表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/38

21.甘い空気を感じる


 レイジ達はギルドを後にして、そそくさと宿屋へ向かった。

 いつもの気の良いおっちゃんが出迎えてくれる。


 「おうおう、兄ちゃん達、最近仲良しじゃないか。いつも一緒だぜ」


 レイジはこうやって揶揄われるのは嫌いではなかった。しかし今日はひどい日だったと思い返す。銀孤との関係を整理する必要があるな。そうレイジが一考していると。


 「そうなんよ。うち、最近楽しいんや。この宿もええ宿やしね。他の部屋は間違ってもあいとらんよね?」


 「ハハハ、全然空かないぜ。この宿屋も儲かってるもんだ。空き室なんてでない。悪いが一緒の部屋に泊ってくれ」


 「それならええんよ。レイジはん、行きましょ」


 銀孤は何だかご機嫌だ。レイジはヴィンセールの出来事で、銀弧に嫌われていないか心配だったか、杞憂で済みそうと感じ、心の重荷が取れた。


 レイジ達は部屋に戻り、テーブルに座る。ここの宿屋にも慣れたものだ。

 さて、銀孤に何て声をかけるか悩むな。そうレイジが考えていると。


 「レイジはん、今日はありがとうなぁ。うち、嬉しかった」


 銀孤が、少し縮こまったように声をかけてきた。照れているのだろうか。


 「いや、アレはひどかった。つい怒ってしまったんだ。銀孤は、あんなこと言われて大丈夫だったかい? 俺もやりすぎたかもしれない。もう落ち着いた?」


 銀孤はヴィンセールにひどい事を言われた時、とても動揺していた。だからこそレイジも怒ってしまったのだ。


 「えぇ、おかげさまで。落ち着いたよ。うちな、嬉しかった。レイジはんがうちの事、大事に思ってくれてるんやって」


 銀孤がとてもしおらしい。いつもと違う雰囲気にとぎまぎしてしまう。


 「それはまぁ、大事な仲間だからな」


 「うちは確かに仲間や。でもレイジはん言うてくれた。ウチのこと、レイジはんの女やって」


 レイジはとても恥ずかしい気持ちになった。

 確かに、レイジはそう言った。だがアレはトラブルを避けるための方便な訳で……


 「確かに言ったけど、アレはそういう意味では……」


 「なぁ、レイジはん。ウチ、ほんまに嬉しかった。ウチが迷いの森に住んでた理由。教えるね」


 そうして、銀孤は語り出した。もともとの群れで暮らしていたこと。族長の縁談でトラブルになったこと。相手がろくでもない男だったこと。そして『迷いの森』に逃げてきたこと。最後に俺と出会ったこと。


 「うちは、妖狐の中でも優秀な妖狐やった。だから、縁談の話がいっぱいやった。でも誰もうちを見てない。見てるのはうちの魔力と血筋だけ。断り続けたけど、群れの中で子供を産む機械か何かのような扱いやった。だから逃げてきた」


 「大変だったんだな」


 レイジは、感慨深く銀弧の話を聞いていた。

 銀孤は、ヴィンセールに暴言を吐かれた時、過去の辛い気持ちを思い出していたのだ。

 それにしても、そんな話があったとは。確かに『迷いの森』とかに移り住んで、独りになりたくなるだろうとレイジは納得した。


 そしてレイジは、しんみりした雰囲気を察した。

 

 何だこの雰囲気は。

 甘い空気を感じるぞ。

 

 「レイジはん、今日の出来事でウチわかったんや。うち、レイジはんの事が好きや。惚れてしもた。レイジはんは、うちのことどう思ってるの?」


 なん……だと……!?


