14.ギルド試験
燦燦と晴れ渡り、肌に感じるそよ風が気持ちの良い朝だった。
レイジも銀孤も、宿の窓から差す陽気な陽の光で目が覚めた。
レイジはおはようと挨拶をすると、銀孤も同じようにした。
それだけでレイジは良い一日が始まる予感がする。こうして朝起きたら、誰かが傍にいるのはいつぶりだろうか。
部屋の外には、銀孤が修繕に出していた服が直されたようで、綺麗にたたまれて置かれていた。
その服を見た銀孤はご機嫌で、笑顔がまぶしい。
「じゃあ今日はギルドに行って依頼を受けるから。一緒にやろう」
宿屋で朝食を取りながら、銀孤と相談をした。
「依頼って言われてもうちはわからんしなぁ。レイジはんに任せるよ」
「まぁ、そういうだろうと思って、昨日考えておいた。俺達はまだFランクで、大きな仕事は受けられない。だからといって、Fランクの簡単な仕事では宿のお金が払えない」
「そういうもんなしね。それでどうするや?」
「だから、Eランクの討伐依頼を裏技で受ける。それはギルドで説明するけど、銀孤なら大丈夫だと思う。それにこれからは、冒険中はお互い命を預け合う関係になる。だから、チームとして動く事を徹底してほしい。冒険中は俺と銀孤は一蓮托生。助け合うためにお互いがいる」
「わかりんした。レイジはんの指示には従うし、フォローもしたらいいんしね。悪い指示は、都度相談やね。冒険家は命の危険がある。それは知っておりますよ」
「そういうこと。散々脅したけど、ランクの低い依頼から始めるから問題ない。この辺はCランクを越えたあたりからの問題になるね」
レイジはその潤沢な冒険家人生から、真実を掴んでいた。つまりパーティを組むという事は簡単ではないということ。信頼できる仲間、そして連携が必要で、それは難しいことなのだ。
幸い、レイジも銀孤もソロの実力はあると思われるので大丈夫だが、これが冒険で最も重要な事なので釘をさしておく。助け合うためにパーティを組むのだ。
「それに銀孤は俺が命に代えても守るから」
レイジはそのセリフを言いおわった瞬間、顔が赤くなるのを感じた。言い終えて気付いた。すごく恥ずかしい事を言ったと。
銀孤はレイジの様子を見て、ニヤリと笑みを深めて笑っていた。
「頼もしいこと。わざと窮地に陥るのもええかもしれんねぇ」
「わざとは勘弁してくれ」
こうしてレイジは銀孤にあしらわれて、ギルドへ向かった。
ギルドの門をあける。昨日と同様だ。銀孤は注目されてる。
当然のことだろう、身ぎれいにした銀孤だ。昨日より可愛いし美しい。
「依頼を受けたい。おっ、この報酬がいいのがいいな。」
レイジはギルドの受付嬢に声をかける。ギルド嬢は溜息をついて、レイジ達を見た。
「貴方は昨日の。確かFランクでしたよね。そのランクはEランクです。ランク制度上、貴方達にこの依頼は無理です。別のにしてください」
やれやれと言わんばかりの言い方だった。確かに背伸びをして依頼を受けるのは良くないので、ギルド嬢の扱いも納得なのだが。しかしレイジは剣を質にいれているのだ。
「おしゃる通り。確か、初回ランク審査があるはず。Fランク登録後、依頼を受ける前でなければ受けられない制度だ。それをやりたい」
「確かに制度上はありますが…… そんな古い制度、よくご存じですね」
ギルドでは、最初はどうやってもFランクからだ。しかし、実力が高く見合わない者もいる。そんな者のための制度がギルドにはあるのだ。正規の方法であがるより非常に難易度が高くなる。
それに合格したらEランクからになれる。所謂、経験者優遇制度だ。
「ルールを守ってきちんとやっていきたいと思っています。よろしくお願いします」
レイジはEランクの依頼を受けたいことを受付嬢に伝え、ランク審査を申し込んだ。
