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六十七話 破壊衝動vs戦闘狂vs最速

スカイが魔力変換速度400%を発して、その初撃をグリズリーキングに見舞った瞬間、ブラロスとジェーン・アドラーの視線がようやくスカイをとらえた。


先ほどまで無視してもいい存在と判断していた二人の戦闘経験が、今度は警戒すべきだと忠告している。

向き合って戦っていた二人が、その姿勢を少しだけスカイの方へと向きを変えた。

トライアングルが形成され、三つ巴の戦いへと様相が変化する。


「小僧、なにやらただならぬ様子だが、死にたくなければ去れ。子娘一人で、俺は十分楽しめているからな」

ジェーン・アドラーも学校に潜む化け物も、その両方を叩いて破壊衝動を満たすはずだったブラロスだが、ジェーン・アドラーの思わぬ強さに彼女一人の器で事足りていた。

「助力は結構よ。ブラロスの言う通り、去りなさい」

ブラロスと同じように、ジェーン・アドラーも一対一での決着を望んでいる。

スカイが介入するのは、今の二人にとって好ましくは思えなかった。


「知ったことか」

二丁拳銃をそれぞれに片方ずつ向けて、スカイは攻撃態勢に入った。

彼らの要求なんてどうでもいい。

スカイはこの場に憂さ晴らしをしに来たのだから。

もともと詠唱時間の短い魔力弾に、スカイは今魔力変換速度400%状態だ。すぐに攻撃が始まる。


使い魔では手に負えないと判断したブラロスはグリズリーキングを魔域へと帰した。

何が来るかわからないが、とりあえず相殺できるようにブラロスもジェーン・アドラーも構えたが、直後に信じられないものを目にする。


たったの一秒にして、一人に飛んでくる魔力弾は4発ずつ。

威力はどうみても一瞬で詠唱されたものとは思えない。

二人とも思わず目を剥いた。

ブラロスは先ほど受けきったこともあり、再びこの魔力弾を交わすことなく両腕で体を守るようにして防御の姿勢を取った。

ジェーン・アドラーはブラロスほどの耐久力はないので、当然かわす判断をする。相殺しようにも、見るからに威力のおかしい魔法が飛んできている。初級魔法で対処しきれないのは目に見えている。


しかし、これはブラロスの選択が正しい。いや、ブラロスの選択がハズレではないといった方が近いだろう。


一発2000もの威力を誇るこの魔力弾は、生身で受ければとてもただで済むものじゃない。

それが当たるたびに威力が増すというオマケつき。それでもブラロスの選択の方が良かったと言わざるを得ない。

神速を誇る魔力弾4発を受けたブラロスは、2発目まで耐えたが、あわさっているエレクトリカルモードの効果もあって、若干力の抜けたところに3発目、4発目と飛んできて、その巨体を宙に放り出された。

大きく吹き飛ばされて、地面に叩きつけられて何度も何度も転げて100メートルばかりも後方にその体を持っていかれた。


そんな状態でもハズレではない選択と言える。


かわす判断をしたジェーン・アドラーは、この4発で戦闘離脱せざるを得ない状況にまで追い込まれる。

普通は目にも見えないほどの速さを誇る魔力弾の400%モード。それでもジェーン・アドラーはその全てを見切り、かわせると判断した。


ただし、それがまっすぐに飛んできていればの話だ。

スカイは魔力操作の能力値が高い。自分の魔法の軌道の変更などお手のもの。

そして、魔力操作というのは、操作する魔力量が少なければ少ないほど、器用に、正確に操作可能となる。

魔力弾は、一般的に言ってかなり、いや最上級に魔力量の少ない魔法だ。


かわすために大きく飛んだジェーン・アドラーめがけて、スカイは魔力弾の操作を行った。まっすぐ飛んでいた軌道から、ジェーン・アドラーの飛んだ方向へと、もはや今の操作魔力量なら、スカイはピンポイントに狙いたい部分を狙える。


