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八十一話 二人の弟子

「もしかして知り合いなのかしら?」

スカイの反応を見て、ジェーンが鋭く見抜いた。

死神なんて呼ばれ、騎士団から追われている男の知り合いだとお名乗って良いものかどうか大いに悩むポイントだ。

しかし、スカイはすぐにきっぱり言い切った。


「知らん」

「そんな反応には見えなかったけど?」

「……個人的な付き合いはないが、因縁ある相手だ。そういう訳だから、協力してもいい」

途端に出た嘘。

スカイは騎士団のことを仲間だとは思っていない。信頼もしていない。

それとは対照的に、アンスへの信頼度は絶対的なものだ。

付き合いこそたったの一年ほどだったが、授けてくれた力の大きさが恩の大きさと言っても良かった。

確かに怪しさ全快の師匠ではあったが、他人の話を鵜吞みにして犯罪者扱いできるはずもない。

もしも知り合いだと名乗ればスカイ自身利用されかねない。

今は敵対している体で答えた方が無難そうだと考えたわけだ。


「そう、それは何よりだわ。では騎士団を数名こちらに連れてくるから彼らと連携を」

「それは断る。捜査自体は協力しても良いが、あんた達から仕事を受けるつもりはない。それ故、報酬も不必要だ。俺は単独で動く。しかし、会長からの果実はあんたの話を聞く条件だった故、そちらはきちんと貰う」

「意地汚いわよ。そっちもカッコよく断りなさいよ」

何処までも食い意地のはるスカイに、レメは再度呆れた。


「……それでいいわ。君の力は単独でこそ輝きそうだ。再度言っておくけれど、死神に実力行使は無意味よ。勝ち目があるかどうかすらわからない。それに王族内に彼の信者がいることも忘れないで。必要なのは、彼が死神たるその事実を証明する証拠よ」

「わかっている。じゃあ俺は行くぞ」

話を早々に切り上げて、スカイは生徒会室を足早に立ち去った。

その背中が見えなくなるまで、ジェーンはその鋭敏な頭脳を働かせながら見つめ続けた。


スカイが急ぎ足で向かった先は、この国の第六王女であり、同級生もであるソフィア・ナッシャーのもとだった。ジェーンの話から出た、王族に信者がいるというあの話が指している相手が彼女しかおもいあたらない。他にもいるかもしれないが、少なくともソフィアもその一人だということは明白だ。


思えば、入学以来からソフィアには嫌われていた。

他の生徒たちはスカイのことをビービー魔法使いと揶揄していたが、その中でソフィアのみが違う対抗心を示す。アンスの一番弟子がどちらかという、どこか可愛らしい対抗心だ。アンスを慕っていなければ、あの態度はあり得ない。

ずっと無視し続けてきて関係性は平行線を辿ったままだったが、今からその距離を詰める必要ができた。


「あきけろー」

女子寮、ソフィアの部屋の前まで来て、その扉を拳で叩く。

以前似たようなことをされたが、まさか自分が同じことをし返すとはあの頃のスカイは夢にも思っていなかっただろう。

ガチャリと扉が開いた。

不機嫌な顔をしたソフィアがいた。


「あら、嫌われ者じゃない」

「今はそれほど嫌われていない」

「前まで嫌われてたことは認めるのね。ちなみに私はまだ嫌っているわ」

「あ、そう」

用があって来たのだが、今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だった。

ソフィアは皆の前では、可憐な乙女であり、気品あふれる王族でもある。しかし、スカイの前ではこのように荒んだ素の表情兼言葉遣いをする。


「ちょうどいいわ。久々に二人きりになったのだし、どちらが速いのか今から打合う?一発で病院送りにしてあげるからそのつもりでいて」

彼女の使用する杖は知らないが、今の発言でなんとなく杖の形は見えてきた。同じ師匠に師事しただけあり、二人の戦闘スタイルにはある程度共通するものがあるみたいだ。


「そのつもりはない。大事な話だ。入れてもらうぞ」

少し強引に押し入ろうとしたスカイだったが、顎にぴたりとソフィアの上げた足が接触する。

狭い部屋の入り口で、しかもかなり近い距離で足をそこまで上げられたソフィアの柔軟性もさることながら、かなりの速さもあった。並みの女ではない、それだけはハッキリとした。


