77.コルセオ
ジィヘンの村からは公道が通っている。
翌朝、ママル達3人を乗せた馬車が北東を目指して出発した。
ママルは一瞬、このまま目的地に着かなければ良いのになぁ。なんて思ってしまう。
圧倒的な武力があるから、危険の心配もなく。
衣食や金に困る事もなく、気の置けない仲間がいて、
一緒に未知の世界を旅する。そんな今が楽しいから。
「このまま行くと、明後日くらいにはヴェントだな。今日は途中の街に一泊しよう。結構大きい街らしいで」
「次は良い所だったら良いですね」
「ですねぇ」
道中、前方からフローター1台を連れた騎馬隊がやって来て、馬車を止め御者に話しかけた。
「ジィヘンからの馬車か?」
「はい、そうですが…」
「あの村は無事なのか!」
「え?はい。特に変わりなく。何かあったんですかい?」
「付近にスライムが出たと聞いてな」
「へあ~~!そいつは恐ろしい!」
「気を付けろよ。サンロックの方にでも行ってくれていたらいいんだが…」
「ありがとうございます~」
再び馬車が動き出す。
「スライム相手に騎馬が行って、何するんだろ」
「うぅむ…。フローターもあったようだし、誘導、とかかのぅ」
「あ~。なるほど」
それから暫く雑談していると、大きな街に到着した。
「思ってたより、大分デカい街だの!」
「街を囲む壁が高いですね…」
「あ、そろそろまたポーション売りたかったんだ、丁度いいかも」
現金にしてしまうと嵩張るため、
あまり多くをいっぺんに換金しないようにしている。
馬車から降りて街へ入ろうと言う時、門衛が話しかけて来た。
「お前ら、コルセオに何の用だ」
「えぇっと、観光。です…」
「やはり闘技大会か。国内だけでも意外と集まるものだな…。荷物のチェックだけさせてもらうぞ」
「あ、どうぞどうぞ」
荷物チェックが終わり中へ通された。
「闘技大会だって!」
「こっちの闘技場はまともっぽいのう。解らんが」
「だからアルカンダルのは、裏とか呼ばれてたんですね」
「なるほどっ。よし、とりあえず、魔道具屋に行きましょ」
道を歩いていると、どうにも周囲から嫌な目を向けられている気がする。
やはり獣人を嫌がっているのだろう。
そして案の定、魔道具屋の店主もあまり良い顔をしていない。
「ポーション売りたいんですけど」
「………見せてみろ」
そう言われて、ローポーションを1つ出してみると、
店主は手に取り、特殊な眼鏡の様な魔道具を使ってポーションを見る。
「こっ……これはっ……」
「かなり良い物でしょ?」
(アルカンダルで売った時も、大分驚かれたものだ)
「っ……いや、駄目だな」
「え?」
「……中古品だろ。これなら、大型銀貨8枚だな」
アルカンダルでは、ローポーション1個が小型金貨1枚だった。
ちなみにママルの体感的には、大型銀貨1枚が3千円、小型金貨1枚が7万円くらいの感覚だ。
「あそ。じゃ、いいです」
さっとポーションをひったくり、踵を返した。
「ま、待て!」
「…ねぇ、つまんない駆け引きしたくないんだけど?」
「ちっ…しゃあねぇな…」
結局アルカンダルの時と同じ値段でいくつか売る事が出来た。
金貨等はサンロックの物とは意匠が違う物の、大体の価値は同じようで、
国を跨いでも同じように使うことが出来、
ママルは普段嵩張るだけの硬貨も良いトコあるなぁ。とか思った。
「はぁ、めんどくさいなぁ」
「まぁ、商人ならばああ言う事はやるだろうが、流石に露骨だったのう」
「俺の見た目で舐められてるんだな」
「小さくて可愛いですからね」
