74.行先
「あれ?もしかしてもう国境越えてる?」
「…そんな感じするのう」
「何もないどころか、ずっと歩きやすいんですが…」
暫く緩やかな丘の草原が続いていて、
これがイーツで聞いた侵攻ルートなのだと理解した。
(こんな、なんか、壁とか関所みたいなのとか無いのか…ザルだな…)
「じゃあ、ここをずっと通って行くと、もう1個隣の国に行くのかぁ」
「グラスエスだったな」
「そっち行くのもアリですね」
「方角的には、北東がシーグランの王都、東がグラスエスだな」
「一旦、今日はこの辺りにテントを張っちゃう?」
「そうですね、腰を降ろして、どっちに行くか決めましょう」
そして良い感じの平地を見つけ、火を囲んでいる時。
「そういえば、パンラムの奴と最初に会ったのは、1月以上前だったかの」
「確かそんくらいだね、なんで?」
「その時の情報に、シーグランの東への侵攻、みたいな事を言うとった気がする…」
「あ~~~!言ってたかも!」
「言ってた気がしますね」
「ちゃんと聞いておけば良かったのう…」
「シーグランの東、正にさっき言ってたグラスエスだよね」
「もしかして、今戦争してたりするんでしょうか…」
「あり得るのう…」
「まじかぁ………正直さ、ちょっと考えたんだよね、ヴリトラさんに乗って、
1回シイズに帰って、また別の方向に行こうかなぁとか」
「ふむ…」
「どうしてそうしなかったんですか?」
「なんか……。まだ半年も経ってないタイミングで帰っても、
逆に、なんというか、気持ちが途切れそうな気がして」
「なるほど」
「まぁ、解るでな」
「でも戦争してる中に飛び込みたくないし、そうした方が良かったかもしれないなぁ」
モンスター退治と言う話なら、むしろ飛び込むべきなのだが、
流石に2人が心配だし、行きたくない。
「………そうかもな」
「ちょっと、軽く言いますが、後悔してても仕方ないですよ」
「…だな」
「…ですねぇ、じゃあ、北東か東、どっちに行こうか」
「お主が決めとくれよ」
「えぇ……」
「何も解らんからの。話し合って決める意味もなかろ」
「もっとその辺の情報集めるべきなのかなぁ」
「うぅむ…。わしらがもし、最高効率でモンスターを探すべき、と考えるのであれば、本来何をしてでもヴリトラを仲間に引き入れるべきだった、解っとるだろ?」
「まぁねぇ………」
「そうですね……」
(実際そういう事を考えた事はあるし、2人も当然思ってたみたいだな…)
それでも、誰もそれを口にはしなかった。
別にヴリトラが嫌とか、足替わりにするのが申し訳ないとか、そう言う事ではなくて、きっと、3人で解らない事をゆっくり探していくのが楽しいのだ。
「せっかくなので、楽しんで行きましょう。
ただでさえ、モンスターと会ったら楽しくなくなるんですから」
「うむ」
「ですね。じゃあ、決めちゃおう。北東のシーグラン王都で!理由は…」
「理由は?」
「国を1個飛ばすと、ちょっと気持ち悪いから!」
「はっはっは、実にお主らしいの!」
「良いですね」
と結論を出したところで、ママルが少しふざけて見せる。
「てことで、ちょっとワタクシ、お花でも摘んできますワ」
「はぁ?なんだその話し方、と言うか、花なんかあったかの?」
「小さい花なら咲いてはいましたが」
「え、あ、いや、その、トイレに…」
ママルはテントから離れ、林の中に踏み入れている時。
外でこんなんやるのも、いつの間にか慣れちまったなぁとしみじみしていた。
「たでま~」
と呑気に2人に声をかけると、ユリが静かに!というジェスチャーを送って来た。
ママルは駆け寄りつつ、小声で声をかける。
「えっ、ど、どしたの、てかテフラさんは?」
ユリは丘の上を指し示すと、その先にはテフラの姿が見える。
テフラは遠くを見ているようだ。
「暗くてよく見えんかもしれんが、よく見てみるのだ」
そう言われ、テフラの視線の先に目を凝らすと、煙が上がっているのが見えた。
程なく戻って来たテフラは、2人に情報を共有する。
「亜人、多分ゴブリンと、スライムが戦ってます」
「えっ…」
改めて耳を凝らしてみると、ギイー!ギイー!と喚くような声が聞こえて来た。
「スライムと言うのも初めて見ましたが、かなり危険かもしれません」
「ゆっくり寝てる場合じゃなさそうだのう」
「……せっかくテント張ったし、ちょっと俺行ってくるよ」
「お主、スライムの事知っとるんか?」
「なんとなくだけどね、2人は知ってるの?」
「噂程度ですが」
「わしもそうだな、アレは災害のような物らしいでな」
「えっ!」
(強いパターンの方のスライムって事?)
「物理的な攻撃は効かぬらしいし、そもそも生き物かどうかも怪しいで。
お主の呪術も効かんかもしれん」
「ええと、じゃあまぁ、コープスみたいなもんか」
それなら結局マジックスフィアで倒せるから問題はない。
「というか、討伐が可能だと言う話を聞いた事が無いですが…」
「と、とりあえず一目見て来ます…」
テフラの様に夜目が効く訳では無いが、丘の上からならギリギリ視認することが出来た。
ママルが先程入った林と続いている木々と草原の境目、
そこにゴブリン達の小さい集落と思しき物が見える。
その集落全てを、半透明、半液状の球体が飲み込んで行っているようだ。
立ち昇る煙は、スライムがその体で体内の物を溶かして出ているのだろう。
「でけぇ…なんだありゃ…確かに生き物か怪しい…」
ゴブリンはスライムについての知識がないのか、
1匹がこん棒を振り回してスライムを殴りつけた。
すると、たちまちゴブリンの腕までからめとられ、スライムの内側へ飲み込まれて行く。
別のゴブリンが必死で石を投げているが、同様に効果がない。
(何で逃げないんだ?まぁ、とりあえず、魔法が届く距離までもうちょい近づこう)
ママルは小走りで丘を駆け下りていく。
●モンスター:スライム Lv40
物理耐性(極)
●モンスター:ゴブリン Lv26 スキル:投擲 火付 解体
少数毎に縄張りを作り、季節に合わせて住む場所を変えている
非常に好戦的
弱点:凍、餓
(モンスター同士か…じゃあ静観しとくか…)
1匹のゴブリンが逃走を図った、だが直ぐにその足が止まる。
(?………足元かっ。あのスライム、地面から染み出すように湧いて来てる?)
スライムに触れた途端、その粘着力で動けなくなるようだ。
(ネズミ捕りみたいだな…。あの球体の部分とは繋がってるのか?もしくは別個体なのか…)
ゴブリンを拘束している部分にアプライを使ってみても、
先程と同じ情報しか得られなかった。
(エグいなぁ…、まぁ、ゴブリンも大体やられちゃったみたいだし、
このスライム、一応やっとくか…)
放っておくのも危険なのと、こういうのがいるならその対処法は知っておきたい。




