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七十七話 最強は彼女かもしれない

「るーるる、るるる、るーるる」

鼻歌交じりに、クルクル回転しながらスカイへと近づいていくフルミン。

何が楽しいのか、その顔は凄く愉快そうである。


「あ、スカイさんじゃないですか」

「……フルミンか」

「私また公式戦勝ちましたよー。これもスカイさんのおかげですねー」

以前フルミンの禁断魔法を受ける代償として、スカイは彼女を公式戦で勝たせる約束をしている。公式戦での戦績が良いと、卒業後に良い職にありつけるなどの特典がある。フルミンは自分専用の役職を国に作ってもらうために、公式戦で頑張っている訳だ。

スカイは始め、彼女に基本的な戦闘技術を叩き込んで公式戦で勝たせてやるつもりだった。

しかし、その正攻法は彼女にはあっておらず、頓挫することとなった。


彼女のその自由人っぷりは、スカイの自由な感じとはまた違う次元のもので、頭を悩まされた。練習には来ない。約束自体を忘れている。たまにスカイの顔も忘れるというかなり異次元なもの。その度にスカイは振り回されて、ほとんどあきらめていたところに、光明が差した。

フルミンは普通に強かったのだ。

公式戦で一度手酷く負けてしまえばいい、というスパルタな特訓方法に切り替えようとしたら、フルミンが勝手に公式戦で相手をボコボコにしてしまう始末。

それがなんと5回連続続いていた。

正直スカイはまだ何もしていないので、感謝されるたびに心苦しい思いでいた。

今日も悩みの種が来たことで、思わず顔をしかめるスカイだった。


「……そうか。相変わらず元気そうだな」

「そうなんですよ。学校の塀沿いに生えていたキノコを食べたら、なんだかクルクルと回りたい気分になって。笑いも止まらないんですよね」

「やばいキノコじゃねーか!」

森で育ったスカイには食用に適している植物、適していない植物を見分けるのが得意だった。都会に来た今も、なんだか放置していられない性分が残ってしまっている。危険な植物が生えていたりしたら、意識的に取り除くようなことはしているが、当然完璧に手が行き届くはずもない。

その一つをどうやらフルミンが食べてしまったみたいだった。


「急いで吐き出せ!吐き出しやすいように水を取ってきてやる」

「ちょっと、意地汚いですよ。まだ生えてますから、そっちのを食べて下さい」

「食べるためじゃねーよ!」

スカイがうるさく言ったところで、フルミンは聞く耳を持ちそうになかった。それに、変なキノコの一つや二つ食べたところで、フルミンが簡単に死ぬとも思えない。


「……嫌ならいいけど、もう今後は道端に生えているものを食べるな。食事に困る身分でもないだろう」

「そうやって、自分の分を確保するつもりですね?」

「食うためじゃねーって言ってんだろ!」

フルミンのことを思っての注意なのに、その気持ちが一切伝わらない。

スカイはこうしてたまに相手を思いやる優しさを発揮するのに、発揮する相手を間違うという悲劇。


「はあー、まあいいや。キノコはお前のものだ。好きにしろ」

今夜あたりにでも、学校敷地内のキノコを全て撤去しておこうとひっそりと心に誓う。

「え、少しくらいならあげますけど」

「いらねーんだよ!」


事件解決の為に、ピエロとトリックメーカーを構築中ということもあり、早くこのフルミンという天災を退けたいところだったが、フルミンのほうは完全に長居するつもりのようで、スカイの隣に腰かけた。

「紅茶、そろそろなくなったんじゃないですか?私の部屋に古くなった紅茶が結構あるので、それをどうぞ」

「いや、包み隠せよ。そこは」

「もちろん封は切ってませんよ。切ってたら、古いものってバレるじゃないですか。ドジっ子ですね、スカイさんは」

「……」

しかめっ面になるスカイ。言葉も出てこない。


「それより、こんなところで何をしていたんですか?」

自分の部屋で考えればよかったのだが、その後悔は既に遅い。学校敷地内の適当なベンチに腰をかけた時点で、この天災からは逃れられない運命だったのである。

「ああ、あれだよ。あれ。昼飯何食べるか考えてた」

適当に誤魔化す。

「え?嘘ですよね?手に持っているリストに生徒の名前が書かれていますけど……。借金額ねぇ。ははーん、どうせあくどいバランガさん辺りが平民を騙して借金を負わせて、苛め抜いていたんでしょうね。そのリストをスカイさんが強引に奪って、捕まったバランガさんの変わりに搾取を続けるつもりですね?」

