MISSION 10 : 結局お仕事は真面目にしますんで
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オートマティックインダストリアル社通信サービス、消された記録より
『───急な電話かと思えばその話か。
まぁ、依頼としては正式な物だ。別に誰を殺そうと構わないさ』
『良かったよ偉い人にそれ聞けて。
で本題なんだけど、私のまともな生活を買い戻すお金以外の資産の使い道を思いついたんだ。
用意して欲しい物があるんだけど……
金払うんだし、前に勧められたヤツ買うのは良いよね?』
『……そうか、アレか。
用意しておこう。必要にはなるだろうからな』
『ありがとう。
でも、もし戦場で会ったら』
『殺しをするんだ。殺されもする。
恨みはしない。お前もそうだろう?』
『その前に殺すかな』
『そういう事だ。気にするな』
***
ハンナヴァルト領火星統一政府軍移動要塞
『フォートレス・オブ・ホーネット』、会議室
「今回の作戦担当となった、火星統一政府軍第二特務部隊隊長、レイカ・バレンシアだ。
早速で悪いが、作戦内容の説明に入る」
誰かと思えば、あの誤射した部下庇ってた隊長さんじゃないかって顔の傭兵系美少女こと大鳥ホノカちゃんでした。
「まず前提として、我々火星統一政府軍のかつての仲間による反乱軍達の戦力には、
いわゆる宇宙にいる火星の地球化の功労者である『クラウド・ビーイング』達よりも古く、かなり以前にこの星に開拓へ来た人間達の兵器が使われている。
というよりは、我々の戦力の基盤そのほとんどは、
この古い地球由来の技術達のおかげで成り立っている。
ただその中でも最も危険な物を彼らは掘り起こし、長い眠りから目覚めさせたようだ」
壁に写されてる映像スライドには、私達傭兵の溜まり場の移動要塞『エデン・オブ・ヨークタウン』と、今いる要塞ホーネット、そして見たことある統一政府さん達の機動兵器が映し出される。
これ全部、そんな古い時代のものなんだね。
「特に、この『フォビドゥン・ネーム』と呼称される超大型浮遊要塞。
これは、我々の首都であるメガフロート都市……いや、かつての恒星間移住用宇宙船だった物と同じく、おそらく今の我々でも同じものは作れないオーバーテクノロジーの塊だ。
この化け物の攻略作戦において、いくつかの下準備の作戦を行う必要がある。
故に、ここにいる3名にはまず、先時代火星兵器の製造プラントの破壊を依頼する」
3名。
私、見たことある人、知らん人。
以上三名の傭兵がいる。
「へっ!雑魚メカ作ってる工場をぶっ壊せば良いって訳かよ。
簡単すぎて、美味しい依頼だぜ」
なんか知らん赤髪で赤いサングラスの人がすごい自信満々に言う〜。
「お前もそう考えてんだろ、ランク9の大鳥ホノカさんよぉ?」
そして私に振るぅ〜?
「ごめんなんも考えてなかった」
正直に言ったらずっこけるし、もう一人の『お知り合い』はお上品にクスリと笑うし。
「冗談だろテメェ!?」
「冗談も何も、まだ話終わってないのになんか考える必要ある?」
「あぁ!?」
「……そのとおりだから、まずは続きを聞いてくれないか?」
なんか喧嘩っ早い人を抑えて、隊長さんがそう続ける。
「……場所は、現在継戦派に占拠されたヘラス内海に面するの施設だが、
ここはテラフォーミング以前に作られた施設の都合からか、工場の大半が海中に存在している」
と言われて映し出される、海の中の中々でっかい工場の3Dマップ!
「我々は内部の通路のデータこそあるが、この海の中にあるプラントで何が作れるのか、何が作られているのかは全て把握できていない。
それも厄介だが、最も厄介な事は……
おそらく破壊活動は施設の即浸水の危険、いや確実な浸水をもたらすだろうという事だ」
あー……そりゃ厄介だわ。
「水入ったぐらいでどうだってんだよ!」
「あら、水深100mから泳いで帰れるというのね。
羨ましいわね、体力だけはあって」
なんて、お上品な皮肉を言う、地味に知り合いの赤毛の美人さん。
アンネリーゼさんはランク2。インペリアル貴族ですごく強くて、ちょっと怖いところある人なのだった。
「そんぐらい泳げるっての!!昔ポリから逃げるために下水で泳いだことあるわ!!」
「まぁ、頼もしい!
