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55.クズ

ママルとテフラは、帰る前にアジト内を全て探索する事にした。

残党を始末したり、いくつかの資料を発見したりする中で、

悪臭の漂う部屋を発見する。


「うっ…血と肉、腐臭…ちょっと、すみません…」

テフラは両手で鼻を覆い、顔をしかめている。


「キツかったら、外で待ってて良いですよ」

ママルでさえ、かなり気分の悪くなる臭いだ。

嗅覚に優れるテフラなら、より辛いだろう。

「いえ、大丈夫、です…」


周囲を見渡すと、何にどう使うのか、想像するだけで身の毛もよだつ様な道具が並んでいる。

バラバラになった人間の部位、逆に手足を削がれている体、

そして五体が一見満足に繋がっている死体等。

ここは恐らく、拷問部屋だ。


テフラが拾った資料を見返しながら話す。

「さっき見かけた資料に確か…ありました…えっと、

魔法薬に頼らない、モンスター化実験」

「そ、そんな事のために、生きてる人を拷問してたのか…?」

「肉体を使って、精神を追い詰める。極限状態に追い込むほどに強力なスキルが発現しやすい。コープスとして、より強力な兵士を…」

「…………くそっ……」


ママルは激しい怒りを感じた。だが同時に、このアジトで殺してきた奴らが、

ちゃんとクズで良かったという安堵も感じてしまう。

(やめろ、この思考は、良くない…)


「この名前の一覧は…拷問した人のリスト…やり方もそれぞれ変えて…結果を見てるみたいです」

「ありがとうございます…解りました…もう出ましょう…」


呪術師やメイリーの事も気になるが、今はどうにもならない。

2人はアジト内の探索を終えると、ショーンの家へと戻った。



「ユリちゃん、ただいま」

「戻りました」

「お主たち!結局どうなった!敵のアジトに行ったのか!」

「あぁ…それで、その、ショーンさん達に、その、まず、確認してもらいたくて」


ママルはそう言いながら、拷問された人間のリストをユリに見せた。


「こ、これは…」

ユリは震える手でリストをめくる。

「いや、こんな、こんな物!見せる訳にはいかん!」


「解るけど、でも、ショーンの奥さんとか、カールの両親とか、名前があるか確認しないと…」

「…まず、わしが、皆に探し人の名前を聞く…」

「あぁ、確かに、それが良いね…だけど、その前に、聞いて欲しい…」

「お主っ…よく見ると、随分疲弊しておるな…今日は休め」

ユリはママルがこれほど疲れを顔に出しているところなど見た事が無い。


「いや、敵に逃げられた、少しでも、情報は、共有しておきたい」

(なんでこんなに疲れてるんだ…。

多分、魔法薬で精神にダメージを負ったからかな…。

精神が肉体を作る、めんどくさい設定だ。

俺の精神は前世のもので、強靭なのは……肉体だけか……)

ママルは布団の上に腰を降ろしながら話す。


「あいつの魔法、呪術って言ってたけど、かなり危険だ。

これは体感なんだけど、例えば、火を起こす魔法は、普通自分が火を出すという現象を起こす。けどあいつの呪術は、対象が燃えているとか、火傷してるとか、そういう現象を起こすんだ…」

「メイリーさんが、魔法を唱えられた途端に頽れて嘔吐していました。奴は肉を混ぜる魔法とか言ってましたが」

「魔法によっておこる現象を、自己ではなく他人に強制できるのか…?

そんな事が可能なのだとしたら、戦闘において…最強ではないか…」

「ですので、もし対峙したら逃げて下さい…。

アレは、例えばユリさんの魔障壁にそもそも干渉しない可能性もあります」

「……くっ…わしは…………」



テフラがその呪術師の外見的特徴を伝えつつ、

アジトでの他の出来事を話していたが、眠気を我慢しているようだ。

ママルはいつの間にか寝てしまっている。


「テフラも、もう寝るがよい、もう朝日も昇って来た」

「そう…ですね」


(今回、わしは何もしていない…。

勿論、この民達を守る役目の必要性は十分承知しているが…。

わしだって、もっと力になりたいのに…。

今残っている問題は、まだいるだろうモンスター化した人たちの対処と呪術師…。

連れ攫われた人たちは………)


「…悔しいな」

(でも、わしも寝るべきだ、少しでもこやつらの力になりたいのならば…。

わしに出来る事など、もうそれほど無いかもしれんが…)


ママルとテフラはここに着くまでは気を張っていて、眠気を感じていなかった。

だが、ユリの結界は勿論、大切な人が近くにいるその安心感から寝落ちてしまったのだが、ユリはそれを知る由はない。



――


翌朝、ママルは1階から聞こえるカールのすすり泣く声で目が覚めると、

部屋の扉を開けてユリが入って来た。


「ママル…起きたのか…」

「ユリちゃん…話したんだ」

「あぁ…あくまで、殺された、被害者のリストが見つかったという形でな…」

「やっぱり、駄目だったか…」

「あぁ…両親とも、それにショーンの妻もな」

「……嫌な役押し付けちゃってごめんね」

「いや、いいのだ、このくらいは」


「…あれ、テフラさんは?」

「上だ、屋根の上から外を見張ってるらしい」

「なるほど、結界内に居つつ、こっちからは見れる方法かぁ。

でもあいつ、まだこの街にいるのかなぁ」


それから程なくして、強大な魔力波を感じ取った。

魔力波というのがなんなのか、イマイチ解っていなかったママルだが、

今のは間違いないと確信できたほどだ。


「ユリちゃん!今のは!!」

「かなり大きいな、一体……」

数分後、テフラが窓から部屋に戻って来る。

「お2人共!!街の住民が!!」

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