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17.とっとと別れるんだな。手切れ金をもらってな!

 レイジ達ははランクを上げるため、依頼を順調にこなしていた。迷宮へ行くには、Cランクが必要だ。迷宮は時折生成され、その情報はギルドが独占している。Cランク以上の冒険者は迷宮探索に出かけて、生計を立てる必要がある。

 

 「ランクが低いのもあるかもしれんけど、簡単な依頼ばかりやねぇ。」


 「いや、結構大変だっただろう。この『レアな魚が食べたい』なんて中々釣れなかったし。釣竿で待ってるだけの仕事ではあったけど」


  レイジ達は、Eランク依頼の『レアな魚が食べたい』のミッションをおえて、ギルドに報告に来ていた。港町ならではの依頼なのだが、街の防波堤では中々釣れなかった。 


 釣竿を垂らしている間はレイジと銀孤は二人きりである。レイジは一方的に緊張してしまい、目も当てられない時間だったと、レイジは振り返る。

 しかしそれでも、銀孤との時間は楽しいものだった。 


 「順調に依頼をこなしてますねぇ。《愛でタイ》なんて珍しい魚、よく釣りましたね。この魚は、出会いの象徴と言われてるお目出度い魚なんですよね~。報酬は10000メルです。あら、報酬袋のお金が無くなってる。報酬を取ってきますね。その間、他の依頼でも見ていてください」


 ギルド嬢は依頼の報酬を取りに行った。そろそろDランクへと上がりたいところだが、ランクはすぐには上がらない。俺と銀孤は明らかにランク詐欺ではあるのだが、まぁ実績がないので仕方ない。こうして日頃の依頼を地道にこなしていくだけだ。


 さて、次はどの依頼にしようか。

 もう少し上のランクの依頼にはワイバーン討伐とか、面白そうなものがあるのだが。

 銀孤もどの依頼にしようか悩んでいるようだ。低ランクの依頼はだいたいこなした。

 

 丁度いいものを探している最中、問題が起きた。


 「そこの女。おまえだ」


 後ろから声が聞こえる。何とも偉そうな声だ。

 レイジの胸中は、関わると碌でもなさそうな予感でいっぱいになった。


 「銀孤、何か面倒臭そうだ。無視するぞ」


 カツカツと足音を立てて、その足音は段々と大きくなっていく。どうも近づいてきているらしい。


 「女、おまえの事だ。俺が呼んでいるのに応答しないとは何たる無礼だ。だがその美しさに免じて許してやろう」


 とうとう無視できない段階まで来た。明らかに面倒そうな手合いなのだが、どうも避ける事はできないらしい。


 「……、うちに何か御用です?」


 銀狐が非常に嫌そうな顔をしていた。トラブルというの往々にして面倒くさいものだ。それが明らかな場合は特に。そこには、高級な鎧で着飾った三十代の男性がいた。

 軍事系の貴族だろうか。身のこなしはそれなりに優雅である。


 「おぉ、おまえが最近噂の女か。近頃ギルドに美しい女が加入したと聞いてな。噂にたがわぬ美貌だ。喜べ、俺の妾にしてやる」 


 「えぇ……」


 貴族っぽい男が、ベラベラと得意げに話しているのはいいのだが、いきなり妾にしてやるはないだろうとレイジは呆れてしまう。


 「えぇと、何のことでありんす?」


 銀弧も、信じられないものをみたような目線をして、貴族の男に応対していた。


 「物わかりの悪い女だな。これだから女というものは。もう一度言う、俺の妾になれ。俺に奉仕できるのだ、喜ばしい事だろう」


 オイオイオイ、本当にこんな奴がいるのかよ。銀孤の表情が一瞬抜け落ちたのが分かった。


 「バカにせんといて。それが女を口説く態度なん? 気ぃわるいわ」


 「ほぅ、中々気が強い女だなぁ。余計に気に入ったぞ。おまえみたいな女を無理やり服従させた時が楽しみだ。うむ、今の言葉をよく覚えておけ。俺に屈服した時、良いスパイスになるだろう」


 貴族っぽい男は邪悪な笑みを浮かべて、銀孤を嘗め回すように見た。

 レイジは理解した、アレは下心どころではない。もはや、都合の良い道具を見ているような視線だ。俺も怒りが湧いてきたので、銀孤に助太刀する。


 「おう、待てよ。おまえが誰か知らんが、俺の女に何しやがる」


 つい、レイジも、俺の女なんて言ってしまうが、この場合はこれが正解だと考える。正直、恥ずかしいのだが、こういう手合いは男がついていれば諦めるもの……だと思うからだ。

 レイジは後で銀孤に謝っておこうと胸中呟きながら貴族っぽい男に対応した。俺の女なんて嘘っぱちだし、まだそこまで関係が進んでないし。


 「ほぅ、貴様がこの女の男か。では、別れろ。そうだな、駄賃に500万リンをやろう。貴様みたいな貧乏男には手に入らぬ金だ。こんな良い女、貴様には勿体ない」


 この男、一体何なのか。流石に言葉が通じていない。この傲慢な態度、日頃なら苛立って仕方がないが、度を過ぎると呆れてしまうらしい。


 「バカな事を言うなよ。銀孤は俺の女で、金で渡すような女じゃねぇ」


 「ふん、大人しく従って居ればよいものを。俺が誰だか知らないのか?」


 貴族っぽい男は、見下したようにレイジを見た。

 どうにも値踏みされているらしいとレイジが気が付くと、ギルド嬢が戻ってきてた。

 一万リンとレイジ達のギルドカードを持って。


 「ハハハ、何だ貴様。Eランクの冒険者か。ド底辺もいい所だな。なるほど、俺の事を知らんのも納得だ。おい、ギルド嬢。俺の事をコイツに説明してやれ」


 貴族っぽい男はギルド嬢を見て、またもや面倒くさい事を言っている。ギルド嬢はというと、汚物を見るような表情に一瞬だけ見せた。すぐに取り繕い、何とか笑顔を作っているような印象だ。


 「これはこれは、ヴィンセール様ではありませんか。当ギルドへようこそ。レイジさん、この方は由緒ある貴族の方で、ポートカブルの軍事総帥です。この街の千を超える軍隊を統括しておられる方、そしてBランク冒険者でもあります」


 「そういう事だ、貴様のような男は本来俺と喋る事さえ許されぬ。俺の事を知らなかったとはいえ、死罪に値する。だがそこの女を渡せば忘れてやろう。500万リンの金も貴様にやる」

 

 レイジはそのセリフを聞いて冷静に現況を分析する。

 権力者様か。若返る前にも、このように横暴を振るう者はいたが、人の世は変わらないということだろうか。


 困ったものだな。 


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