13.銀孤的には、アリ?
夜遅く、銀孤は床で寝ているレイジを見た。
銀弧は短い期間ではあるがレイジと過ごした日々を思い出していた。レイジの冒険者としての実力は素晴らしく高く、また所々に感じる言葉の品性の良さも感じられる。人の好さそうな、それでいて抑えるべき態度はきっちりと持っている。
長らく生きた人のよさそうな老人といっても差し支えなさそうな、豊かな人生経験を感じてしまう。
それなのに、銀弧が手のひらで転がせそうなほど、女性経験がまったくないように見えた。
とても不思議な男だと感じている。
ふと銀孤は窓の外に目をやった。
空の月は雲で隠れていて、あまり良い空ではない。
そういえば、迷いの森へ飛び出してきた日もこんな空だったと、銀孤は振り返った。
それは嫌悪感を隠すことができない程の、銀孤の負の記憶。
銀孤が群れから独立した日を思い出す。
下劣な視線を隠そうともしない群れの仲間たち。
そう、あれは長の縁談から始まった。
優秀な血族を残すことが群れの使命。
最も優秀に生まれた銀孤を群れが放っておくわけもなく、群れの都合で縁談が進んだ。
群れが選んだ縁談の男は、血筋が良く、そこそこの実力者でもあった。しかしその男は、銀孤の事をまるでモノか何かのように見ていた。銀孤にとって男は気に入らない乱暴者で、何より見下されていると感じさせられる目が嫌いだった。
断り続けても、延々と強まる、縁談のプレッシャー。
いよいよ銀孤に選択権が無くなってきたある日、群れから逃げようと思い立った。
あんな男と結婚する等、ご免だった。
だから、銀弧は群れを捨てて『迷いの森』に逃げてきたのだ。
それからしばらく嫌な思い出を引きずったせいか、何となく『迷いの森』から出たくなかった。
だから森でゆったりと過ごしていた。しかし突然、致命傷を負ってひどい目にあった。
それを救ってくれたのが目の前の男。命を取ろうとした銀弧を助けたばかりか、こうやって森の外にまで連れ出してくれた。
たまにやらしい目でレイジは銀弧のことを見ているけど、あの初心な感じでは無理もない。それに何より、誠実な感じがした。
レイジの態度と行動は、とても好ましく感じたし、素敵な男の子だと思った。
「あかんなぁ、うちも惹かれてるんやろか」
レイジは言った。一緒に冒険をしようと。街にきてからもそうだ。男の多くは銀孤を口説いたけど乱暴だった。それに比べてレイジは誠実だ。
銀孤を知ろうとしてくれているのが伝わってくる。まるで結婚を前提としたような……
「うふふ。うちもこんな気持ちになるんやなぁ」
レイジの事を思うと心がポカポカする。勿論、レイジの事はよく知らないし、命を救ってもらったから一時の気のせいかもしれない。それでも、心が温かくなったのは久しぶりだ。
「男か……」
銀孤はそう呟いて、レイジから目を離した。
そして意識を手放した。




