33.死者
探索を続け、数体のゾンビに驚かされながらもを倒しつつ、
話し合い、気づいた事がある。
アンデッドとは=不死。だがこのゾンビは不死ではない。
と言うか、おそらく元々死んでいるのだ。
呪術。呪いとは生者への怨念。生きていない者には効かない。
実際、呪術ではない≪マジックスフィア:魔力球≫だと、
一撃で倒すことが出来た。
神様との話で、優先度が低いものは無くても生きていると認識できる、みたいな話があった気がするが、
呪いが通るかどうかとは、また少し違う話のような気がする。
誰かを呪う時、その対象はある意味で呪われる準備が出来ていないといけない。
そこに呪う側の認識は関係ないんだ。
俺の知ってるゾンビの知識と混ざると面倒なので、
一旦死体兵と呼ぶ事にした。
そして、ではなぜ、死んでいるのに動いているのか。
ここにヒントがありそうだ。
「生き物は、肉体、魂、精神で構成されてる、だったっけ」
「あっ。まぁ、もうよいか」
「あっ、そうだった、まぁ良いでしょ」
「何の話ですか?」
「他言無用で頼むで、神様から聞いた話だ。生命が構成されている要素」
「へぇ……。面白いですね」
「で、この死体兵の肉体は間違いなくあるとして、残りの2つかぁ」
「モンスター化しておったのだろ、だから襲ってくる。
ではおそらく精神もある。つまり、欠けているのは魂だな」
「3つがあれば生きている事になり、呪術が通るはずだから、ですね、なるほど…」
「すまんが、テフラよ。奴らは闘技場で魔法薬を使っておったのだろ。
それはこの3つで言うと、どれに影響しとると思う?」
「精神だと思います。肉体、というか頭に影響してる可能性もありますけど」
「では、呪術で魂をどうにかしとる、と考えるのが自然か」
「…?なんで?」
「肉体はある。そして先程言ったように、精神もある。
なのでおそらく魂が無い。使われた魔法薬は精神か肉体に影響を及ぼす。
つまり、ここまでで魂だけは外的要因を受けておらん。
そして呪術が関わっておる。纏めるとこんな感じか」
「なるほど……魂ってなんだろ」
「動力源のような物と考えておる。魔道具で言う所の魔導核のような…」
「じゃあやっぱり、なかったら動くわけないよね」
「……ふむ。そうか、おそらくだが、
一度死に魂が抜けた後に、代わりの動力を入れるのか」
「それを呪術でって事?呪術は死体には効かないって話になったじゃん」
「まぁ待て、えっと。例えば…、そうだな…。
死んでおる者を呪う事は出来ない。だが、生きている者を呪い、
その手段として死体を使う。これならどうだ?成り立ちそうだろ?」
「ん?………いや、なるほど…つまり死体はただの呪具みたいな感じで、
かつ凶器の役割も果たす、みたいな?」
「まぁ、確証はないでな。あくまで想像だが」
「そうなると、国王達は誰を呪ってたんだろ…」
「それと、この実験の実行者たちも気になりますね」
「国王。殺さない方が、良かったのかな。色々聞けたかもしれないし」
「無意味な後悔をするでない。それにアレを生かしておくのは、皆が納得せんかったと思うがの」
「………ありがとね」
「いや、よい。では一旦戻るか、もう少し探索するか…」
空は、茜色に染まっている。落ちる影の黒は深い。
もうすぐ夜が来る。
「一旦戻ろ…暗くなりそうだし」
「最初の、あの石の家で夜を明かすか」
「行きましょう」
村の奥の建物から出ると、一同は一瞬硬直する。
死体兵達が次々とこちらへ向かってやって来ているのだ。
テフラが即座に、近くにいた死体兵の首を飛ばした。
「な、なんだこいつらは!夜行性なんか?!」
「し、知らない!」
気づくと、ママルとユリは両手を握り合って身を寄せている。
「大丈夫、私が倒します」
「た、頼んだ!!お主も戦わんかい!」
「ユ、ユリちゃんこそ!怖くないんでしょ!!」
「多いから!!」
結局、ママルは≪マジックスフィア:魔力球≫を、ユリは≪魔弾≫を主に使用して、
テフラを援護しながら殲滅して行った。
「か、片付いたかの…」
「はい、その、この人…」
テフラは1人の男の死体の前から動かずにいる。
「どうかしました?」
「前に……、闘技場で私が殺した方だと思います…」
「そ、そうでしたか……」
「あそこで出た死体も使っておったのだな…」
「すみません、先に戻っていて下さい」
「えっ、ちょ!もう真っ暗ですよ!」
「大丈夫、私は夜目が効きます。お2人はあの家で待っていてください」
そう言うと、テフラは駆け出した。
「…お、お主は効かんのか?夜目」
「目どころか耳も、人間の時とそんな変わらないかな…」
――
(コヤコの死体があるなら、せめて弔ってあげたい…)
そう思い、居ても立っても居られずに、次々と廃屋の中を確認して回ると、
入り組んだ路地の一角に、コヤコは居た。
手足はなんとか動いているが、背骨が砕けているためその場から動けない様だ。
「コっ…!コヤコ!!」
「グゥゥアアア………」
「ッ……………!ごめん……、ごめんねっ!!」
近づき、手を取ると、もう片方の腕で引っかかれたが、それほど痛みは感じない。
テフラは意を決したように右手を振り上げる。
せめて、今、楽にしてやらねば。こんなのはあんまりだ、
そう願うが、振り下ろせない。
(ついさっきまで、散々死体兵達の首を刎ねていたのに…、勝手だ)
「うっ…ぅぅっ…、ぅぅぅぅぅ………」
様々な感情が入り混じり、テフラは涙を堪える。
そういえば昨日も泣いたっけ、私は、こんなに泣き虫じゃなかったはずなのに。
村に盗賊が来た時、連れ攫われた時、盗賊の元に居た時、
奴隷商の元に居た時、闘技場に買われた時。
ずっと2人で励まし合っていた。
1人じゃなくて良かったって。
殺されないだけ良かったんだって。
奴隷だって、良い人に買われることもあるって。
お互いが居れば大丈夫だって。
「どうして……、こんな………」
「て…、ふら…」
「!!コヤコ!!」
コヤコは運よく、完全にモンスター化する前にここへ運ばれていたため、
幼馴染の姿を目にして、攻撃衝動は抑えられた。
だが、一度死に、失ったはずの本人の意識がまだ残っていた事への説明は、誰にも出来ない。
「は、は…、泣い、るの、?」
「ごめんね!ごめんねっ!」
「生き、て、くれて、………嬉しい…」
「わ!私は!!」
「だい、うぶ、…テフラ、なら、だいじょうぶ、だよ…」
「違うよ…私は…コヤコにっ…」
「…いいん、だよ、…テフラは、どうか、ずっと…元気で、ね」
コヤコは、その精神を解放し、今度こそ安らかに息を引き取ったのだった。
「うっ…うう……………うえええええん、え~~~~~~ん、え~~~~~~ん」
様々なものが決壊したテフラは、やはり泣き慣れていないのか、
しばらく子供のように、夜の闇の中、独り泣きじゃくった。




