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MERCENARY GIRLs/EXCEED-WARRIOR  作者: 来賀 玲
Chapter 7

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MISSION 7 : 呼ばれた勢力達








 クラウドビーイングとは、300年前に火星をテラフォーミングした地球からの最初の移住者の成れの果てである。


 資源や生命維持手段が限られている初期の火星の軌道上で過ごすため、

 そして意思の違いによる争いが生まれないため、


 彼らか彼女らか分からない無数の意思は電子化され、統合された。



 当初、火星のテラフィーミングと、その目的である汚染された地球を脱出した人類の繁栄のために活動し、しかし火星人類に自らと同じく意思の電子化を勧めたが拒否され、自らが生み出した火星テラフォーミング用の生命体『マージアン』5人も大半が離反してしまい、


 人類は、最初のゆりかごたる人類生存圏こと、バリアと壁で守られた『バイオスフィア3』でずっと、人類のコントロールを取り戻そうとするクラウドビーイングの意思が入った機械と戦っていた、



 それももはや少し前に終わった。


 なぁなぁにせざるを得ない兵器が、よりにもよって捨ててしまったマージアンがたどり着いた地球からやってきた。


 具体的に何がまずい兵器なのかはこの際は置いておくが、その実、




「イラッシャイマセー」



 一応、クラウド・ビーイングの意思の統合人格という立場の小さな彼女、グートルーン・オーグリスはというか、クラウド・ビーイング自体このなぁなぁな休戦で良かったんじゃないかと死んだ目で思い始めていた。




「たけぇんだよパーツがよぉ!?!

 まけろゴラァ!!」


「売れねぇってどういうことなのよ!!多少壊れてるけど高いパーツなんですけどぉ!??」





 なんで、を話せば長いが、

 今、グートルーンは愛娘だった新美キツネを、あるいはこのパーツショップ『マッコイ商店』の店主マッコイを名乗るマージアン、元の名はマージアンゼロワンの店の手伝いをしていた。



 その体験は、600年も前の地球を思い出す貴重なある考えを思い出させた。




 人間は、愚か。



 普段恐怖と狂気で店の客を減らすほどの接客をしているのが、一周回って正しい気がしていた。



「スンマセーン、ハイ。ゴメンナサーイ、ハーイスンマセーン」



「「だったらいう通りにしろよぉぉぉぉ!?!!」」



 ああ、コイツらの意思を電子の海へ放り投げれば叡智を得るだろうか。

 博愛精神はあるが、今その博愛精神と同じぐらいに


(この可哀想な頭の人達を取り込むの嫌だな)


 と内心思っていた。



「────当店はそんなサービスしていませんがお客様ぁ?」



 ふと、その背後からネタで仕入れたらしい人を撃つには過剰な火力のマグナム入りリボルバーを突きつける怖い顔。



 グートルーンの可愛い味方、マージアンの一人である、ゼロスリーこと今の名前は『アーク』が凄まじい殺気を放っていた。





「「2度と来ないわこんな店ー!!!」」



「2度と来ないでほしいんですけれども。

 フン!劣等種が……」


「気持ちは分かるけど、そこまでいうのは可哀想よアーク?」


「しかしですねお母様!

 アイツら、脳に直接叡智を授けても耳とかから漏れ出す程度の存在でしかないじゃないですか!!」


「……気持ちは分かるけど、めっ!」


 口は災いの元、とデコピンだけはしておく。

 手のかかる子である……手のかかる子しかいない。



「……私が悪かったとはいえ、元はと言えば我々を呼びつけて店番を頼むあのソラが行けないと思いますけど?」


「まだソラはこっちの言うことに耳を傾けてくれるわ。

 それに、私達が捨てた子だって言うのに、許してもらった身だもの」


「それもそうですけど、気安いですよあの妹は!」


「…………アーク、私達の目的は変わらないわ。

 でも今までのやり方は通じない。

 ある意味で、そろそろ融和の時期だったのも事実よ。

 これも、そのための調査と思いましょう」


「むぅ……」



 不服そうだ。やはり、いくら根本でデータのやり取りでお互いの心まで送り合えても、心は別。


 ……ずっと、忘れていたことだ。



「…………私達も、そろそろ大々的に存在をアピールしないと行けないものね。

 上にいるだけの存在は、人は嫌がるから。

 分かっていたけど、私達も、

 そこへ降りるのを心で嫌がっていたから……


 そんな相手の思想を聞き入れてくれるはずがない。

 ……なんて、データ化して無数の心が重なっていたはずなのに、みんな私の中で忘れてしまっていたの」



「…………しかしお母様、今更では?

