第48話 デートの最後は家でお酒
「ってことで、かんぱ〜い!!」
「おう。乾杯」
俺と奏が缶チューハイをコツンとぶつけ合う。
にししと嬉しそうに笑う彼女をしり目に、俺はお酒を一気に飲みほした。
……相手のことを考えたデートか。
さっき、奏が話してくれた内容が俺の心に突き刺さっている。
いい意味で考えを見つめ直す、為になる話だったから……。
いやぁ……マジで目から鱗。
俺は、お酒をぐいっと飲んでしまいたい。
そんな気分に駆られ、もう一本に手をかけようとした。
だが、奏に手を掴まれ代わりにつまみが前に出てくる。
不満を伝えようと奏をみると、じとーっとした目で俺を見てきた。
「ペース早過ぎー。飲み過ぎはダメだって〜」
「たまには豪快に行きたくなるんだよ。一回でもいいから、酔い潰れて『え!? 朝!?!?』みたいな展開を……」
「それ、後でモーレツに後悔するやつだよ。『記憶がない間、俺は何を……?』って。学校でそういう人いたし」
「うっ……。確かに想像すると、ちょっと怖くなってきたわ」
「でしょ〜? 適度に楽しく、それがお酒の大原則だからねっ! まっ、『20歳でお酒知りたての小娘が何言ってるんだ!』って感じだけどさぁ〜」
「そんなこと言ったら、俺は『そんな小娘になんで嗜められているんだ!』って呆れられそうだけどな」
「アハハッ!」
「ウケる〜」と足をバタつかせて笑う彼女を見ていると、顔が綻んだ。
お酒を飲み始め、頰がほんのりと赤くなった奏はいつも以上に距離が近く、俺の肩に寄りかかるようにしてきた。
「こうやって過ごしたデートの最後は、やっぱりお酒だよね〜っ」
「ははっ。それは俺も同感だなぁ~。肩が凝る店っていうのもたまには特別感があっていいけど。俺はこうやって家でのんびりとするのが好きだわ」
「でしょでしょ~。やっぱり私の考えは間違いではなかったねっ」
今日のデートは、決して大人のデートってわけではない。
人によっては『ないわー』と言うかもしれない。
でも、奏と俺という似た考えを持った二人だから、質素でのんびりなデートがどんな高級感溢れるものより、極上に感じているのは事実だった。
これは、あくまで俺の考えではあるけど……。
そんな俺の心中を見透かしたように、
「んで、今日のデートはしんたろー的にはどうだったかなぁ??」
と、今日の感想を求めてきた。
考えていたタイミングで聞かれたから、俺は思わず笑ってしまう。
すると奏は笑ったことに対して、頰をつついてきた。
「ははっ。最高だったよ。自分の考えがいかに偏っていたかって……思い知ったわ」
「まぁ、しんたろーの場合は“偏らされていた”って感じだけどねぇ」
「そうかもなぁ。でも、無知だった俺が悪いつうのもあるが……」
「私はそれを利用して思い通りにしようという魂胆が嫌だなぁ。あー、思い出したら腹立ってきちゃったよ……やっぱり、ここは一発……」
「こらこら。別にいいってアイツのことは……。もう全ては教訓。二度とは関わりたくない。もし仮に出会いそうになったら、川に飛び込んででも逃げるわ」
「アハハ! 凄い拒否反応だね~」
「そりゃあ、色々とやられたからなぁ。アイツって外面はかなりいいから、きっと俺との共通の知り合いは軒並み俺の敵になってるよ……。はぁ、考えてたら気分が滅入るわ……」
「あらら……そりゃあ困ったね。でも、ため息つく割には、あっけらかんとしてない?」
「そうかな? でも、そうだとしたら今の生活が楽しくて少しずつ気にならなくなってきているからかもしれない……奏のお陰で」
「えへへ~。そう言われると照れるなぁ」
「ちょ!? くすぐったいって……」
「ほらほら~。撫でても損はないよぉ??」
俺の肩あたりに頭を擦り付け、上目遣いで見つめてくる。
それでも、俺が撫でないでいると更に擦り付けてくるので、そのまま要求に応える。
「今の生活が幸せだって思うからさ。だから……この生活を邪魔されたら嫌だなって気持ちが強くなってるんだよね」
「そっか」
「だから願わくば、会いたくないなぁ。あいつがいそうな所には、なるべく出向きたくないよ」
都心の繁華街に、ブランドショップ。
金の匂いがプンプンするところは全て黄色信号だ。
会いたくないから、会う可能性がある所には全て行かない。
熱りが冷めるまでは、そうするつもり……。
そんな俺の心配を他所に、奏はあっけらかんとした様子で俺に言ってきた。
「でも、会う心配もほとんどないんじゃないかなぁ~。だから、しんたろーは元奥さんの陰に怯える必要もないよ」
「そうなのか?」
「世の中、因果応報だよ。元奥さんは、しんたろーに構ってる暇はなくなると思うなぁ」
「因果応報ねー……」
「そ! 悪いことはできないってことだね」
「同情の余地はないね」と意味有りげな口調に、俺はじっと奏を見つめた。
「あ、ごめんね。でもとにかく心配しないで大丈夫ってこと!」
「奏が言うなら、そうなのかな??」
「うんっ! だから、今はこの時間を楽しもうよ〜」
「そうだな」
俺と奏はもう一度、お酒を持ちコツンと合わせたのだった。
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