「ちょっ!いやぁ、はは…」
「何を照れとるんだ」
「いやぁ、ははは」
そして中々に良い宿を取り終え、荷物を置くと、
食事処へ行くことにした。
「前言ってた、飲み会やりましょう」
「良いですねっ!」
「お主ら、飲みすぎるなよ…」
飲み始めて少しした頃、酒場で怒声が聞こえて来る。
「てめぇジジイコラァ!!!」
「ひょっひょ。ええじゃないか、減るもんじゃなし」
男が女を抱き寄せる様に、爺さんとの間に入っている。
周囲の様子を見るに、男のツレの女の尻を、爺さんが触ったとかなんとか。
「タダで済むと思うなよ!!」
男はそう言いながら、爺さんに殴りかかるが、
爺さんはそれは見事な手さばきで、その拳を往なし、躱し続ける。
「ふむ、まだまだ青い」
「くっそがぁ!!」
男はついに、その腰に差している剣に手をかけた。
「そいつはいかんじゃろ」
爺さんは瞬時に男の背後に回り、首の後ろに手刀を当てると、男は気絶した。
「ふぅむ。すまんかったな。ちょっとおふざけが過ぎたようじゃ」
そう言いながら、ぐったりしている男を女に預けると、
カウンター席に戻って酒を飲み始めたのだった。
(く、首トンだ~~!初めて見た!)
「剣に手をかけるのはどうかと思うが、あの爺さんもヤなやつだのう」
「まぁ、そうですね」
「そうね……猪肉と兎肉、どっちにしよっかな」
「今は猪の気分です!」
「なあ、季節のフルーツと言うのが気になるのだが、頼んでよいか?」
――
飲み会を終え宿屋への帰り道、あのセクハラ爺さんが声をかけて来た。
「おんしら。闘技大会に出るんか?」
そんな声に、一応と言った形でママルが答える。
「え…、出ませんが」
「そうなんか。ワーウルフの姉ぇちゃんなんか、かなりやるように見えるんじゃが」
「別に~、私は戦うの、そんな好きではないんですよ~」
「テフラ。大分酔っとるな…」
「今年の優勝賞品は凄いぞぉ。伝説の魔道具、スキルブックじゃ」
「えっ!!!それは欲しいかも」
「まぁ、気にはなるのう…」
「ってか、なんでそんな事話して来たんですか…?」
「ちょっとな…」
爺さんは意味ありげに視線を外すと、
瞬時にユリの背後に周り、その尻を撫でた。
ユリは咄嗟に裏拳を放つが、爺さんはそれを後ろに飛んで躱す。
「ひょひょっ、若い女子はええの。だがまだ、ちと幼いな」
「こいつ!!」
「≪アームパライズ:腕縛り≫」
「なんじゃっ!…う、腕がっ!」
「おい…、クソジジイ、ぶち転がすぞ。まずその腕へし折ってやろうか…」
ブチギレたママルはそのまま爺さんに近づく。
「≪アプライ:鑑定≫」
●人間:拳法家 Lv71 その他不明
「なぁんでモンスターじゃねぇんだぁ?」
「す、すまないな。ちょっとおふざけが…すぎたようじゃ…」
「≪エンザ:不安拡大≫≪サッズ:悲嘆≫」
「マ、ママル、よ、よい…」
「よくないでしょ。なあジジイ、そこそこ強いみたいだな?じゃあ死ぬなよ」
「す、すまんかったあ!悪い事をしたぁ!!」
「≪ペイン:痛覚刺激≫」
「うぎぃっ!!!!!……ぐっ…うぅ…す、すまない……ずまない゛…っ!!」
「おい!ママル!もうよい!悪酔いしとるんか?!」
「ママルさん、ちょっと怖い~、でも爺さんもムカつくなぁ」
「……………………。ユリちゃん、いけ!16連射だ!」
「…………ふぅ。ではまぁ、そのくらいの罰を与えて、よしとしよう」
ユリは6発の魔弾を放ち、
ボコられた爺さんは泣いて謝っていたので、状態異常を解除して解放した。




