44.コミュニケート
「シモンヌさん、ありがとうございました」
ママルに続いて、ユリとテフラもシモンヌに向かって会釈をする。
「いや!こちらこそといいますか、本当に助かりました、この後はどちらに行かれるのですか?」
「一旦、えっと、なんだっけ」
ユリに視線で助けを求める。
「ディーファン、だな」
「そう、そこに向かおうと思ってます」
「ほう、結構距離がありますが、まぁ馬車で半日もかからない筈です」
「ご存じなんですね、どんな所ですか?」
「以前行ったときの記憶ですが、アルカンダル程じゃないですが栄えていて、街並みが美しかったですね」
「お~、楽しみになってきました」
「馬車ならビービムルから出してくれると思うので、頼ってみてください」
「ありがとうございますっ」
――ビービムル、村長宅
「馬車?出せるが、あんた達はあのフローターで来たんじゃないのか?」
村長に話を聞きに行くと、ママル達が乗って来たフローターを指して言われた。
「あ、まぁ、そうなんですけど、操縦できる者がいなくてですね」
「御者に逃げられたのか?」
「まぁ、そんな感じです」
「っかーっ!最近のもんは、責任感が足りんっ!」
などと、パンラムを一目も見ていない筈なのに勝手なことを言っている。
「なので、あのフローターは売るなりなんなりしちゃって下さい。元々盗賊から奪った物ですし」
「いいのかっ!!結構高いぞ!」
「そ、そうなんですね」
「フロートの魔法陣を刻める職人が、それほど多くないらしいからな!」
「まぁ、でも使い道もないので、…そうだ、馬車を出してくれる賃金だと思ってください」
「いや、何から何まで、ありがたい」
「村の復興とかもあるでしょうからね」
「助かる。では、ファーマンのとこに案内しよう」
その後、ファーマンという人が出してくれた馬車に乗り込み、
ビービムル村を後にした。
「東の方にしばらく行った先、だったっけね」
「うむ、ところで、少し気になったのだが、お主よ」
「何?」
「以前、コミュニケーション能力が低いとか自分で言っておった割に。
結構色んな人と普通に話すな?」
「え?いや、その、なんて言うか、話す事決まってればさ、別に良いって言うか。
基本的に用事があって話しかけてるし。それに、長い付き合いになる訳でもないし、みたいな」
「ふうむ。解るような、解らんような」
「私は結構解るかなぁ」
「ですよね!ってかさ、じゃあユリちゃん。ファーマンさんと話してみてよ、
俺はそういうのが出来ないから」
「む、別に構わんが…」
ユリはそう言うと、幌を捲くり話しかける。
「ファーマンや」
「はい?どうしました?」
手綱を引きながらファーマンはユリに応答する。
「何時間くらいで着きそうかの?」
「あ~、私は行った事ないので、なんとなくの答えになっちゃうんですが、
休憩込みで4、5時間と言ったところですかねぇ」
「馬車を持っとると言う事は、よく外に出るのではないのか?」
「まぁ、出ても決まった村に人や荷物を送るだけですよ。それに基本的にはビービムル村内の荷運びです」
「ふぅん。なるほどのぅ」
「いやしかし、サイクロプス達をやっつけたと聞いてどんな豪傑かと思ったら、こんな若い女性達だとは」
「シモンヌのとこの兵も頑張っておったぞ」
「へぇ~、あいつら、たまに出る猪とかを狩る以外の事も出来たんだなぁ」
「ははっ、そういえばビービムルの村民とシモンヌの関係は、やけにフランクだったのぅ」
「シモンヌ子爵が昔からああいう人ですから、村長と喧嘩してるときなんか面白いですよ」
しばらく会話が続いている。
「あ、ママルさん、そういえば」
「どうしました?」
「言葉のニュアンスの違いって言う話で思い出したんですが、人と人間と言う言葉を区別して使ってるの気づいてました?」
「あ~~、そういえばそうかも?くらいですね」
「人は私達獣人や鬼人等も含めた総称で、その中の一種族が人間なんですよ」
「…なるほど~、今度から気にして聞いてみます」
「それで、ママルさんが使う魔法で解る【クラス】と言う奴、それって人以外で確認出来た事ありますか?」
「あ~、いや、無い。かも?」
試しにこっそりと、馬とファーマンにアプライを使用してみると、
ファーマンにだけ【農家】と言うクラスが確認できた。
「それって結構不思議ですよね。例えば、盗賊は自らが盗賊だと解ってるとは思いますけど、私のスレイヤーなんて全然耳なじみがない言葉なので、どういう理屈なのかなって」
「確かに……………。スキルと同じ感じかなぁ」
「まぁ、スキルも確かに、名前とか自分で決めてる訳でもないですが」
「う~む…いや、なんなんだろう」
「おい!お主が話してみろと言ったんだろ、なんでテフラと雑談しとる」
「あっ、ごめん」
「すみません、私から話しかけちゃって」
「まぁ、別にええがの、ファーマンは中々面白い奴だし」
「いや、その誰にでも同じテンションで話せるの、ほんと尊敬するわ」
「言うほど同じではないと思うがのぅ」
「そう?」
「少なくとも、ママルさんと話してる時は違いますよ」
「こらっ!」
「そうなんだ…」
「つ、付き合いが長いからの!」
「そういやルゥさんと話してる時はもっと緩かった気が…。って言うか、
シイズを出た頃より、よくプリプリしてるね、やっぱ気ぃ張ってるの?」
「…なんか気になる言い方だが、まぁそうかもな。アルカンダルの出来事は少なからずショックだったからのぅ」
そんな会話をしながら暫くすると、ディーファンに到着した。
だが、どうにも街の様子がおかしい。そろそろ日も暮れてくる頃だ。
ここで一泊する予定だったファーマンにユリが声を掛ける。
「ファーマン、お主は、さっき通り過ぎた村に戻った方がよい」
「しかし!…いや、サイクロプスを倒したあなた達なら、大丈夫なのでしょうね」
「そういう訳だ、ビービムルに戻ったら、この雰囲気だけでも村長やシモンヌに伝えてくれ」
「解りました、ありがとうございます。それでは、お気をつけて」
(ビービムルでの出来事は、わしの失策だった)
結果としてはうまく行ったものの、シモンヌの兵は死んでもおかしくない状況だった。ママルが投げられた時、即座に理障壁で受け止められたら…。
テフラも、あのままサイクロプスに好き勝手に攻撃されていたら、
即死することは流石にないだろうが、重傷を負っていた可能性が高い。
そもそもユリ自身もかなり危ない状況だった。
(やはり、未知というのは恐ろしい。…ママルだけは、どんな状況でも死ぬイメージは湧かないが)
読んでいただきありがとうございます。
次話から始まる街での話は、少し長めになります。
ブクマや評価等いただけると、とっても助かります。
そして既にしたよ~って方、ありがとうございます。感謝。




