17.今後
ルゥはユリの額に濡らした布をあてがいながら膝枕をしている。
「神様があんなに長く話してるの、初めて聞きました」
「あれほどの会話が出来るものだったのだな」
「そうだったんですね…無理させちゃったのかなぁ」
先程魔力切れかと思い、ハイマジックポーションを取り出しユリの口に含ませてみたが、
ほんの少し表情が和らいだように見えた程度だった。
「以前もユリちゃんが、神降ろしが終わると体が熱い感じがするって言ってたので
きっと大事ではないと思いますよ」
「それなら良かった…」
「肝が冷えたぞ…」
ルゥがママルに質問を投げかける。
「それで、ママルさん、さっきのお話、私はあんまり、
特にゲエムとかってよく解らなかったんですが、どうでしたか?」
「どう、と言われてもなぁ…、いえ、なんとなくは理解したつもりなんですが」
「ママルさんって、別の世界から来たってホントですか?」
「あ、はい。その、記憶が無いみたいなのは嘘なんです。
こんな話信じてもらえないかと思って、ごめんなさい」
「そっか…、なるほどな~、なんか、色々腑に落ちました」
「私は、ママルさんが救世主だと言うのは、
てっきりこの村を救ってくれた事についてだと思っていたのに、
まさかこの世界を!なんて話だったとは…」
「ま、まぁ、そんなに期待されても困っちゃうんですけど…。
それこそ前の世界では、ごく普通の人間だったので…」
「ふ~ん。凄いな~、ママルちゃんは」
「ちょっ、何?!」
「ふふふっ、ちょっとイジワル。嘘つきへの罰です」
「ちょちょっ!なんそれ!かわいいかよ!!」
えっ!と声に出しそうで出していない二人の視線が刺さる。
心なしか二人共顔が赤い、そしておそらく俺自身も。
(マズい。変なテンションで応答してしまった)
「ちょっと、外の空気吸って来ます…」
「あ…うん…」
ルゥの言葉を背に社の外へ出て、裏手へ回った。
「すぅ~~~~……はぁ~~~~~~」
(深呼吸。なんだかテンションが上がってたみたいだ。
落ち着いて、さっきの話を考えてみよう。
結局俺は魔法でモンスターを倒せばいいだけなのか。
なんか、魔王みたいなのとかいないのかなぁ。
モンスターと言うのも、解るようで解らん。
あの盗賊のボスみたいに、皆バーサーカー状態なのか?
だとしたら判別しやすいし、倒しやすいから楽だけど…。
精神が肉体を作り変えると言うのも、無限の可能性すぎないか。
どうにか精神を鍛えるような手段があれば、無限に強くなれるんじゃ…
いや、だとしたら全個人がバランスブレイカーになりかねないし、
それだったらもうとっくにこの世界は終わってるか…)
などとまた答えの出ない思考を巡らせてしまう。
次に神様と話せるのはいつになるのだろか。
(元の世界の俺が死んじゃってるなら、もうあまり未練はないな。
それでも、先に死ぬなんて両親には申し訳ない事をした…。
親かぁ…なんか色々覚えてないこともあるっぽいけど…)
幼少期からの記憶を遡って見ても、何か齟齬を感じるようなことはなかった。
(世界を救うとか、そんなものに使命感が燃えるタチではないけれど、
まぁ出来るならやるしかないか…。
それが俺の両親や、ここで優しくしてくれた人たちに報いることになる。
そうだよな……
はぁ、しかし、世界を回って雑魚モンスターを狩り続けるなんて…)
「なんつーか。クソ地味だよなぁ~…」
仰向けに寝転び、ボーっと空を眺める。
気が付くと、夕方に差し掛かってきていた。
「ママルさん、こちらでしたか」
「ハンさん、ユリちゃんの具合は?」
「先ほど気づかれたので、お呼びに参りました」
「あ、ありがとうございます。良かった~」
