16.朝帰り、ねぇ。
「おう、朝帰りか?」
宿屋のおっちゃんが、ニカっと笑っていた。どうも、レイジと銀孤の関係を勘違いしているらしく、デートの帰りだと思っているらしい。
そうだったら良いんだけどなぁ。ほろり。
レイジ的には涙が出そうだった。
「そうでありんす。彼ったらすごくてねぇ」
「いや、そういう訳じゃないから。ギルドの依頼を受けてきただけだからね? とりあえず現金が用意出来たから、剣を返してくれ」
「兄ちゃん、遊ばれてるなぁ。それはそれとしてもう稼いできたのか。儂にはよくわからんが、アレは良い剣なのだろう。大事にしてやれ、こんな宿屋に質に入れたら剣が可哀そうだぜ?」
その通りなので、面目ない。俺は銀孤に見栄を張ってしまったのだから。
レイジはそう反省した。
レイジは宿屋のおっちゃんに宿泊代を渡し、預けた剣《雪月花》を返してもらう。
「良かったねぇ。レイジはん。その剣取り上げられたら、うちも申し訳ないわ」
レイジとしては、勝手にした事なので、別に銀孤が申し訳なく思う必要もないと思うが、しかし気遣いが嬉しかった。
レイジとしては、一件落着である。あとはギルドで日銭を稼ぎながら、銀孤と仲を深めるだけだ!
ダメだったら、結婚相談所に行こ……
レイジはそんなことを考えながら、銀孤と部屋に戻った。おっちゃんに部屋が空いたか聞いてみたが、余剰な部屋はないらしい。長期宿泊になりそうでもあるので、一つの部屋の方が宿屋としても都合がいいらしい。
仕方がないので、しばらくは銀孤と同室で過ごすことになるようだ。
「いやぁ、ギルド依頼をこなすのって楽しいねぇ。あんな風に目的をもって魔物を狩るって久しぶりやわぁ」
銀孤は手を伸ばし、背筋を伸ばしている。それなりにつかれたらしい。まぁ初依頼だから、精神的なものだろう。
「仕事ってのは元来楽しいもんだよ。実力が伴えば特にね。それにしても、銀孤が強くて驚いた」
レイジは、本当に驚いた。強いだろうとは思っていたが、かなりのものだ。魔法の力はこの国のトップクラスではないだろうか。あの繊細な魔法技術は、特筆すべきものがある。
「うちなぁ。魔法より近接戦闘の方が得意なんし。アレは、お遊びみたいなもん。まぁ、うちは強いからね」
「へぇ。あれでお遊びかぁ。すごいね」
あのレベル以上に近接戦闘ができるとなると脅威だ。全快した銀孤は、レイジと意外といい勝負をするかもしれない。
流石は上級魔人と呼ばれるだけある妖狐ということだろう。
「まぁね。じゃあうちは眠いし寝るよぉ。あっ、布団の中に潜り込んでくれてもええよ?」
「いや、絶対入らないから。そんな度胸ないから」
柔らかそうなもち肌もそうだし、サラサラした髪の毛だってそうだ。
良い匂いがしそうだし、少し暖かそうな体温だってそうだ。
銀孤の全てが、レイジを誘惑すること間違いないのだ。レイジにそんなもの耐えられるわけがない。
しかし下手に意識してしまったレイジは、もんもんとする夜を過ごすハメになってしまったのだった。




