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七十四話 尋問

「お前がやったんだろ!」

天井付近にある僅かな窓からの光が差し込むだけの暗い密室。

バンと強くテーブルを強く叩いて、スカイがバランガを尋問する。

既に騎士団からの尋問があったのか、少し消耗気味のバランガが首を横に振る。

手には手錠がかけられているので、首を動かす癖が付き始めていた。


「お前ならやると思ったよ。初めて見たときからそう思ってたんだよ」

「てめー、楽しんでんだろ」

顔がにやけていたからか、楽しんでいたのを見破られた。

「レース家が今回のことを知れば、騎士団だけじゃない、お前にも然るべき処分が下るはずだ」

「馬鹿め、殺人犯にそのような権利があるはずないだろ」

「俺はやってないって言ってんだろ!」

「証拠があるんだよ、証拠がな!」


そう、子爵家でもあるレース家の跡取り息子がこんなところに拘束されているのも、立派な証拠が出たからである。

殺された平民生徒はバランガを襲撃しようとしていた。自衛のためとは言え、バランガには立派な動機がある。

そして殺された生徒の部屋から、バランガ愛用のヘアーブラシが出てきたのだ。

いつもサラサラした髪質で、おかっぱ頭を維持しているバランガは、常にヘアーブラシを持ち歩いていた。見つかったのは一番のお気に入りであるヘアーブラシ。

授業中にも髪の毛を整えるバランガは、クラス中、更には教師たちにもそのヘアーブラシを見られたことがある。

二人に友人関係はなく、普通に考えてバランガのヘアーブラシが落ちている訳もない。

殺しにでも行かない限りは……。

言い逃れの仕様がない状況がここにはあったのだ。


「ヘアーブラシは落としたって言っているだろ!ずっと探してたんだよ!」

「あきらめろ。牢獄に入っても、ヘアーブラシくらい俺が差し入れてやる。高いのはダメだぞ。俺もそこまで金はないからな」

バランガがやったと思い込んでいるスカイに何を言おうと、当然響くはずもない。

涙ながらにバランガが訴えだすのだが、それにほだされるほどスカイの心はやわじゃない。


無情なやり取りが続く中、遅れて生徒会長、副会長、そしてレメが入って来た。

レメはトレーを持っており、その上には美味しそうな丼が乗っていた。

鶏肉と卵を絡めて作った簡易的な料理。密室に難ともいい匂いが漂った。


「はい、食事。尋問には体力が必要でしょ。まあ、素直に認めれば楽になれるけどね」

スカイと同じく、レメたちもほとんどバランガが犯人だと思っているので、言葉は冷たかった。

尋問は生徒会長が引き継ぐ。

スカイがどうせきつく当たるだろうと思っていたので、後からやってきて優しく接するギャップ作戦だ。もとから人の良い生徒会長が優しくすれば、ころっと本当のことを漏らすだろう作戦!

側に控える副会長と、後ろで見守るレメとスカイ。

レメを部屋の隅っこまで引っ張っていったスカイは、レメに耳打ちした。


「あれ、どこで売ってるんだ?」

「あれって何よ」

「美味しそうな料理だ」

「私が作ったの。どこまで食い意地はってんのよ」

呆れるレメ。

「俺にも作ってくれ。部屋に行ってもいいか?」

「へっ!?い、いいけど……。余計なことはしないでしょうね」

「ああ、料理の邪魔はしない」

そう言うことではないが、スカイの頭にはバランガの目の前にある料理にしか興味がない。

残念なこの男を前に、レメはため息をつくのだった。


しばらく続いた優しい生徒会長からの尋問。

しかし、バランガは何度聞かれても殺人を否定するのだ。

今告白するなら罪が軽くなる、と言っても首を横に振る。

事情があるなら聞く、と言ってもまた首を横に振る。


正直皆バランガが犯人だと思っているので、これは手強い相手だと頭を抱えたのだ。

そんな中、スカイだけが異変に気が付いていた。

正直、バランガは裏で相当悪いことをしている。

スカイ以外はそのことを何となく噂話で知っているので、あまりバランガに同情はしていない。

しかし、スカイはバランガに対して個人的な恨みしかない。主におかっぱ頭としゃくれが不快という軽い恨みだ。恨みと呼べるかどうかも怪しい。素直に嫌い、と言った方が近いだろう。

皆よりも情報が少なかったことで、偏見の目も薄い。

そして、違和感に辿り着いたのだ。


スカイはレメに声をかけて、この部屋を一緒に出た。

「何よ」

てっきり料理の話でもされるのかと思っていた。

「バランガの料理だが」

その通りだった。

「作るって言ってんでしょ!」

「違うそう言うことじゃない。違和感に気が付かないか?」

「……特に何もないわ。何かあるの?」

「あいつ、一口も手を付けていない。ずっとやってないとばかり口にして、あの美味しそうな料理に見向きもしてないんだ。これはおかしい!」

「おかしいのはあなたよ。そして、それだけ食い意地が張ってるのはあなたくらいよ」

「いいや、あんな美味しそうな料理だぞ。俺なら夕食を食べ終わった直後でも余裕で食える」

自分の料理が褒められているので、レメは悪い気はしない。

しかし、めちゃくちゃな推論だ。

料理を食べないから本当のことを言っている。

あまり納得のいかない説明だった。


「少しこの事件、自分で探ってみることにする」

「本気?バランガが犯人よ、きっと。どうせ悪いこと一杯しているし、天罰が下りたんだわ。そもそもバランガが犯人になったほうが、世のためってやつかもしれないし」

「いいや、理不尽は嫌いなんだ」

自分の人生を思い返しても、理不尽なことが多かった。それ故に、罪をなすりつけられそうな人を簡単に見捨てられはしない。それが、憎きバランガであったも。


「じゃあさっそく行ってくる!」

「ちょっと、料理はどうするの?来るの!?」

「時間が出来たらな!」

そう言ってスカイは駆けて行ってしまった。

バランガごときの為に走るスカイ。なんだか自分よりバランガを優先されたみたいで、レメはちょっとだけ不満だった。


「あんたがやったんでしょう!!」

レメの尋問が少しだけきつくなった。














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