受付嬢は、審査のための試験官を呼びに行った。ランク審査は簡単な模擬試験をして合格するだけで単純な内容である。要するに戦闘能力を確認するだけだが、これが中々厳しいのである。
「レイジはん、良く知ってるんやねぇ」
「冒険者はベテラン、いや憧れてたからね」
そして試験官がやってきた。筋肉隆々で、鍛えているのだろう。威圧感もある。
「あぁ、君がレイジ君と銀孤さんだね。初回ランク審査だな。ランク付与後かつ依頼を受ける前なら受ける事ができる。よく勉強している。さぁ、向こうの試験場へ。私と模擬戦をして私が君たちの実力を認めたら合格だ。大丈夫、手加減はするから」
レイジ達は試験官についていき、隣の試験場へ移動した。レイジはとても懐かしかった。レイジも昔は試験場で若葉マークの冒険者を指導したりしていたのだ。
「じゃあ、模擬戦にはこの木の武器を使う。魔法使いは魔法を使ってもいい。君の専門は?」
「俺は剣、銀孤は魔法だ」
レイジはてきぱきと試験管に説明した。銀孤は驚いているようだが、レイジとしては銀孤は明らかに魔法適性の方が高いように思えた。低位の魔法でも放てば即合格だろう。
レイジの場合は剣で前衛をやるという意思を、銀孤に伝えたかったので剣を選択だ。勿論レイジは両方いけるが。そういう訳で試験官は俺に木刀を渡してくれた。
「そう、じゃあ魔法の試験からにしよう。銀孤君、あの的を壊せば合格。何でもいいよ」
そういって試験官は、試験場の的を指さす。距離は50m程あり、初心者にはかなり難しい。この遠距離に魔法を届かすぐらいできないと、魔法使いは魔物討伐ができないのだ。まぁEランクは素人。魔法も使えない者が殆どなので、当然だろう。
「ふぅん。まぁレイジはんがそれでええなら。近接も得意なんやけどなぁ」
そう言って銀孤は火の魔法を唱える。低位の魔法で威力も絞っているようだ。
「火の槍」
槍の形をした炎が、的に向かって飛んで行った。ぶつかると、貫通せずに的が燃え始める。貫通するのではなく燃える。これはギリギリの精度で魔法の威力調整をしたという事で、非常に高度な事であるとレイジは気が付いた。
「ほぉ。中々やるな。合格だ。銀孤、Eランク昇格」
最も、試験官はギリギリで当てたようにだけしか見えないようだ。それに専ら剣術専門っぽい試験官は、銀孤のテクニックを良く分かっていないだろう。
「じゃあ、今度は君の番だな。私から一本取れば合格だ。剣術の方は怪我するかもしれないから辞めるなら今のうちだ」
前衛で立つ剣士。それは常に怪我との戦いだ。命を落とすリスクも格段に高い。だからこそ、剣の試験は厳しめだ。
「大丈夫。よろしくな」
そうレイジが言った瞬間、試験官が俺に向かって剣を振り下ろしてくる。なるほど、初回で不意打ちをすることで、世の中の厳しさを教えるわけか。魔物は正々堂々襲ってこない。優しい試験官だとレイジは考えた。
「おっと」
レイジは剣を使って試験管の攻撃を自身の側方に受け流した。そのまま剣を流した動きで試験官の腹のあたりに斬りかかる。
だが、流石に試験官。レイジのカウンターを流された剣ではなく腕で受け止めた。
「合格だ。不意打ちに対応し、そのまま最小限の動きで受け流し、反撃まで。見事だ」
物わかりのいい試験官だ。大抵はすぐに合格を出してくれないのだが、実力を確認すれば別に構わないという事だろう。
「レイジ、Eランク昇格!」
試験官は笑顔を称えて、レイジ達と握手をした。レイジ達からも非常に好印象な人物だ。
「君たちは、Eランクどころではないね。言い過ぎかもしれないが、経験を積めばBランクだって狙えるだろう。頑張ってくれよ」
俺はSランクまで行ったんだが、構わないだろう。うむ。
とレイジは一人、得心していた。
「レイジはん、やっぱり強いんやねぇ」
そう言って銀孤はレイジを褒めた。レイジとしてはそれが、少し、いや、かなり嬉しかった。