もっとも、私もホノカも嫌だと思うけど」
「私泳ぐの得意だけど、水着が去年の入らなくて新調してないんだよねぇ」
「ふふ、私もまだ水着は新しいの無いの」
「あぁ!?なんだお前ら仲良しかよ、寄ってたかって!」
「……まぁ最初に殺し合った仲だし、その後も何度か敵対してたよね」
「狩りの獲物としても極上だもの。
まぁ意外と話していて面白い子なのもあるけれど」
ツンツンほっぺたつつかれながらそう言われるとなんか気恥ずかしいな。殺し合いは勘弁だけど。
「マジで仲良しかよ!?
クソが……イチャイチャしやがって」
「イチャイチャって言う割には剣呑な間柄だけどね。
ところでアンタ誰だっけ?」
「……忘れられてやがる……!
このジュディ・ゴールド様が……!!」
…………!
「知らない名前だ……!!」
「テメェはよぉ!?!
新人の頃アリーナでコテンパンにしたヤツの顔なんざ覚えてねーってかぁ!?!
出世しやがったなこのクソアマァ!!!」
「あ、そうなんだ。なんかごめんね。
アリーナ稼ぎ少ないから、あんま行ってないから色々忘れてる」
「クソがよ!!」
「……良かったわ。
私の事忘れられていたら、衝動的に殺してしまいそうだもの」
「怖すぎて覚えてるのが強い〜」
「…………で、ブリーフィングを続けて良いか?」
おっと隊長さんごめーん!
てなわけで、昔私が倒したらしい赤い人が乱暴に着席しましたとさ。
「さて、水没の危険は説明したが、それ以上にこの施設には不確定要素が多い。
二度同じことを言うようで悪いが、我々の発掘したものとはいえ内部に存在する兵器種や数も不明で、相当数が継戦派の手に落ちてはいるだろうが機数も不明だ。
かろうじてわかる事は一つ、3箇所の動力ブロックという弱点のみだ」
映像に、水没している大きな施設の、3箇所の赤い点が示される。
「そこが弱点?」
「良い知らせからいえば、3つ破壊する必要はない。
一つ破壊すればおそらく施設全体が水没する。
悪い知らせは、そうなる場合の脱出は困難だろうという事だ」
「わーお。
私ら向けだ」
こんな作戦、まともな戦力じゃやらないか。
「随分と余裕だな。
一応は、eX-W向けに脱出補佐用の『浮き』を用意してあるが?」
「いらねぇよ。どうせクソの役にもたたねぇ。
こんなかの誰かは生きて帰れるわけがねぇ、クソの作戦だ。
今更仏心はいらねぇよ。なぁ?」
…………そりゃそうだね。
「……報酬は?」
「前払い8割、後払い2割、200万cn」
「はいオッケー」
「文句はないわね。
じゃ、詳細は後でデータで貰うわね」
「ま、そんだけの価値か」
「では解散、で良いのか?」
「あ、まぁやってみてもしすごい良い成功したら追加報酬もらいたいなーってぐらいかなー?
ま、期待してないけどねー」
というわけで、立ち上がってお部屋を出まーす
また後でー
なんて思ってたら、唐突に出入り口で肩を掴まれた。
「オイ、ちょっとツラ貸せ。
そこのお前も」
見れば、さっきの赤い人。
***
というわけで、格納庫のでっかい木箱の裏です。
「で、何の用?」
「呼び出すからには、重要な用なのでしょうね?」
「回りくどい事は抜きだ。
テメェらも受けてんだろ、傭兵潰しの依頼をよぉ?」
あれま。
チラリとアンネリーゼさんの方を見たら、ちょっと色素の薄い瞳と目があっちゃったし、まぁつまり。
「全員、傭兵同士の潰し合いに賛同してるってことか。
怖いねぇ?」
「どうせ潰す気満々で受けておいてよく言うわね。
まぁ、私もそうなのだけれど」
「そう言うと思ってたよ、クズどもが。
アタイも同じくクズで安心した」
けどな、と、あれ名前なんだっけ?な人は続ける。
「……裏の依頼の目的は、連中が色々と利益ってヤツ得る為のものだが、結局払う金額は減らしたいって魂胆が透けて見えるだろ?