「それでは戻りましょう」
2人が戻って来た姿をみて、ユリが声をかける。
「おう、ママル、どうだった?」
「え、あぁ、こっちのセリフだけど。まぁ色々驚いたよ」
「わしも驚いた、はっはっは」
そんなユリをルゥが心配そうに見つめる。
「ユリちゃん、ホントにもう良いの?」
「あれほどの時間降ろしたのは初めてだったからのう、
もう星霊力がすっからかんになっちゃったわい」
(やっぱり、魔力とは別の力か…)
「つまり、消耗で一時的に体に負荷がかかっただけだでな、もう大丈夫、心配あんがとな」
思ったよりあっけらかんとしているユリを見て、ママルが声をかける。
「その、どのくらいで回復するの?星霊力とかっていう奴は」
「う~む。今までは多くとも大体一月置きに、
一言話してもらうだけだったからのう。それがあれだけの時間話したとなったら、
年単位でかかるかも?まぁ、さっきも言った通り全部消耗したのは初めてだし、解らん」
「そっかぁ~」
「というかお主、なんでわしにだけタメ口なんだ」
「え、あぁ、確かに。なんかタメ口利かれたからか、タメ口で返しちゃってたな…」
「ふんっ。まぁよいがのぅ」
「良いんだ」
「細かい事は気にしないタイプなんだよ~。お主と違ってなっ」
「いや、合ってるけど、なんで解るの?」
「顔に書いてあるわい、なあ?ルゥもそう思うだろ?」
「えっ、と、そう、だね、ふふふっ」
「あ、ひで。って言うか別に、皆ももっと普通に話してくれて良いよ、
それこそユリちゃんみたいに適当でさ」
「ママルさんがそう仰るなら…」
「わしゃ適当ではない!」
「それは巫女様、失礼致しました」
「…お主、なんかちょっとヤな奴だのぅ」
「ごめんごめん、なんかからかいたくなるオーラ出てるんだよな」
「あ、それもちょっと解るかも」
「ルゥまで、こら!」
女3人が姦しくしゃべっていると、ハンだけは少し居心地が悪そうに感じていたが、
ママルだけは2対2のバランスの気分だったので、後で少し申し訳なく思ったのだった。
「それでママルよ、お主はこれからどうするつもりだ?」
「あ~、まぁ、旅に出る。みたいな感じかなぁ、
とにかくモンスターを倒していかなきゃならないみたいだから」
「ふうむ。それなら、わしに名案がある」
「ほう、是非お聞かせください」
「ずばり、わしはお主に付いていこうと思う」
「えっ…」
「星霊力が回復し次第、また話したかろ?
それにわしも外の世界を見たいと常々思っておったからの」
「まぁ、それは助かるけど、でもモンスターとの戦闘が目的だからなぁ、
その、足手まといになりそうな…」
「ふふん。わしは結界術の使い手でもある。身を守るくらいは造作もないぞ」
「そ、それは困ります!口出し申し訳ない、しかし、
この村の結界を守護してくれているあなたがいなくなると…」
「まぁ待てハンよ。そこもぬかりはない。」
「と、言いますと」
「1か月時間をくれ。その間に次の巫女、ではなく、結界術師をわしが育てる」
「次の結界術師…」
「前々から目をつけていたのだ、幼く才能がある。リンに技を伝授しよう」
「えっ!ちょっとユリちゃん、そんな!」
「悪い話じゃなかろ。わしは人間だし、エルフだけで里を守護できるようになるって寸法よ」
「寸法よじゃない!ねえ…、急に二人も友達がいなくなったら、私が寂しい…」
「……まぁ、今生の別れってわけでも無し。旅立ちまでも時間はある。折れてくれんかの。勿論、リンや村の者達にも了承を得てからの話だが」
「…………そう、だね」
「ハンと、ママルもそれでええか?」
「…はい」
「…うん、了解」
なんか急に話が転がり始めたなぁ。ルゥさんは大丈夫だろうか。