 我々の所業、さまざまな相手に言わせれば許されるものではないんですが?」


「…………そこは、忘れていた愚かと思っていた存在の方法で、なぁなぁにしましょ。

 ……具体的には、いくつかの隠してる技術の公開とか、宇宙にはいっぱいある物を売って。

 現金なだもの。人間って。人間以外も」


「…………まさか、私達が『手打ち』のような形を取るとは……」


「世界を平和にするには、意思ごとひとつになるべきって考えは変わらない。

 でも、それを理解できない心まで否定してしまえば、反発は大きい。大きすぎた……


 ただ、私達には幸い時間がある。

 1000年後は、すべて私達になれるように啓蒙する手に変えるのには、遅くないかもしれないわ」


「……ただその間に、我々が滅ぼされなければ良いのですけれども」


「…………反省してる事もあるし、まだ不服なところもあるけど、そう言えるだけ色々やったものね……」



 はぁ、とため息が出る。


 改めて自戒するが、その程度で済むようなことではない事を自らクラウド・ビーイング達は火星の人類にしてきた。



「…………一応、また戦う場合の用意はあるとはいえ、ね。

 ……正直、焦り過ぎてまた力で押さえつけていくような事になると、今最もイレギュラーな勢力みたいな物を産んでしまうかもしれない」



「…………正直あのアホどもに合わせたくはありませんが、差別する気も無いですし、まぁ上から目線と言われようと合わせる気はありますけれども」


「あら、アークがそんなことを言うだなんて」


「……このカスみたいな留守番任せられている間に、カスはカスとして愛着ぐらいわきます」


「言い方」


「ごめんなさい。

 にしても、留守番任せてるあのアホ妹遅いですねぇ?

 世間話が出る程度の閑古鳥鳴いてるというのに!」



「聞こえたぞー、アークお姉ちゃんや」



 ガラガラと店の戸が開いて、入ってくるツナギ姿の金髪長身美人。


 ゼロフォー、こと新美ソラ。


 本当はこの店の留守番をしているはずの人間、もといマージアンである。


「遅い!何をしていたんですかソラ!?」


「ごめんねぇ!歳下のパーツ卸すジー様共が話してくれなくってさー!

 ったく、見た目コレでももう89の婆さんなんだよ私!」


「89でお婆さんと言われると、私は300のお婆さんなのよガキ!

 といいますかね?地球に漂着して眠ってた間の年数サバ読むんじゃないの!!あなたも300歳!!


 もっとお婆ちゃんなの!!」



 アークが、情けない笑顔で誤魔化すソラの頬を掴んで引っ張る。

 その様子に、300歳の婆さん達が何を若者みたいなと思う、600年以上の時を重ねた意思の宿る幼女のような身体で思うグートルーンだった。



「いふぁいいふぁい、やめふぇおねえふぁーん!」


「フン!いい気味です」


「ふぅ…………お母さん、お姉ちゃん凶暴すぎだよ。

 もうちょい育て方上手くしといた方が良かったんじゃね?」


「ごめんなさいね。私は親としては良い親ではなかったから」


「冗談でもそんなこと言わないでください!!

 あとソラァ!!お母様になんて口を!!」



 アークは凄まじい速度でソラの胸ぐらを掴んだ。



「自分の事は良いんだ」


「私は私の性質が私のせいだって理解しているだけです!!

 それでもお母様を家族として愛しては行けませんか!?

 自分の母親を馬鹿にされて!!

 私唯一の欠点の頭に血が昇りやすいところを見せないなないられますか!?」



「いや悪かったって、流石に言い過ぎたって!」


「まったく!!

 あなたが地球で89年近く生きている間、私はお母様に育てられたんですからね!!!

