった手前、手を出すわけにもいかないので、レイジは必死に戦いました。
銀孤はレイジが手を出さないのかとそわそわしていたが、なんとなくレイジが手を出さないだろうと思っていた。
しかし、それがまたレイジらしいなとほっこりとしつつ眠りに落ちた。
二人にとって、最も穏やかで新しい人生が始まる。
◇◇◇
レイジが朝目覚めると、銀孤が紅茶を入れていた。
銀孤に緊張してしまい、寝るのが遅くなってしまったので寝坊気味だ。
そしてレイジにとって、たくさんの”初めて”を体験する朝が始まった。
窓からは晴天の光が差し込み、少し湿気のある港町特有の風を感じる。
また部屋にはギルドマスターからの差し入れの紅茶の匂いが充満していて、それがレイジにとってとても新鮮だった。
朝起きたら、恋人が何かをしている。もぞもぞとカップを用意している銀孤の背中がとても愛らしい。その姿を見て、レイジは昨日のことが夢でないことを確認し、そして心の中から幸せな気持ちでいっぱいになる。
「おはようやね」
銀孤が此方に気づいたようで、はにかんでいた。今にも歌でも歌いそうなほど伸び伸びとした態度で、そして何より銀弧の顔がまぶしい。それは銀弧の髪は朝日を反射し、まるで天使のような輪っかが見えた。
レイジはそれを見て、「天使だ」と、口を滑らせてしまう。
「うちが天使なら、レイジさんは勇者やね。天使は勇者に寄り添うやろ」
そういって銀孤はレイジのベットの隣に腰かけた。レイジの鼻孔に銀孤のリンゴのような甘い匂いが突き抜けた。
ベットがキシリと音をなり沈み込む。するとレイジと銀弧の距離が縮まり、肩が当たった。銀孤の方は柔らかく、そしてガラスのように繊細だった。
レイジの顔はだらしなく蕩けており、レイジ自身もふわふわとした感覚を味わった。ふわふわしているのはベットなのだが、しかしレイジは天にもあがりそうな程浮かれていた。
恋人が傍にいるというのは、何と元気をもらえることなのだろうか。銀孤とならどこへでも行けそうだと、人生の素晴らしさをかみしめた。
人生でこんなに素敵な時間があったなんて。
「今日もギルドのお仕事やね。楽しみやわぁ」
銀孤が何んとなしに言う。レイジは不思議でたまらなかった。レイジ自身はこんなにも浮かれているのに銀孤はいつもと変わらない。いや少し違う雰囲気を感じ取るが、それでも浮かれたりはしていない。
普段通り振舞う銀孤が、それがまたとても美しく感じた。
よってレイジも、浮かれてばかりはいられないと身を引き締める。
「とりあえず今日もギルドで、依頼を受けようか」
レイジと銀孤の新しい一日が、また始まった。
第一部完結です。
本当は終わるつもりでしたが、続きが書きたくなりました。
第二部を構想して書き溜めたら、連載していこうと思います。
活動報告も上げますので、興味のある方は是非ご確認ください。
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二部の参考にしようと思います。
ここまでできたのも皆様の応援のおかげです。
心から感謝を伝えます。
ありがとうございました!




