表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/186

52.幻

(流れで、敵の本拠地と思しき所まで来てしまったけど、

まぁ俺1人でなんとか出来るならその方が良いだろ…。

しかし、メイリー、かなり危険だな…。言動もなんと言うか、

殺しとか掃除とか、一貫してないような感じがする)


道中、モンスター化した人らしき姿や声が聞こえるたびに、

メイリーは即座に殺して周っていた。

(俺の魔法も人の事言えたもんじゃないけど、なんて言うか…)

怒りと快楽で歪んでいるような顔で、必要以上に繰り返しナイフを突き立てる様は、ママルの心を動揺させるのには十分だった。



アジトは、街中の民家から地下へと続くように広がっていた。

入口からここまで20人程度、その半数以上をメイリーが殺している。

敵を見つけ次第、瞬時にスキルで背後に移動し刺す。単純だが強力な技だ。


「ママルちゃん、凄いわ…でも死体が汚くなるのは、なんだか気になっちゃう」

「あ、あぁ、じゃあ、俺は動きを止める魔法でやろうかな…」

「良いわね!それが良いわ!」


結構奥の方へ来ただろうか、少し大きめの扉を開けると、

人が2人通れるだけの通路が現れた。


そこに不用心にも踏み込むと、突如上から大量の粉が、ママル達に向かって落下して来る。

「うおっ!」

「≪潜闇≫」


ママルは粉の下敷きになり、メイリーはスキルで、

地面に潜るようにして、室内まで移動し回避した。

「ママルちゃん、大丈夫?」

(こ、これは…、魔法薬か?!やばい、吸っちまった!)




例えばポーションとは、魔法薬そのものである。

そして魔法薬に限らず、食事等のアイテム然り、ママルはその効果を100%享受してきた。

どれだけレベルが高くとも、アイテムの効果は100%発揮される。

大量の粉は、街中で配られていた魔法薬の改造版。

トランサーと名付けられたそれの効果は、

1.幻覚状態を引き起こし、意識は朦朧とし幸福な悪夢を見る、

かつモンスター化直後の狂乱を抑える。

2.攻撃衝動の増加、モンスター化を促す。

3.精神と意識の結びつきを強める。コープス化させた際に、生前のスキルを引き継げるようにする。

4.自傷、というスキルの付与。スキルの植え付けにより、肉体変化を促す。


これらによって、ほぼ確実に、一撃でモンスター化を成功させる。

さらに自傷のスキルは、別の魔法薬によって強制的に発動させる事が出来る。




(意識が、ボヤける…、胸の奥が、ムカムカする…何、してたんだっけ。

気持ちが悪い。吐き気が込み上げる。

いや、気持ちが良い。脳が、体が、分離して飛んでいくみたいだ。

あれ?ユリちゃん、テフラさん、どうしてここに居るんだ?)


2人は、仲睦まじく談笑している。

その中に、ルゥが混ざって来た、続いてリンが、シイズ村の皆が、

ヒポグリフの皆が、これまで出会ってきた人たちが次々に集まって、

とても楽しそうに、幸せそうにしている。


「何してるの?」

ママルがそう声を掛けると、皆が恐怖におののき、逃げ出した。

だが逃げた先に、ママルと同じ姿をした者が立っていて、

次々と魔法で殺して行く。

「や、やめろ!やめろ!!!」

ママルは、もう1人のママルに飛び掛かって、殴りつける。


頭が弾け飛ぶ、片腕が落ちる、内臓が飛び散る。

それでも何度も殴りつける。

「俺じゃない!これは!だから!」

振り返ると、ユリが笑顔でこちらを見ていた。

(良かった…)

もう一度、もう1人のママルに向き直ると、その姿はルゥの死体になっていた。

「な、なんで!!!」

「フハハハハハ!!!」

「お、お前!アルカンダルの国王!!」

「私は、お前に復讐するために、魔王になって蘇ったのだ!!フハハハ!」

またもや、飛び掛かって殴りつける。

「死ね!死ね!死ね!死ねぇ!」

「ぐわあああああ!!」

「救世主様!勇者様!ヒーロー!ありがとう!ありがとう!」



――――


「良かった。避けたのがメイリーの方で」

「誰?あなた…」

トーチはモンスター化していないため、メイリーは攻撃に移らずにいる。


「思った通り。私はトーチって言うの、覚えなくていいけどね…≪ウィーク:欠点探知≫」

「…?何?」

「ふ、ふ、ねぇ、ちょっとこっちへいらっしゃいな」

「嫌よ、何か、あなた怪しいわ、さっきから、魔法で何してるのよ…」

「ちょっとね、これを、見て欲しいの≪イマージュ:虚像≫」

そう言って、トーチは魔法による幻影で作った姿見を、ドンと目の前に置いた。


「……………!?!!???」


「どう?あなた、最近鏡見た?無意識に避けてた?ちゃんと見て?自分の姿を」

「い、いやっ……」

「ほら、これがあなたよ、あなたが大嫌いなモンスター」

「違うっ!」

「違わないわよ、ほら、よく見ないと!≪イマージュ:虚像≫!」

もう一度同じ魔法を唱えると、メイリーを取り囲むように複数の姿見が配置される。

「そんな!そんな!嫌っ!やだあああ!!!!」

「ほら、ね?殺さなきゃ。憎いもんね?殺さなきゃ!」


その場にへたり込んだメイリーの瞳には、自分自身の顔が、蛆虫に覆われている姿が映っていた。そんな自分の顔に爪を立て、ギリギリと皮膚を抉る。

(痛い、痛い!死ね!殺す!痛い!気持ち悪い!死ね…!)



トーチの背後から、ブランドが姿を現した。

トーチと同じく、ガスマスクのようなもので口元を覆っている。


「おい、このまま殺せ」

「え?こいつら2人に殺し合いさせるんでしょ?」

「よく見ろ。もう俺達だけで殺せる。ここまで見事にハマってくれるとはな」

「確かに…」

「俺ら2人で、ハイクラス2人に勝てるんだ、やるべきだ!」


(2人って、ほとんど私のお陰じゃないの)

「ま、じゃあ駄目押しね。≪トラマト:心傷刺激≫」


メイリーの脳内に、あの日の記憶が不確かに、より辛い思い出となって蘇る。

蛆虫に取りつかれた自分が、友や両親を手にかける景色。


そしてメイリーは自分の、父親のナイフを手にして、自分の胸に当てがった。

刃を横に倒す。この位置だ。骨に当たらず、一突きで心臓を刺せる。


「ハッ…はっ…はっ…はっ……っ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