15.農地を守れ!
「本当に合格しちゃったんですか。すごいですね」
受付嬢が溜息をついて感心していた。
「まぁ、何とかね。そんなわけでEランクのゴブリン討伐依頼受けさせてほしい」
「はぁ、仕方ありませんね。討伐内容の説明をしますね。街の東側の農家でゴブリンが湧いて困っているとのことです。これらを討伐してギルドに報告すれば終了です。討伐報告のやり方って知ってますか?」
レイジは勿論知っているが、銀孤もいるので確認を取るとしよう。
「モンスターの討伐証明。モンスターの頭とか体とか、《そうだとわかるもの》を持ってこればいいんだろう? 強力なモンスターは特有の魔石を落とす事もあるしな。今回の場合は依頼主が近くにいるようなので、その依頼主から依頼完了の書類にサインを貰ってこれば問題ない。で良いのかな?」
「えぇ、その通りです。ではお気をつけて」
ギルド受付嬢も淡泊なもので、依頼内容をシンプルに話してお別れだ。必要最低限を確実に。正しい仕事の姿勢なのでレイジは感心した。
「よっしゃ、じゃあ行こうぜ銀孤」
「いきましょ。宿のお金も必要でありんし」
レイジ達は依頼を受注して、東側の農家へ向かった。
◇◇◇
「おう、今回はよろしく頼むぜ。収穫前の今が一番危ない。近頃はゴブリン百体が夜中にこっそり畑にやってきて、作物を盗んでいくんだ。依頼は、こいつらの討伐だ。仲間がやられて被害が出れば、ゴブリンも手を出しづらいだろう」
依頼主の農家、ヘンドが依頼を説明している。どうやら、レイジ達以外の冒険者も雇ったらしく、レイジ達を含めて十人を超えている。ゴブリンは低位の魔物で、小さな体に程度の低い知能を持つ。脅威度はEなのだが、バカに出来ない被害を出す。集団で行動してくるのも厄介な所だ。
「儂の畑は広いから、冒険者をそれぞれ配置する。指定した箇所にくるゴブリンを討伐すればいい。今までの傾向から、奴らは今晩必ずやってくる。では検討を祈る」
レイジ達が立っているのは、1ヘクタールはある広大な畑だ。街の外側に用意された郊外にある。街の近辺は魔物がいるが、大して強くないようだ。街の庇護がなくても、問題なく農地を運営できているらしい。
レイジが周囲を見回すとなるほど、畑をしっかり守れるようにたくさん冒険者を雇ったようだなと感想を得た。
「なぁ、銀孤。銀孤ってどれくらい戦えるの?」
そういえばと、レイジはふと思った。銀孤にどれぐらい強いかを聞いていなかった。聞かなくても分かるんだが、聞いておくのが礼儀というものだろう。
「くすくす。レイジはんってほんまようわからん人やなぁ。ウチの実力なんてとうに見抜いていると思ってたんやけどねぇ。ゴブリンぐらい大したことないでありんす。秒殺やなぁ」
銀孤はくすくす笑いながら、質問に一応ながら答えてくれる。う~ん、まぁそれもそうか。
「ちなみに、レイジはんはどれぐらい強いん? あれや、ギルドで習った伝説級のSランクとか?」
「まさか、俺はEランクだぞ。田舎で真面目に修業したから、その辺の冒険者には負けないかなぁ。CとかDランクぐらいじゃないか? ちなみに剣は預けてるから拳で戦うぞ」
はっきり言って、Sランクの過去は捨てた。というわけで適当なランクを名乗るのが丁度良いと思う。
「拳でねぇ。そんなに実力を隠さんでええのに。ウチ、この前ギルドで絡んできたDランクの三人組、すぐに殺せるよ? それを考えたら、ウチはBかCランクはあるよねぇ。いやまぁ、言いたくないなら別にええねんけどね」
銀孤の言ってる事は、真実なので返事に困る。
レイジは元Sランクなので、実はあたりなのだ。
やはり銀孤は実力者であるなぁと、レイジはしみじみと思った。
「おいおいその辺の事情は話すよ。今はまだ話せないかな。命をお互い預け合って信頼できるようになったら、話すと思う」
「あら、ありがとうねぇ。じゃあ、依頼をこなして仲を深めようなぁ」
銀孤はニコリと笑顔を作って、上目遣いでレイジを見た。
可愛い。こんな子に仲を深めようなんて言われたら、堪らないだろ! 俺は銀孤の見た目だけで、判断しないぞ。やはり、一緒にいてお互いを知らないとな!
