14.深夜徘徊
件の場所にたどり着くと、眠りこけている盗賊3人がいた。
「お~、いたいた、じゃあこいつらも持っていきまっす」
右手で2人、左手で1人の盗賊の袖を握り、引き摺るように来た道を歩き出す。
「3人も…あ、手伝いますっ」
「あ、じゃあ、このランタンをお願いします」
左手の指で器用に持っていたランタンを差し渡す。
「えっ、でも…」
「大丈夫大丈夫、ま~じ余裕だから!」
実際余裕ではあるのだが、体重差により凄い前傾姿勢になって大股で歩く。
「すごい…」
「こいつらって、どこに運んだら良いですかね?」
「多分、浄化場の方かなぁ、案内しますね」
「じょうかば?」
「あ、この村ではそこで、罪を犯した動物とかの肉体と精神を焼いて、自然に返すんです」
「火葬…」
(って言うか火炙り…火刑?)
「悪事を働くのは精神が原因ですから、罪のない魂を開放するための儀式があるんですよ」
「なるほど~」
(肉体、精神、魂…宗教かなぁ。あんまり否定するような事言わないように気を付けないと)
「あの、ママルさんは、どこから来たんですか?」
「え?っと」
「その、悪く言いたい訳じゃないんですよ?…なんだか違う文化の人と話してるみたいで」
「あ~…」
(外国?とかから来たのかってことかな、まぁそうではないけど。
言葉通りの意味で捉えるのなら正にそのもの、ドンピシャ正解だ。
でも異世界転生なんて話し始めると、いよいよ頭のおかしい奴だと思われそうで怖い)
「あ、答えたくなかったら別に良いんですよ!」
「いえ、その~…気づいたら森に倒れてて、それより前の事はあんまり覚えていなくって」
嘘をつくのは抵抗があったが、これが最善なはず…
「えっ!!だ、大丈夫なんですか?!」
「いえいえ!ご心配なく!全然平気です!他に特に異常もないし、
ただまぁ、この世界の事?とか、色々解らないんですよね~…」
「そうだったんですね…、びっくりしました…、今日は驚きっぱなしです。
解らないことは何でも聞いてくださいね!」
「ありがとうございます。その時は頼らせてもらいますね」
「記憶喪失を治す医者とか、知っていれば良かったんですけど」
「いやいや、全然大丈夫です、気にしないでください。ほんとに、記憶とか全っ然気にしてないので!」
(これで実際に色々動いて貰ったりしちゃったら、いよいよ申し訳が立たない)
「じゃあ、ママルさんはこれからどうするつもりですか?」
「ん~、とりあえず王都の、アルカンダルの方でも行って、仕事でも探して暮らそうかなぁって」
「そこで記憶を取り戻すぞ~とか、家族に会うぞ~とか?」
「あっ、いえ、家族は…いない、はずです。なので、ほんとにただ普通に暮らしたいだけです」
(やばいっ、さっそく嘘のボロが出始めた)
「ご、ごめんなさい…」
「?」
チラリとルゥの顔を覗くと、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
(あ!家族を亡くしたとか、そういう風に思われる感じ?って、そりゃそうじゃん!アホか俺は!
どうしよう、何か言いたいけど、ここをこれ以上掘られるのも不味い……)
ママルがしどろもどろしていると、ルゥが意を決したように大きな声を出す。
「あの!良かったら、この村で一緒に暮らしませんか!!」
「……えっ!!」
(一緒に暮らしませんか?)
「最近はモンスターとか野盗とか、そうでもなくても、本当に悲しい噂ばかり聞きます。
今の世界は濁ってるって。いくらママルさんが強くても!他の人はそうじゃない。
きっとアルカンダルでだって、辛い事が沢山起きます!
だから、この村で平和に過ごすのが一番良いですよ!
何も知らないのに、盗賊に立ち向かって私たちを助けてくれた!
そんな人がまた辛い目にあうのなんか嫌です…」
(あ…あ~!ね。そういう事か、びっくりした…)
「それに、ママルさんみたいな方が居てくれたら村の皆も安心できますし!」
「確かになぁ…」
(実際、ただ暮らしたいだけならば十分すぎる話だ…、
是非と即答したいところだが、この世界をもっと見てみたいと言う気持ちもある。
一晩くらいちゃんと考えてみよう)
「じゃ、じゃあ」
「はい、その、前向きに考えますね」
「はい!すみません突然!色々大変なのに!」
「いやいや、むしろ気遣ってくれて嬉しいです」
などとやり取りしているうちに、浄化場にたどり着いた。
一面花畑の中心部に一本の特段太い樹があり、
その根付近が大きく膨らみ、丁度この村の家のようになっていて、
扉を開けると、床には木の葉が敷き詰められていた。
「あっ止まってください!その枝葉から下に落ちる仕組みになってるので、盗賊は投げ入れて下さい」
「えっ、あ、はい…」
言われるがまま1人投げ込んでみると、草むらを走った時のように、
ザザザッと木の葉が揺れる音がして盗賊は下に飲み込まれていき、
枝葉は直ぐに元の形に戻る。
(えっ!なんか、めっちゃコワ!!!)
「床下深くまで、怪我無く落下させられる仕組みになってるんですよ」
「へ、へ~~~…」
じゃあな、第一村人よ…南無三!
とか脳内で念じながら、残る盗賊も投げ込んだ。
「お疲れ様です。それじゃあ、帰りましょうか」
「はい、しかしこの辺りの花は凄く綺麗ですね」
「それだけ、動物にはエネルギーがあるんだと思います」
(ん?あぁ、そういえば自然に返すとかなんとか言ってたな…、
雰囲気的な話じゃなくて、マジなのか…)
ママルは急にこの花畑が少し不気味に見えて来た。
正にその時、ガーンゴーンと鐘の音が聞こえてきて飛び上がってしまう。
「ふふっ、あれは、村長さんの家から鳴らしている音です。
鳴らし方によって、集合~とか逃げろ~とか。今のは村の明かり消しますよ~の合図なんですよ」
「あ、ははは、そうなんだ…びっくりしたぁ」




