10.ナンパしたい気持ちはわかるぞ!
銀弧が荒くれ者の三人に絡まれた。実に面倒くさい。まぁ銀孤が美人なのが悪い。服も少し破れていて煽情的なのもいかん。森を越えてきたため少し汚れているが、それがまた色気を出している。銀孤は気にしてないようだが。
レイジはそう現状を分析し、頭を回転させる。
「あらぁ、ウチの事見初めてくれるのぉ。嬉しいなぁ。でもお兄さん達にはお付き合いできんのよ、ごめんねぇ」
銀弧はにこやかに笑いながらも、相手にはしていないような感じだった。
突然のナンパにも、余裕をもって対応している銀弧を見て、レイジは落ち着いた女性なんだよなぁと感心していた。
「そんなこと言わずに、なぁ。そんな兄ちゃんより俺達といた方が絶対楽しいぜ?」
「そうそう、暴漢に襲われてもそこの兄ちゃんみたいに呆けてないで、しっかり守ってやる」
「俺達、Dランクなんだぜ? ベテラン冒険者だから手取り足取りおしえてやるよぉ」
荒くれ者達は好き勝手に言っていた。そもそもレイジの見立てでは、銀孤一人でそこの冒険者三人はボコボコにできるだろう。長らく冒険家を続けてきたレイジは、相手の実力を看破する観察眼も一流だ。そのレイジが測ったところ、銀孤の実力はおそらくAランク程度はある。
Dランクでは相手にならんだろう。
それにレイジは元Sランクなので、Dランクよりもレイジが教えた方がいいに決まってるんだよなとレイジは内心でほくそ笑んだ。
レイジとしては、このように女性を連れていたらナンパされる等といった経験がまったくなかったので、どう対応すればわからなかった。黙っていると、銀孤は困ったようにレイジをチラチラと見たので、とりあえず助け舟を出してみた。
「その辺で勘弁してくださいよ。彼女は俺の連れで、これから一緒に冒険をするんです。お気持ちはありがたいんですけどね、先輩方」
レイジはやんわり断ってみたが、荒くれ者共が納得するわけもない。
だいたいこんな美人を連れて二人でパーティ等許せないだろう。若返る前のレイジも絶対に許していない。
冒険者だって嫁がほしい。美人の彼女なら尚ヨシなのだ。
ウハハハ! いいだろう!
レイジは荒くれ者達を見て、--今まで可愛い子を連れたことをなかったこともあり--、優越感を満たした。
「んだとてめぇ! おめぇにゃこんな美人勿体ねぇって言ってんだよ! どけコラ!」
荒くれ者共がレイジの体を掴もうとしてくるが、レイジは腕をつかみ返して動きを止めさせる。冒険者は職業上致し方ないが血気盛んである。こういったやりとりも、命を取り合うような度を越えたものでなければ、ギルド内では黙認されていた。
しかし相手はたかだかDランクである。レイジにとって、荒くれ者達の動きを俺が抑制するのは朝飯前だ。
「なっ、てめぇ何しやがる!?」
荒くれ者達は、レイジの想定外のこなれた動きに驚愕した。力を入れてみるも、大木を押したときのようにビクともせず、何か得体のしれないものを相手にしたのではないのか、とビビりはじめた。
「ほら、落ち着いて、ね。ギルドの中だよ? 彼女も困ってる」
「お兄さん方、悪いけど暴力的なのはいかんわぁ。惚れるもんも惚れられへん。また今度にしてぇなぁ」
レイジが銀孤にアイコンタクトを送り、銀孤がにっこりと笑うと、荒くれ者達も押し黙った。
レイジは、やーい、振られてやんの、と心の中で大人げなく笑った。
丁度タイミングよくレイジ達が受付嬢に呼ばれる。荒くれ者達も諦めたようで、そのまま捨て台詞を吐いて離れていった。
「ではこのカードがギルドカードになります。Fランクなので白色ですね。この街に限り身分証として使えますので、忘れず携帯してください」
「判りました。ありがとうございます」
そうして冒険者の登録が完了した。