 あなたにだって、あの地球では大切にしてくれた親御さんがわりの人がいたのでしょう!?」



「────私が殺したけどね」



 それは、二人が初めて見たような、いつもは絶対見せない顔だった。



「…………え?」



 思わず、アークすら手を離す。


「……言ってなかったっけ?

 いや、言えないよねそんなこと。アークお姉ちゃんの言うことも痛いほど分かるし……」



「…………あなたの育てのお母様が、地球の管理者、なのは、聞いた気がするのだけど……」



「ちょっと違う。

 私のママは、管理者って呼ばれたAIシステムの一つだった。

 管理者は、複数のAI達による合議制でさ。


 ……ママは、地球環境再生システム担当で、私を偶然見つけたの。


 殺して解剖しても良いし、なんだったら育てるにしたってもっと実験動物にしたって良かった立場だし、それができるぐらい冷酷で実直なのは、育てられた身としてはよく分かったし、そう言う面も真似たよ。


 なのに、なんでか私をロクデナシな人生歩める程度に自由に育ててくれて、私がこうやって火星に帰れる為の力をつけさせてくれた。


 そのせいで、破棄が決まったって言うのにさ」



 ふと、近くの冷蔵庫から商品のサイダー缶を一本取り出して開けた。

 一口、少し長く飲み、喉を潤してまた語り始める。



「私は、地球では独立傭兵として傭兵(スワン)始めたけど、

 その実は管理者の手先でさ。

 いや、管理者AIは冷酷で冷静だけど、案外私を一つの人格としては扱ってくれたよ。


 ただ、狂ったAIの処理と、それに伴って空いた管理者のポストに座って、別業務する必要があったけど」



「……それが、あなたの母殺しと、」



「企業の設立だよ。まぁコレは私の願いでもあったけど。

 当時は、地球は『レイシュトローム陣営』と『バーンズ・アーマメンツ陣営』の二つの企業が支配する形、を表向きとってたんだって前話したっけね?

 この星の常識じゃ、そこまでデカい事してはなさそうだって思うだろうけど。

 案外、こっちの二つの企業の方が理性的だよ」



 はは、と、あーヤダヤダ思い出したく無いと言いたげな渇いた笑みでいうソラ。



「その後は知っての通り。

 今は、幸い地球は一つにはなったけど。


 …………第645次世界大戦とかの話したっけ?」



「してはいない……けど、聞かなくても……何が起こったかは分かるかも……」



「よくもま、地球側も宇宙軍作れるぐらいに回復したと思うよ。


 ……ママの苦労がわかったよ。世界の運用の苦労はその何倍も凄かったけど。


 でも、まぁ、ご存知の通り、」








「その話の続き、」





 ふと、玄関口からそんな声が聞こえる。


 見ると、目つきが鋭いメガネのポニーテールの女性が、


 ……どことなくアークやソラに顔立ちが似ている、しかし二人と違って背が低くやや童顔気味な女性がいた。



「フォルナちゃん!」


「ちゃんは辞めろこの歳下の姉は!!!」


「ゼロファイブとでも呼びましょうかフォルナ?

 ……一応地球の大使の身分のあなたが何の用で?」


「あ〜ら、アークお姉様は手も理解も速くて助かりま、痛ッ!?マジでブッた!?」


「もう1発行く前に理由を言いなさい?

 姉妹平等、頬ではなく顔面に行きます」


「ったく火星育ちの野蛮人!!

 まぁ、そんな野蛮人含めてこの面々がお呼ばれされてんですよ、この閑古鳥鳴いてる店閉めてさっさと来なさいな!!」



「「「お呼ばれ?」」」




「適当なeX-W用意しなさい。

 その方が速いんで!!!」







 ───そう言われてパーツショップの本領を発揮して、爆速で組み立てたeX-Wに|スーパーソニックストライクブースト《SSSB》を装着して、一同は飛んだ。




 音速を超えた速さで、ハンナヴァルト領へ。






「久々だな、乗ったの一年振り?