「乙女の部屋に押し入ろうだなんて、厚かましい男ね。アンス・ランスロット先生の弟子なら、姉弟子にも体術に覚えがあることくらい知っておきなさい。二番弟子君」

「はあ」

かなりめんどくさいことになりそうだと、スカイはまたも直感したのだった。


「話があるなら聞くわ。ただし、二番弟子らしく丁寧に、敬いを持って、頭も下げなさい。ついでだし、ここで宣言してもらうおうかしら。自分は二番弟子だってね」

「そんなことでいいのか?俺は二番弟子だ。あんたが一番弟子。これでいいだろ?入るぞ」

「言葉遣いがおかしいわね、二番弟子君」

「……入らせて頂きます、93%の一番弟子先輩」

めんどくさいソフィアに、つい嫌味が出てしまった。

こんな言葉をソフィアが聞き逃すはずもない。

93%はもちろんソフィアの魔力変換速度のことだ。

アンスに言わせれば、93%でも天才の部類に入る。


しかし、伝説のラグナシであるスカイが言えば、それはただの嫌味でしかない。

アンスを心底尊敬し、認められたくて仕方ない彼女のことだ。自分の先を行き、アンスから褒めちぎられているスカイからなら、たった一言の嫌味で充分だった。


「むっかちーん!」

部屋へと向かってソフィアが走り出した。

戻ってきた彼女は、なんとその手に杖を握っていた。

彼女の杖は、古代兵器の資料を参考にビーム砲を模したもの。両手で持って、大きな銃口が相対する相手を狙い定めて撃ち抜く一撃必殺の杖だ。ちなみにスカイの杖も古代兵器の資料から選んだものだ。アンスが彼女に与えた杖は、言わずもがなスカイの影響を受けたものだ。これを彼女が知ったら、更に激高すること間違いないだろう。


「これでも食らって、くたばりなさい!」

激高して叫ぶソフィア。ビーム砲の銃口が光輝く。

なんの魔法かスカイにはわかっているが、そんなものは関係ない。


スカイの魔法が既に詠唱されていた。

「うっ……!?」

ソフィアが一瞬息に詰まったような声を出し、魔法の詠唱が止まる。


無の性質、上級魔法魔力封じ。詠唱時間8秒、消費魔力900。

ほとんどの魔力を消費してしまうが、それでもよかった。戦いに来たわけではないからだ。


「勝負あったな」

スカイが自身の杖を向けた。

魔力封じされているソフィアが魔力弾を相殺するのは不可能だ。

いきなりの敗北に、ソフィアは足元から崩れた。


「あんたが激高して杖を取って戻ってくるまでに14秒あった。上級魔法という隙だらけな魔法も余裕で詠唱で来たぞ。何かやりそうだと思ったから対策したまでだ。わかりやすく挑発に乗りすぎだろ。こんな基本的なこと、俺から言わなくても師匠が言っていそうだけどな」

実際、熱くなりやすい性格のソフィアはよくその点をアンスに注意されていた。

戦闘では常に感情を読まれて先手を取られてしまうとも。

いくら魔法詠唱が速かろうとも、基本がおろそかでは意味がない。

まさに師匠に言われ続けてきたことを、スカイに再度叩き込まれた形となったのだ。


「はあー、アンス先生があなたのことを褒めることだけのことはあるわね」

「あんたも言うほど悪くないさ」

「むかっ。でももういいわ。どうせ勝てそうにないし」

先ほどまでの威勢はどこへやら、すっかり落ち込んだソフィアは体操座りでしょんぼりとしていた。


「感情の起伏が激しいな。そこまで落ち込むことないって。弱いなら強くなればいいだけだろ。まだ生きてるんだからな。それよりも、今出来る大事な話をしよう」

「世界経済について?」

「それは専門外だ。俺たちの師匠、アンス・ランスロットの身に危険が迫っているって話だ」

「……っ!?」

しょんぼりモードから一気に立ち直ったソフィア。

急いでスカイのもとへと駆け寄った。

「そういう話なら早く言いなさいよ」

「話を聞く耳持ってなかっただろ」

「使えない二番弟子ね。入りなさい、詳しく話して」

ソフィアは寮の廊下を見回して、誰もいないことを確認してスカイを部屋に上げた。

二人の密談が始まる。


しかし、一人だけ見ている人物がいた。

たまたま通りかかったレンゲがその一部始終を見ていたのだ。

スカイのクラスメイトにして、勘違い系女子の彼女が。

アンスだけでなく、スカイの足元に火が付くのもそう遠い日のことじゃないかもしれない。



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― 新着の感想 ―
[一言] 家政婦(レンゲ)は見た。シリーズ開始。
2020/10/20 14:14 退会済み
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