80.成長
「いやぁ、流石テフラさん!最高!!」
「流石だで」
「ふふっ、運が良かったんですよ」
そう言いながら、テフラには珍しく尻尾がブンブンと振られている。
(ワンちゃんみたい…かわい)
「そんな訳なかろ。照れとるんか?」
「ち、違いますよっ。あ、その、それで」
――テフラは聖騎士との一件を2人に話した。
「なるほどのぅ…スカウトか…」
「報酬は気にはなるけど、ちょっとなぁ。戦争に付いて来いとかだったら嫌だし」
「明日ここに来てもらう予定なので、一度話してみて下さい。
私では決めかねる事だったので」
「了解したで」
「あとは、メイリーさんが目覚めてくれたら…」
初日こそは、ママルは夜も眠れず30分置きにアンデスを掛けなおしていたが、
2日目以降は、薬やポーションのお陰か、大分容体も安定して来た。
やせ細った体が、たったの3日で結構戻ってきているのを見て、
ママルは何とも不思議に思ったが、2人はこんなもんだろうという感じだったので、この世界ではきっと、こんなものなのだろう。
きっと精神が死に向かっているか、生に向かっているかで、肉体の状態も変わるのだ。だが依然として、顔の傷は消えていない。既に治っているからなのだろう。
「しかし、ここに来る途中に見た騎馬兵やその聖騎士を見るに、
シーグランの兵は意外と暇なんかの」
「確かに、結構フラフラしてるのかな。この辺は隣の国のグラスエスから遠いみたいなのにね」
「単に、戦で減った兵を足したいのかと思ってましたが」
「まぁ、そうと言えばそうか」
「明日色々聞いてみよう」
ママルがそう言った所で、話題に一区切りがついた感じがしたので、
気になっていたことをテフラに尋ねる。
「テフラさん、ところでこのスキルブック、結局どんなスキルか解ります?」
「いえ、私も気になったんですが、詳細は教えてくれませんでした」
「獲得したら消滅しそうだし、見てみるのも怖いなぁ」
「ちょいと貸してみい」
ユリはそう言うと、スキルブックを手に取り、
その表紙をなぞる様に指を滑らせた。
「無色か…」
「無色?」
「いや、わしの勝手なイメージなのだが。スキルにはそれぞれ、
なんとなくの色の様な物を感じるのだ」
「共感覚みたいな話?」
「そういった大袈裟なものではないで。例えば、植物系だと緑だとか、炎系だと赤とか、そのまんまだな」
「なるほど」
「無色だと、どういうスキルになるんですか?」
「生活系と呼ばれるスキルがそういう感じだな。明かりを灯したり、乾燥や腐敗を抑えたり」
「畑を耕したり、体力消耗を抑えたりね」
「シイズの者を思い出すのう」
「強力ではないけれど、多彩なんですね」
「そう、つまり検討がつけられないと言う事だな、
だが、逆に誰でも覚えられる可能性がある」
「おー、それは良い情報だ。それに、危険もなさそうだね」
(………とは言っても、今は何も出来る事なさそうだな…)
「暇になったな…」
「なんだ藪から棒に」
「いつもしてるようなお話は無いんですか?」
「いつも…うぅ~~ん。…あ、そうだ」
「あるんかい」
「俺のアプライだとさ、まずモンスターか、そうじゃないかが解るんだけど、
モンスターはその後に、モンスター化してるかどうかが解るんだよね」
「モンスター化してないモンスターなどいるのか?」
「いや、多分逆って言うか、モンスター化してるって解る奴は、
多分元々はモンスターじゃなかったんじゃないかなって」
「なるほどのう。生まれながらにして、そうかそうじゃないか。という事か」
「多分ね。まぁ解ったからなんだって話なんだけど」
「ちなみにメイリーさんはどっちなんですか?」
「元々じゃない方です」
「ふむ…」
「あ、あと、まだあったわ」
「あるんかい」
「神様ってさ、どこまでこの世界の事見えてるんだろ」
「う~む…おそらくだが、視覚として何かが見えてるという事は無いと思うで」
「そうなんだ」
「わしが降ろしてる時は、わしの視界で見てるとは思うが、それこそ善とか悪とか、そういうエネルギー的な物を感じているだけじゃないかの」
「私もいつか神降ろしを見てみたいですね」
「そっか、テフラさんは見た事ないんでしたね。ユリちゃん、なんとか力ってのは回復してる?」
「星霊力な。これは神様が教えてくれた力だ。
神様の意志との通路を開いておくような力らしい。
で、回復はしとる感じはある。おそらく、一言程度ならいけるとは思うが」
「その感じだと、満タンまでマジで年単位もありえるね」
「その力って、成長はしないんですかね?」
「!…その発想はなかったわい。確かにな。わしが何か、肉体か精神か…、
そういう成長があれば、回復も早まるかもな」
「成長なぁ……」
(なんか、俺自身がこれ以上成長する事ってあるんだろうか。
何十年ってしたら、やっぱ老けてくのかな。
ゲームキャラは老けるって事ないから、考えてなかったな)
「ママルさん、私達をアプライで見て下さいよ。レベルっていう奴、上がってるかもしれませんよ」
「あ~~~、確かに!」
●人間:結界術師:ユリ Lv43 スキル:先眼 詠唱破棄 魔弾 理障壁 魔障壁 守静陣 攻勢陣 人避けの守り etc…
使者ママルのパーティーメンバー、神をその身に降ろす事が出来る
弱点:雷
●ワーウルフ:スレイヤー:テフラ Lv111 スキル:ビースト 瞬爪 尖裂爪 廻穿脚 双牙砕 不落 空刹
使者ママルのパーティーメンバー
魔法薬耐性(強) 弱点:炎
「あ、上がってるわ…2人とも、43と111」
「ふむ。その数値が強さを示しとるのなら、わしらはちゃんと成長しているのだろうな」
「なんかちょっと嬉しいですね」
「……あ、ってか!そうか!!!!成長したから数値が上がってるんだ!!」
「ん……?そういう話をしていたのではないのか?」
「いや、その、なんて言うんだろう。俺の知るレベルってのはさ、
このレベルだからこの強さ。って感じだったんだけど、普通に逆で、
この強さだからこのレベル。って言うか」
「ん?……どういう事だ?」
「レベルが上がったら強くなるんじゃなくて、強くなったから数値が上がる!」
何か、敵を倒すだとかの切っ掛けがあって、レベルが上り、
それで力が1増えるんじゃない。
日々研鑽を重ねて、力を0.1。いや、0.01と増して行って、
結果その強さが、レベルという数値に反映されるのだ。
成長とは、階段式じゃない。ただの積み重ね。考えてみれば当たり前の事だ。
(この世界がゲームじゃないってのは、もう解ってたハズなのにな…。
レベルってのは、シンプルに戦闘力的な話なのかもしれない!)
「レベルと言うのは良く解っとらんが、順序として、当たり前ではないのか?」
「私もそう思ってましたが…」
「アホは俺でした~~~~~!!」