 体型維持してたしこのお古のパイスー着れてよかったなー」


「バカなこと言ってないで、着替えないでそのまま行きますよ!」


「にしても、用意含めて30分で来させられるとは。

 何が待っているのやら」



 そして、着の身着のまま来た場所には。





「来ましたか」



 何故か、国家のトップ達が炭火を囲んで肉を焼いていた。



 そう、インペリアルの皇帝やら、姉兼企業の代表に、ついでに敵側のたしか行政官代表の顔があった。


 なお、クオンは酔って寝ていた。その傍で、たしかこの領を統括する辺境伯の女性がビールをあおっている。




「……どういう状況?」


「あ、ソラ婆!」


「そして普通にいるんだホノカちゃんが」


 と、なぜか買い出し袋片手にやってきたホノカまでいた。



「いや聞いてよ、こっちのイケメンさんインペリアルの皇帝陛下なんだって」


「なんで一勢力の長で肩書きが1番イカつい人が、炭焼きに多分マイ鉄板持ってきてお好み焼き焼いてるのさまずは」



 皇帝と言われて納得の威厳をその若さで放つ男、ミハエル。

 しかし今、火星の皇帝は誰よりも真剣な顔でお好み焼きを焼いていた。

 すっとプロの手つきで崩れなくひっくり返した焼き色は完璧だった。



「…………おい、そこの浪速の某」


 そして、珍しく正座して大人しくしていたホノカの仲間の傭兵オルトリンデに声をかけている。


「え、なんでっしゃろ、皇帝様……?」



「覚えておけ。俺の帝国の名を冠する土地で作られた粉、野菜、それで育った豚、


 それで作るお好み焼きは、ここまでのポテンシャルがある。


 舌で覚えておくといい」




 ソースはハケで塗る。

 先にマヨネーズ派であるようで、格子状になるよう高い位置からかける。

 鰹節をふんだんに塗し、最後に青のり。



「おぉ……!!」



 四角く切り分けるのはまさに大阪式。

 見事な見た目のお好み焼きは、



「しかも美味い!!」


「さすがです陛下!

 また腕を上げられましたね!!」


「当たり前だ!

 お前の土地の海鮮も入れている。この味なら酔いも覚めるだろう」



 なんと、今来たソラたちの分もあった。

 実際食べると美味しいのだ。



「こりゃ美味い!地球よりうまいよ絶対!」


「地球育ちのあなた方に言われるのは光栄だな」


「いやいや、地球が酷いんだよ皇帝さん。

 ここのが空気は美味いし、放射線濃度低いし」


「地獄か?」


「645回の世界大戦のせいだよ。

 マシだったのは案外70年前ぐらいかも」



 しみじみ懐かしい顔のソラの隣で、フォルナだけは凄まじいまでに顔をしかめていた。



「……で?」


「……なんで呼んだのか、ということか?」


「まずそれ最初に言わないとね。

 お好み焼きだけ食べて帰っちゃうぞ?」



 おどけるソラの言葉に、敵わないなとでも言いたげな顔のミハエル。



「……不本意な所もあるが、インペリアルはそこの火星統一政府との休戦協定を結んだ。

 その上で各勢力との橋渡しもする予定だが、


 まずは、クラウド・ビーイングと地球に話を通して欲しい。


 そう言われたものでな」



「え?

 お母さん達と私の妹ちゃんはともかく、なんで私も?

 引退した婆さんに何してほしいと?」



「……そうですね、ではあえて聞きますが、」



 そこで、初めてカヨコが口を開く。



「あなたが、70年前に地球から技術と我々の元となるネオ・デザインドの初期型を送り込んだのが全てに始まりです。


 そんなあなたが、今また火星にやってきて、引退しただなんて言われましてもね?」



 ああ、と言われて納得はするソラ。



「本当は70年前に帰りたかったけどね。

 こっちも昔は現役だったんだよ。

 そもそも、そっちの酒で潰れてるクオンお姉ちゃんが詳しいけど、

 70年前の技術送りは、言っちゃえば頼まれたからやっただけ。

 旧時代……って呼んでる、70年前にとっては大昔の宇宙船の余りを直して使ってね」



「そのせいで、私達は意思の統一に失敗したのね」


「阻止したんだがな。ウィッ!」


 グートルーンの言葉にもう完全に寝てたかと思っていたクオンが、しゃっくり混じりにそう補足した。


「それにその後の方が忙しかったし。

 週刊世界大戦のせいで大繁盛だよ地球は?

 第645次世界大戦終わったの、ほんの1年前だよ?


