43.雑談
「さて、目的は達成したが、このまま帰るかの?」
「そうだね、他はとりあえず用事ないし、シモンヌさんや村の皆に報告しよう」
負傷した兵士にポーションを渡しつつ、そう話していると、
森の奥からこちらを覗いているサイクロプスを見かけた。
「ま、まだいたのかっ!」
「既にこちらを視認してますね、どうしましょうか」
「待てっ、なんか様子が…」
遠目に観察していると、サッと森の奥へと逃げて行った。
「攻撃してこない…」
「あれがモンスター化していない、普通のサイクロプスなのではないか?」
「そ、そっか…」
「では、大丈夫そうですね。帰りましょう」
(さっさと帰れよ…しかし、殆どたった2人でサイクロプスをやっちまった…)
樹木の上で、葉で作った被り物で身を隠していたスカアは、ママル達を見て動けずにいた。
モンスター化したサイクロプスの経過がこれ以上見られないのは残念だが、
それよりもこいつらの事を一刻も早く仲間たちに知らせた方が良い気がする。
あの兵士達は多分シモンヌのとこの奴らだ、あの辺りは避けて帰らないとな…。
いや、でも、あいつらの情報ももっと得た方が良い気もする。
正直戦闘になれば、少なくとも俺1人では全く勝てる気がしないが…、
クソッ、迷ってる時間が…一旦尾けるか?)
「…≪ミュート:消音≫」
スカアは自身が発生させる音を消すスキルを唱えた。
「むっ」
ユリが振り返り、樹木の上の方に視線を送る。
「どうしたの?」
「いや、今魔力波を感じたような…」
「へぇ、そういえば、魔法を使える猿とかいるのかな?」
「……まぁ、いるかもな…」
「確認してきますか?」
「……わしら以外の人の匂いとかせんかの?」
「すんすん…特には」
「戦闘後で気が張ってるんじゃない?」
「まぁ、そうだな、行こう」
(…くそっ、あの女は感知系のスキル持ちか、危なかったが一つ情報は増えたぞ、
予め匂い消しを行っておいてよかった…尾行は無理だ、帰ろう)
――
ビービムルの村長に報告すると、それはもう喜んでいたが、
村自体は倒壊した家や亡くなった人がいるため、祝杯を挙げられるようなムードではないし、食料も不足しているので、シモンヌに出させてくれ、と言われた。
そう言われるとなんだか集り屋みたいで嫌だなぁと思いつつも、
どっちみち顔を出すつもりだったので、兵士達と共に再びシモンヌ邸を訪れる。
シモンヌは討伐完了の報告をする兵士達の、興奮した口ぶりに喜びを隠さず、
客間で用意してある食事を食べてくれと勧められた。
兵士達は今日の出来事を嚙みしめる様に話し合っている。
「いやぁあああ、ほんっとに!ありがとうございます!」
「いえいえ、でもこんな料理が用意してあるなんて、ちゃんと信じててくれたんですね」
「もちろんです!と言うのは建前で、やっぱり正直不安でしたよ?
でもこのくらいはしておかないと、あまりにも不義理じゃないですか!」
「ははっ、正直な奴だのう」
「よく言われます、シモンヌは馬鹿で正直だって」
「いやっ、はは、俺は馬鹿だなんて思いませんよ」
「くぅぅうう~~~っ!なんて優しいお言葉を!」
(シモンヌさんって、こんな感じの人だったのか)
「ふふっ、何と言うか、小気味のいい人ですね」
とテフラが小声でママルに話しかけた。
「解ります」
「あんな強大な野生モンスターを、私の兵士達と一緒に討伐してくれたと言うのが、何より嬉しいのです!誰一人欠けることなく!」
「ほんと良かったです」
(いや実際かなり危なかった、連れてきた事を後悔するとこだったよ…)
「これで躊躇うことなく、お主の手柄という事にできるのぅ」
「えっ、いや、それは、まぁ」
「お主の兵が戦ったと言う功績を、無くすわけにもいくまい」
「………いやはや、参りました」
「城で今後どうするか話しとる時、よくお主の名が出ていたのだ。
立場があって良識のある人間は、もはや希少だからのう」
「では初めから!私を担ぎ上げるために?!」
「流れで思いついただけだで」
(ユリちゃん賢いなぁ)
「ところでその、シモンヌさん。つかぬ事をお伺いしますが、野生モンスターと言うことは、野生じゃないのもいるんですか?」
(野生モンスターという言葉、なんかずっと違和感があった、折角だし聞いてみよう)
「まぁ、そうですね、たま~にですが、家畜やペットが人的被害を出した場合とかは、野生モンスターとは呼びませんので」
「人的被害を出すやつがモンスターと呼ばれていると…?」
「そもそもモンスターと言うのは、人に仇なすもの、と言う意味の言葉ですからね」
「人に仇なす…。人に対しては、モンスターと言う言葉は使わないんですかね?」
「いやっ、まぁ、その…。差別や侮蔑の意味で使う人はいるかもしれませんが…」
(…なるほど、人に危害を加えた生き物と、他者への加害欲を得た生き物。みたいなニュアンスの違いか…。まぁ特に区別しておく必要もなさそうだから良いんだけど、ちょっとスッキリしたな)
「いや、ありがとうございます、助かりました」
「いえ、こんな話で良ければいつでも」
量はそれほどではないが凝った料理。そしてぶどう酒。
加えて兵士達が話す、サイクロプス討伐の武勇伝を肴に食事会は盛り上がり、
深夜には、昨晩寝たのと同じ部屋へと案内され、
それぞれのベッドに横になったりしている。
「いやぁ、ぶどう酒と言うのも中々いいですね~~、結構酔いました」
「ははは、テフラさん普段クールだから、酔ってる時の感じ見るとなんか安心するなぁ」
「別にクールじゃないですよ~…。あの、窓開けて良いですか?」
「どうぞ~」
「構わんで」
テフラは開けた窓から外を見て、肺いっぱいに空気を吸い込む。
「はぁ、気持ちいい…」
「あ、そういえばさ、ユリちゃんとテフラさんは、野生モンスターがどうのっての気になってなかったの?」
「いや、というか、わしらは元々の意味を知っておった上で、神様の話を聞いたからの」
「あ、そっか」
「いやすまん。これはわしが気づいて教えといてやればよかったのぅ」
「いやまぁ、気になっただけで、特に何か実害あったわけじゃないし、
てかむしろ、俺が気づいて聞けば済んだ話だったかぁ」
「ママルさんと話してると、時々常識が違ってたりして面白いですね」
「まじ?向こうの世界の話聞きます?」
「それは興味がありますね」
「わしも」
2人は、ほんの些細な話でも、とても興味深そうに聞いてくれた。
「魔法、というかスキル等がない代わりに、科学技術等が発達しておるのか、なるほどの~…、いや面白い」
「人間以外の人族がいないと言うのは、ちょっと寂しいですねぇ」
「そう!だからテフラさん見た時、本物の獣人だー!ってめ~ちゃくちゃテンション上がった」
「?…。初めて見る生き物を見て、嬉しかったんですか?」
「まぁ、フィクションとかでは見た事あったので」
「は~ん、解ったでな。それでお主はず~っとテフラをジロジロ見て気にしとったんかぁ」
「ちょちょ、や~め~ろ~よっ」
「…酔っとるお主は、うざい成分マシマシだのぅ…」
「えっ…まじ?」
「すまん、まじ」
「アハハハッ!」
深夜の3人の雑談は、ユリが寝落ちするまで続いた。