 レイジは思いっきり狼狽えた。

 いや、茶化している場合ではない。銀孤が真面目な顔をして、レイジを見つめている。

 はっきり言おう、レイジは銀孤の事が気になっていた。銀孤と冒険するのは楽しいし、とても充実している。

 

 レイジは嫁がほしいと思って若返った。だから銀孤みたいな子に告白されるなんて、誰が思うのだろうか。もう返事は一つだ。

 ここまで彼女は言ってくれた。


 だからレイジも、覚悟を決めた。


 「銀孤、俺は君の事がとても気になっていた。君の事がとても。だからとても嬉しい。そしてごめん、俺から言うべきだった。今日の事で分かった。銀孤が傷つけられた時、はっきりとわかったんだ。君を好いている。俺と付き合ってくれ」


 レイジは言った。人生で初めて。女性に好きだと言った。

 心臓が跳ね上がりそうな程緊張していた。

 レイジは、理想の女性に好意を寄せられたのだ。美人で、お姉さん気質で、優しい銀孤。この瞬間、レイジは銀弧がとても愛おしく感じた。


 レイジと銀孤は、じっと見つめ合った。もう言葉はいらないのだろう。

 野暮なことは言えない。いや、言葉なんて不要だ。

 

 銀孤の顔が近い。お互い赤くなっているのがわかる。

 

 レイジは冷静に分析して、そして失敗した。

 あまりにも、恥ずかしい。でも悪くない。


 下目使いに銀孤がこちらを甘えるようにレイジを見た。

 そして唇を尖らせた。

 

 いかに女性経験のないレイジでも察した。

 

 これは、あれか! いいのか! キ、キスしていいのか!

 この空気、やるしか……、ないのか!?


 レイジは意を決して銀孤の腰を引き寄せた。その感触はとても柔らかく、レイジに電流が走った。

 銀孤は目をつぶる。彼女の唇に向かって、俺の唇を軽く触れさせた。

 

 何もかもが初体験。

 刺激的で、でも優しくて。


 レイジが顔を離すと、銀孤がニッコリ笑う。

 レイジはもう、口を動かす事も出来ない。


 「レイジはん、改めてよろしくや。ウチ、レイジはんの女になるよ」


 うわああああああ!!!


 レイジは今にも死にそうだった。

 

 何て恥ずかしくて脳天が蕩ける台詞だ。

 俺の女…… 男性としての自尊心が刺激される。

 

 「銀孤、好きだ」


 「ウチも」


 何だこの甘ったるいやりとりは。

 レイジは困惑した、自分がこんな甘いやりとりをするとは思っていなかった。

 

 あまりに恥ずかしくて、でもこの心地の良い雰囲気を堪能していた。

 その時、コンコンと部屋をノックされた。


 「なんや、ええ雰囲気やのに。タイミングの悪い」


 「あ、あぁそうだね。はいはい、何でしょうー?」


 レイジは内心、ホっとしていた。アレ以上あの雰囲気に耐えられそうになかった。

 それに、一緒のベッドに入るなんてできるわけない!!!

 銀孤を大事にするんだ!


 「ギルドマスターから贈り物だ。迷惑をかけたとの事だ。二人で飲んでくれだと」


 受付のおっちゃんだった。どうやらギルドマスターが、本当にお詫びを用意してくれたらしい。

 やはりギルドマスター、気が利いている。中身は紅茶の茶葉のようだ。


 「あぁ、そんな事いうてたね。まぁ時間はたくさんあるしなぁ。折角や、一緒に飲みましょレイジはん」


 そうしてレイジは、一息つきながら銀孤と紅茶を楽しんだ。

 はっきり言って、女性経験皆無のレイジには、刺激的なやり取りすぎたのだ。


 だが、冷静に考えてみると、これはこれで恥ずかしい。

 紅茶を何とか飲んでみるが、銀孤の顔を見るたびに顔が赤くなるのがわかる。

 

 うむ、味が全然わからん。


 銀孤は銀孤で、レイジの様子を面白がろうとしているが、やはり赤くなってるのがわかる。

 

 その様子を見たレイジは、あまりの可愛さに昇天しそうになる。

 離しそうになる意識を何とかつかみ取る。


 可愛すぎるだろう。ヤバイ。


 そうしてレイジ達は、宿の狭い部屋で、一晩を過ごした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] びゃぁぁぁ甘いぃ! 余計な茶々入れて(紅茶だけに)雰囲気壊すギルマス、そこに痺れぬ憧れぬぅ!
[良い点] ヒューヒューですなぁ。 [気になる点] 異世界恋愛ものなら、ここからがスタートですが……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