レイジはそう焦りながらも、ひと呼吸をつけようとした。
その時、角笛の音が鳴った。ゴブリン襲来の知らせだ。
「お出ましみたいだ、いくぞ! 銀孤!」
「頑張りましょうか」
緑色の体躯をしたゴブリンが、畑に向かってきていた。レイジと銀孤の場所には数十体のゴブリンが見える。大当たりという奴だろう。
レイジは応戦体制を整え、ゴブリンに向かって跳躍しようとし、そして踏みとどまった。
スタンドプレーは良くない。銀孤との連携を意識して、呼吸を合わせようとした。
「銀孤! 俺がゴブリンを足止めするから、後ろから魔法でゴブリンを倒してくれ!」
「分かったよぉ。《火の槍》!」
銀孤は、周囲に火の槍を出現させる。数十本だろうか。銀孤が火の槍を50mは離れているゴブリンの群れに向かってそれらを全て投げた。
「GYAGYA!?」
ゴブリン達は慌てて火の槍を避けようとするが、避けられない。《火の槍》がゴブリンを貫いていく。気が付けば、数十体いたゴブリンは焼かれ、一体だけゴブリンが残った。戸惑ったように周りを見て、そして回れ右をして逃げて行った。
「銀孤、めっちゃ強くない?」
銀孤は低級魔法でゴブリン数十体を焼いて追い払った。この数のゴブリンは範囲魔法で仕留めるものだが、銀孤はそうせず、炎の槍を数十本操ってゴブリンを倒した。しかも、ゴブリン一体だけを残した技術から繊細な魔法技術が伺える。
これで生き残って逃げたゴブリンが、他の群れに注意喚起を行うだろう。二度と畑に近づくなと。
警告を兼ねるために、範囲魔法ではなく、炎の槍で一体ずつ倒したのだ。ハッキリいって賢いし、すごい。
「そうよ。うちは銀孤。妖狐の群れの中でも最優秀。でもゴブリンを虐めても何の自慢にもならん」
そうして、レイジと銀弧が担当した箇所の依頼は終わった。しばらく待っていると、他の冒険者たちも仕事を終えたらしく、畑は無事に守られたらしい。
依頼主の農家であるヘンドもご機嫌のようだ。
ベントは成果を確認しに、レイジ達の場所にも成果確認に来たのだが、
「なんじゃこりゃ! ゴブリンが数十体も。他の冒険者の所は数体やったのは、ここに全部来てたからなんか! 君たち、無事か!?」
「大丈夫だ、問題ない。やったのは隣の銀孤だ。魔法で焼いてくれた」
「まぁ! レイジはんがしっかり足止めしてくれたからよ。安心して魔法が打てたわぁ」
銀孤が何ともいい加減なことを言っている。足止めしようと思っていたら一瞬で片をつけられたんだぞ。何もしてない。
ただ農家のヘンドさんには、その辺はどうでもいい事なので。
「そうなのか! ハッハ! ありがとう! これだけ処分してくれれば文句はねぇ! ボーナスも出す。これが依頼達成の書類だ。ギルド嬢に渡してくれ」
ヘンドさんはご機嫌な顔をして、依頼達成のサインを書いてくれた。
夜が明けて、朝日が眩しい。
◇◇◇
レイジと銀孤は朝一でギルドに向かう。依頼は夜の仕事だった。依頼を終えると夜が更けていたので、そのまま向かうことにした。銀孤に、先に宿に戻ってくれて良いと伝えたが、別に数日寝ないぐらいどうということはないらしい。流石は妖狐。体が丈夫だ。
「あら、お疲れさまでした。どうでしたか、初依頼は。怖かったですか?」
受付のギルド嬢が少し皮肉気にコメントを送ってくれる。嫌味だが、ギルド嬢は正しい。冒険者が調子に乗らないようにするのも彼女の仕事なのだ。初心者に見える俺達の討伐業務。さぞ心配してくれたのだろう。
「いや、調子よく終わった。心配してくれてありがとう。これが依頼達成証明ね」
レイジはギルド嬢に書類を提出する。ギルド嬢は少し驚いたような顔をしてから、少し机から離れて、報酬を持ってきてくれた。
「依頼達成おめでとうございます。すごいですね。特別報酬ですよ。当初の報酬2万メルに追加して3万メル。計5万メルです。でも調子に乗らないようにしてください。そうやって命を落とした冒険者はたくさんいます」
「忠告ありがとう。気を付けるよ。また来るから、その時も是非」
「5万メルって事は、五~六日分の宿泊費になりんすねぇ。良かったでありんす。さぁ、剣を取り戻しましょ」
そうしてレイジ達は宿屋に戻った。