 やっと、世界政府できたんだもん!

 それまで会社が潰れたり治ったり、政界進出させられたりなんだり!!

 もうめっちゃ!!めっちゃ忙しかったんだから!!

 まだ16の子供の頃の傭兵業の頃の方が時間的余裕もあったよ!!

 もういい加減引退してただの整備屋のばあちゃんになりたくもなるよ、そんなん!」



「で、1年で地球から艦隊派遣ができるぐらいに復興させたと?」



「え?艦隊派遣?

 てか、まだ帰ってるの言ってないのそれ?」



 ふと、カヨコの細い目が少し開く。



「……聞いてませんが?」


「そう言えば言ってないな、皇帝?」


「ああ、大した話題でもないからな」


「まぁ、どうせ艦隊って言っても、たった4隻の輸送用艦隊だし」


「…………どこかに隠れてるのかな、って思って肩透かしくらっちゃったもの、あれ」



 カヨコ以外は、知っているという反応だった。


 なんなら特に政治とは関係ない傭兵組も。




「………………悪党どもめ」


「まぁ、そんな規模でも派遣の金ないからさ。

 もうとっくの昔に帰ってるんだよね」


「それは分かりましたが、なぜそこの傭兵達も知っているんです?」



「…………輸送艦隊の中身が地球の傭兵だったの。

 まぁ、私達クラウド・ビーイングと小競り合いがあったのだけど、あいにく手持ちの戦力だけでは不安なぐらいに強くてね……」



「強かったねー、地球の傭兵(スワン)さん達」



 しみじみいうホノカに、内心『まぁそりゃアイツら600次の頃から歴戦だったり、場合のよっては私の同期だったしねー』などと思うも口に出さないソラだった。



「なるほど……いよいよ我々の開戦の理由、いえ前提が崩れますか」


「その割に落ち着いてるねアンタ?」


「そりゃあ、

 つまりは私が休戦協定を結んだ理由としてはあまりに強いではないですか?


 そして、継戦派には最悪の情報ですので」



 うわ、悪い顔。

 素直にソラは、地球で生きてた80年近く何度も見てきた手強い相手の顔と同じものにその感想を抱いた。




「……いよいよ、後ろ盾も大義名分もなくなる。

 継戦派の皆様には、なりふり構わなくなった末の悲しい行動をとってもらいましょうか」


「あー、それ制圧して落とし前にするんだー。


 ……気をつけなよー。

 なりふり構わなくなった人間は、いくら優秀でもものすごいコトしでかすんだから。


 追い詰められた獣が一番怖い、ってヤツ」



「…………実際、何をするかは予想しておりますが、

 私としても多分一番最悪なパターンで考えていますよ。

 ……本当に最悪すぎるパターンで……ん?」



 ふと、カツカツとすごい速さで、火星統一政府の人間が走ってきた。


「失礼します、代表お耳を。

 ………………」


「……………………、」



 カヨコの目が人一倍見開かれた。



「対応は、予定通りに?」


「はい。ただ……その、やはりコレが起こったことが信じられないと皆は……」


「私もですよ。

 まぁ、事前に作ったマニュアル通り、パターンは多少状況に合わせて遂行しましょう」


「そのように。

 失礼しました」


 再び去るその人物を見送り、カヨコは深いため息をついた。




「お察しの通り最悪なパターンでした。

 あの、当分温かいもの食べられなさそうなので、食い溜めしてしまってもいいですか?」



「…………敵ながら、大変だな」



 少し悲しそうな顔でお好み焼きを食べるカヨコに、思わずミハエルはつぶやいてしまうのだった。



「いやはや、年の功というべきか、ソラさんの予想通りでしたね」


「何?そんな最悪なパターン引いたの?」



「考えうる限り最悪なパターンですよ。

 さて、コレは……ちょっと計画に修正を入れなければ……


 まぁでも、コレだけは食べておかないと。

 かかりつけの医者にももう少しまともな飯を食べるよう言われていますしね。


 ……にしてももっと、心に余裕がある時に食べたい良いお味で……はぁ」



 なんとも言えない悲しそうな顔の相手を見て、少しだけソラは文字通りの空を仰ぐ。





「……開戦前って大抵のどかな空なんだよね」





          ***

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