今回の依頼、ありゃなんだ?
施設破壊したら、アタイ達も御陀仏だってよ!
…………白々しく心配するふりして、多分動作しねぇ救命胴衣まで勧めてきやがった……!
結局、奴らに良いようにされてるわけだ。
ムカつくぜ」
「分かってる上で依頼受けてるんじゃないの?
あの人たち、信用できないじゃん?」
「……じゃ、少なくとも殺す気隠さねぇ、テメェらクズは信用できるってか?
なぁ、クズ同士協力しないか?」
協力?
「どうせ最後は殺しあうんだ。
だったら、途中で抜け駆けや罠かけるのはやめねぇか?
今言った通り、お互い殺しあうなら最後、正々堂々潰し合いといかねぇか?」
…………わーお
「驚いたな……マジで言ってる?」
「あのね、あなたを信用できるかどうか以前に、
私達が信用できると本気で言っているの?」
「ああ、少なくとも依頼主のクズよりはな。
お前らこそどうだ?
嘘でも乗る、といえないぐらい正直者っていう気かよ。
……いや、今はそのつもりだろうがよ」
……いや確かに、正直言って都合はいいけど。
「妙に都合がいいと思ってるツラだよな。
けど考えてもみろ。
バカでも分かるレベルできな臭いだろうが、今回の依頼はよ。
アイツらの出方見てから決めても遅くはねぇから、考えといてくれよ」
そう言って、あの……えっと、
「あ、ちょっと待って!
もっかい名前教えて!!」
ズコッとこける、赤い人。
「ジュディ・ゴールドだこのクソアマ!!!
お前に、一歩も動けずアリーナでボロカス負けた雑魚の名前だよぉッ!!!
ジュディ・ゴールドっていうクズ傭兵だ文句あっか、あぁん!??」
「おっけ、ジュディちゃんね!覚えた!」
「チッ……ある意味大物だよお前は!」
ジュディちゃん、やっと名前覚えられた間に退出〜……
「…………意外なぐらい、おんなじこと考えてたね」
「あら、あなたも?」
私の正直な感想に、隣のちょっと違うもう一人の赤い人ことアンネリーゼさんも同意したのでした。
「ま、どうせチームワークも何もない傭兵業だもんね。
仲良くはするけど殺し合う時は殺し合う。
ただ、あのジュディちゃんのいう通り、まず報酬獲得条件までは……大人しく手を取り合いたいよね?」
「そうね。
ただ、詰めが甘いと思わない?」
「まぁね。
だって、施設破壊して水没確定。
なら、わざわざ最後に決闘だなってしないし」
「あら、そっち?顔に似合わず壱番怖いわよね、あなた」
「そっち?」
「わからない?
あのジュディ・ゴールドとかいう『イタチ』程度の獲物が、
私を殺せて?」
………屈託のない笑顔が怖い。
「……戦いを楽しむってのは、思った事ないからこそ、
殺し合いは何起こるか分かんないよ?」
「殺し合いだなんてしないわ。
するなら一方的な狩り。
まぁ、あなたは規格外に大きすぎる鳥だから、どうしても戦いになってしまうけれど」
獲物を品定めする冷たい目。
残虐な行為を楽しむ恐ろしい笑み。
あ、私この人殺さなきゃな。
半端に生かしてたら、いや今まで半端に生かしてたから割と、何度も酷い目に遭うことになる。
「……ま、お互いその時までは仲良くしてほしいな〜、って」
「その時は、あの可愛い威嚇の小動物を仕留めてから存分にやりましょう?
じゃあね。私もそろそろ用意しないと」
そう言って、良いとこ生まれの会釈をしてからコツコツ歩いて離れるアンネリーゼさん……
「…………今、殺しても報酬……出ないかな?」
あーあ。面倒臭いことになったな。
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