「なんでそういうところは嫌に鋭いんだよ。そして最後だけ間違えるな」

変な誤解を持たれたままだと困るので、ここは懇切丁寧に説明した。

少しくらい情報を漏らしても、フルミンならいいかという謎の安心感がある。

そこはフルミンの発する不思議ちゃんオーラのなせる技だろう。


「ははーん、いろいろと気が付いてしまい、正義に燃えた平民のスカイさんが貴族のバランガさんを助けている最中だと」

「いや、俺も貴族だぞ。伯爵家だぞ」

「え?」

「そんなマジな顔されても」

フルミンの顔がかなり真面目な感じなので、一応ここも懇切丁寧に説明しておいた。説明途中で、なんだか自分の生い立ちに悲しくなったスカイだった。


「ていうか、知ってるだろ」

「スカイさんのことなんて考えてないですし、すぐに忘れます」

「おい」

だいぶフルミンのペースにも慣れてきたので、適当にあしらいながらリストに目を通していく。

これを見るだけでは、何もいいアイデアが浮かばない。やはりピエロに頼るのが最善だろうかと再度考えていた。

そのピエロはというと、フルミンの可愛らしい使い魔である精霊族ピクシー、ユンを追いかけまわしていた。

涎を垂らして、充血した目を大きく開け放ち、二チャーとした笑顔で。人間だったら、間違いなく捕まるやつ。


「大変ですね。そもそも貴族と平民でいがみ合っているから、こんな事件が起こるんです」

珍しくフルミンがまともなことを口にする。

「フルミンは平民を差別しないのか?」

「そんな下らないことしている暇がるなら、法律の穴をかいくぐって汚く金を稼いでやりますよ」

「……それもどうなんだよ」

ただ、少しだけフルミンへの評価が上がったのは事実。

スカイは常々身分階級も、それで差別することも下らないと考えているので、意見が同調して少し驚いていた。


「差別なんてくだらないです」

「本当にそうだな」

うんうんと二人して頷く。

「ただ、この間紅茶に砂糖を入れて飲んでいる人がいたんです。蜂蜜入れてる人も見たことがあります。あれは人間じゃないですね。下等です。紅茶への侮辱です。一緒の空気を吸いたくないです」

「めちゃくちゃ差別的だな!!」

結局フルミンはフルミンだった。そんじょそこらの人間が同調できるはずもない、遥異次元にいる存在。


「まあ、いいか。それより、長居する理由は何だよ。出きれば一人で集中したいんだが」

「そうそう、実はユンがスカイさんを探していたんですよ」

「ユンが?」

ピエロに追いかけまわされている可哀そうなユンの提案らしい。

とりあえず、狂気のストーカーとなっているピエロを蹴飛ばして、ユンの救助を行っておいた。


「あ、ありがとうございますぅ!」

涙目でお礼を述べるユン。その受けた恐怖の重さやいかほどに。

「それより、俺に用があるんだって?」

「あ、はい!さっき綺麗なお花が咲いていたので、それをスカイさんにもシャアしたくて。ほら、時代は共有する時代ですから」

「……」

フルミンの使い魔は、フルミンの使い魔であった。

腹を抑えてうずくまっているピエロに視線を向けて、スカイは無言で、やれ!、と指示を出す。

ピエロの狂気に満ちたストーカー行為が再開した。


「そんなに暇じゃないんだ。俺はもう行くぞ」

「絶対に私の方が忙しいです!」

「そんなところで張り合われても……」

「はあー、じゃあせっかく会ったついでに、禁断魔法でもやっときます?そろそろ出来ますし」

「はい?」

「ほら、私の使い魔を覚醒させる力。最近調子がいいので、行けそうですよ」

凄く重要なことを、ついで感覚で言われてしまった。

スカイがその力に驚かされて、次を待ち望んでいたというのに、ついでで済まされた。


「おいおいおいおいおい」

「なんですなんですなんです」

「……頼む」

「……いいですよ」

フルミンは自分の力の偉大さを理解していないのか、結構安請け合いする。

スカイにとってはありがたい限りなので、当然文句はない。


「じゃあ、さっそく覚醒させます?」

「お、おう」

フルミンが祈るようなポーズを取り、彼女の額から光の球が溢れです。

それがユンを追いかけまわしているピエロの体に吸い込まれていった。


「待て待て待て!うっ……」

狂気に満ちていたピエロが、餅を喉に詰まらせたように苦しむ。

そして、すぐにフラフラーとスカイのもとに戻ってきて、紳士染みた顔で言う。

「マスター、トリックメーカーを構築しては?」

「だれ!?」

見たことないピエロの様子に当然戸惑う。

「フルミン、なんか以前より力が強まってないか?」

「やっぱり!?そうだと思ってたんですよ。それより早くしてください。覚醒は時間が来ると解除されますよ」


急いでと言われてしまい、焦りだすスカイ。

魔力弾のような戦闘用魔法を高めて欲しいが、急には具体的な案は思いつきそうもない。

とりあえず、急を要するのは、あの件だけ。


「トリックメーカーで、真犯人を炙り出せるか?学内殺人の」

「当然です。では、トリックメーカー『いきなり真犯人』を構築」

「待て待て。構築早いな。奇術師からのお返しは何になるんだ?」

「そんなのないですよ。マスターが知りたい真実をただ教えて差し上げるだけ。使い魔の私にできるのはそのくらい。この程度で見返りを求めるはずもなく」

「だから、誰!?」

ピエロが紳士になってしまった。

覚醒の力やおそるべし。


「じゃあ、やることやりましたし、またキノコ探しに行きますねー!るーるる、るるる、るーるる」

「回るな!キノコを探すな!」

「マスター、よろしければ私がキノコの撤去を」

「お前誰だよ!?」

また新しい力を得たスカイだったが、その心労は多大なるものだった。

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― 新着の感想 ―
フルミンに同調、紅茶はそのまま飲みたい派です。
[気になる点] シャア滑舌悪いだけですか?精霊も普通に喋れるんですよね?
[一言] あ、はい!さっき綺麗なお花が咲いていたので、それをスカイさんにもシャアしたくて。 シェア?
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