10.侵略
グスタフ率いる盗賊団は、目的のエルフが住む村に到着後、
入ってきた北側の道から、村の反対、南側にある道に2名の逃亡阻止班を、
さらに南側までは距離があるため、中間に連絡係を2名配置した。
全部で12名。小規模とは言え、村ごと略奪しようと言うには少ない人数だが、
グスタフとその腹心である、暗殺者サイと魔法士ギャスの実力に自信あってのことだ。
更にサイは気配を消すスキルを持っていて、あらかじめ村内を視察させたため構造はバッチリだ。
そしてその≪スニーク:気配消失≫を全員に付与した。
効果時間は15分、もしくは攻撃行動に移った時に終了する。
「はじめるぞ」
グスタフの開始の合図を聞き、一気に中央広場へ駆け抜けた後に散開、
それぞれが近くの家に押し入る。
「ォオルァ!!!」
「キャー!!」「わ!な!なに!!」
グスタフが一番近くにあった家のドアを蹴り破り侵入すると、二つの声が響く。
人間で言うと18歳くらいの女が、もっと小さい女をとっさに庇うようにしてこちらを見つめて来た。
「当たりだ、いるじゃねぇか」
「な、なんですか!あなたは!」
「おねーちゃん!」
「騒ぐな…、ぶち殺すぞ…。」
グスタフの圧にルゥは恐怖で硬直してしまうが、妹だけでも守らないとと言う気持ちが湧き奮起する。
「お、お金はありません、つ、連れて行くのなら、私だけで!」
「駄目だ。2人とも来い、怒らせるなよ?解るな?」
言いながら、リンの髪の毛を掴んで引っ張った。
「痛いっ」
その腕を掴むように、ルゥが決死の覚悟で食って掛かる。
「妹に手を出さないで!!」
「……………。」
グスタフは無視して、そのまま家の外に出ると、奇妙な事を言い出す。
「お前ら、耳を塞げ」
「…何?」
「2度言わすなよ…!」
「わ、解りました……、リンも、ね?」
「うん……」
2人が両耳を両手で覆ったのを確認したグスタフは、信じられないような大声を上げる。
「オイ!!!住民共!!ガキどもの命が惜しかったら大人しく出て来い!!!!」
スキル≪ハウリング:雄叫び≫を応用した大声は、効果範囲内、半径約1kmに轟いた。
程なくして、いくつかの家から人が出てくる。
他の盗賊によって、抵抗むなしく痛めつけられた者。
まともに抵抗出来ていたが、先刻の大声を聞き観念した者。
窓から様子を伺い、即座に見つかってしまった者。
「お前ら!ここに並べ!!!」
程なく見つけた全住民を広場に並ばせると、ルゥの瞳を覗き込むように顔を近づけて聞く。
「これで全員か?」
「あ、あの…いえ…」
「村長はどこだ?いるんだろ?」
すると、集められた住民の中の1人の、老爺から声が上がった。
「おい!あんたら!何が目的だ!こんなことして!!」
「≪旋回投斧≫」
その瞬間、老爺の首が飛んだ。
グスタフが、背に担いでいた斧を投げつけたのだ。
そして投擲された斧は、物理現象を無視するように手元に返ってくる。
何が起こったのか、その場の皆が理解するより早く、再びグスタフが口を開く。
「おっと、叫び声とか上げるなよ?聞かれた事以外、何もしゃべるな。解るな?」
住民たちはみな声を押し殺し、恐怖や怒りで震えている。
「村長なら…ここに居た…」
そう言いながら、特別大きい樹木の中から、サイが老婆を連れ出て来た。
「おう、ババア、これで全員か?違うだろ?全員集めろ。今すぐ」
その暴虐無人な光景を目にした村長は、まさに顔面蒼白と言った具合だ。
「…あぁ…なんて…惨い…あぁ…ジール…」
「おい、泣いてる場合じゃねぇの、頼むぜ、な?何かしらの連絡手段はあるだろ、なぁ?」
「おい…ボス…、居るぞ…、俺の…≪Eディテクト:敵意感知≫が反応した…」
「あぁ?」
「場所までは解らないが…、2人…、遠くから狙ってる…」
「チッ…部下がやられてもめんどくせぇし、まぁ、しょうがねぇか…」
そう言うと、グスタフは誰も居ないはずのルゥの家に再び近づく。
「よく見とけ!!≪パウンズ:膂力増強≫!!≪衝撃斧≫!!!!」
バゴォォォォォッン・・・…
家に向かって全力で斧を振りぬくと、家が丸ごと木端微塵に吹き飛ぶ。
普通に斧で殴るだけでは、いくら力が強くてもこうはならない。
「俺には勝てねぇ!大人しく出てくりゃ許してやるぜ!!」
「お~~…流石ボス…とんでもねぇ…」
等と部下達が口々に呟くが、そんな光景を見たエルフ側の衝撃はその比ではない。
「…あ…ぁ……。皆の者、どうか…降参しておくれ…それしか…」
村長が涙ながらにそう言うと、ほどなくして弓を持った男、狩人のソウが、
樹の上から降りて来て、弓と矢を地面に投げ捨てた。
「もう一人は?」
「…知らん…」
「…逃げたか?まぁ、それはそれで、どっちみちだがな」
――――――
樹上に潜んでいたソウは、グスタフの破壊行動を見て、息子ハンにすぐさま告げた。
「お前は今すぐ巫女様の元へ走れ、身を隠すんだ」
「と、父さんは!」
「解るだろ…」
「で、でもっ」
「すまん。生きてくれ。出るタイミングを合わせるぞ。
お前はジールさんの家の裏の方からだ、
そこからなら、今いる奴らの視界には入らない」
「…くっ‥‥」
「狩りの時と同じだ、≪Fスニク:足音消失≫も忘れるなよ。じゃぁ、3、2、1」
ハンの心中は、怒りと悲しみ、そして悔しさに燃えていた。
(くそっ、くそっ!父さん…母さん…!皆!)
身を屈め、スキルで音を消しながら巫女の元へと急ぐ。
数分駆けたら、もうここなら、あいつらから見つからないだろう。
いや、でもあれで全員じゃないかもしれない、
逃走者を捕縛する人員が配置されているかも。
もし敵と遭遇したらどうしようか…。
そう思った矢先、村の南通路に1人、盗賊が立って周囲を伺っている姿が見えた。
幸いスキルや身のこなしにより、まだ相手には見つかっていない。
(どうする…どうする…1人なら殺してしまうか…、勝てるのか?いや、迂回するか?)
巫女の社はこの先の道を左、その入り口は巧妙に隠してある。
(巫女様、そうだ、先日の神託。救世主が現れるだろうから、その時は社へ導いてくれと言っていた。
小さい、獣の耳と尻尾が生えている人。今!出てきてくれよ!救ってくれ……!)
涙目で歯を食いしばりながら弓を構えようとした瞬間。
まさに獣の耳と尻尾を生やした小さい人が、視界の先で、盗賊に近づいて行った。