宙に飛んだことで、却って的となってしまったジェーン・アドラーは、方向を変えて猛烈な勢いで飛んでくる魔力弾を見て自分の選択の最悪さを思い知った。

しかし、杖である聖剣にはまだ武器強化の効果が残っている。

あまりにも速い魔力弾だが、彼女の腕ならまだ何とか出来ると判断する。


飛んできた一発目の魔力弾を聖剣で斬る。

タイミングもぴったり、そして狙っていた通り斬れもした。しかし、ブラロス同様エレクトリカルモードまで頭が回っておらず、痺れが来る。

2発目への反応が遅れ、もろに魔力弾を食らうこととなる。

3,4発目も言わずもがな。


こうして彼女は魔力弾にもろに被弾し、この三つ巴の戦いから一番に去ることとなった。


スカイの手ごたえからしても、吹き飛んだ二人のうち、ジェーン・アドラーが戦闘不能に陥ったのがわかった。

しかし、流石はブラロス。

魔法の相性もあるが、この状態のスカイの魔力弾を受けてなお、立ち上がる。


流石に上半身にまとった服はボロボロとなり、頭から流れる血が彼の顔を覆いつくす。

手にしていたはずの杖である、大斧も柄の部分から折れていた。

魔力弾の威力の恐ろしさが如実に表れている。


「おかしな魔法を使いやがる。だが、まだ俺は仕留められてない!」

攻撃を受けたばかりだというのに、この男は吹き飛ばされている間に既に魔法の詠唱を完成させた。

トライアングルが形成されたときに、ジェーン・アドラーもそうだが、ブラロスもあの時から詠唱に入っている。

土の性質、上級魔法グランドインパクト。詠唱時間5秒。消費魔力量800。


空から影が差し、スカイは上を見上げた。

空を覆いつくさんばかりの大量の岩。グランドインパクトの魔法自体は知っていたが、見るのは初めてだし、どうやらブラロスの使うグランドインパクトはかなり練度が高いとみていい。


そして、この光景は、レメがやられたときのものだ。

バランガが嘘をついていたというのはなくなった。レメを傷つけたのは、この魔法を吹き飛ばしたジェーン・アドラーにも非はあるが、直接行使したのはこの男。

やはり許すわけには行かない。


グランドインパクトが行使されている間、スカイの注意は空に向かうはずだった。

かわすので精一杯になるか、もしくは魔力弾で対処してくれたらなおのこと良し。

接近戦闘に持ち込んでもいいし、地面から魔法攻撃を仕掛けてもいい。

そう踏んでいたブラロスであったが、スカイの視線はブラロスに向いたまま。空に視線をやったのはほんの一瞬だった。

それどころか、すぐさま魔力弾がまた飛んでくる。

4発どころではない。ジェーン・アドラーが離脱したため、二丁拳銃のターゲットはブラロス一人だ。


空を覆うのは大量の岩たち。ブラロスの視線の先には到底かわし切れないほどの無数の魔力弾が先に到着する。

降り注ぐ岩など、わずかでも隙間があれば、森で育った野生の勘があるスカイなら軽々とかわせる。

この場はスカイ一人なのだ。誰か守る必要がないのなら、ただかわすまで。


グランドインパクトを軽々と処理するスカイとは違い、ブラロスは絶体絶命に追いやられた。

これ以上威力のおかしな魔力弾を受ければ、間違いなく立てないと想像出来た。

「仕方ない」

ブラロスはそうボソリと呟いた。

少しばかり自我が吹っ飛ぶが、最後の手段を使うしかないとブラロスは決断した。


「小僧、お前が目覚めさせたンんだ。何とか処理しやがれ!これが本当のオールインだ!」

魔力弾が被弾する直前、ブラロスはオールインを叫んだ。


オールインなら、少し前にアエリッテ・タンガロイが使った禁断魔法である。

それをブラロスも使えるらしい。


魔力弾がすべてブラロスへと直撃し、土ぼこりが大量に巻き起こる。

グランドインパクトも同時に降り注いでいたので、グランドはさながら爆撃を受けているかの用だった。


舞い上がる土ぼこりの中、スカイはまだ中に人影が立っているのが見えた。

間違いなくブラロスである。


土煙が晴れたとき、そこにはブラロスがやはり立っていた。

「さっきお友達のお嬢ちゃんがオールインを使ってたな。お嬢ちゃんのはまだまだ未熟。こっちが本物だ」

ブラロスの姿は、人の形をしていなかった。

二本足で立ってはいるものの、口元には鋭い犬歯が見え、目は赤く光り、体はグリズリーキングのような丈夫な体毛でおおわれている。ブラロスの姿が、半分ほどグリズリーキングに寄せられたかのような、そんな半人半獣の容姿をしていた。


「あんまり時間がねーからな。早く終わらすぞ」

その体から、異様な魔力があふれ出す。


アエリッテ・タンガロイのオールインの上。

ということなら、間違いなく彼もタイムラグなしですべての土の性質魔法を詠唱できることが可能となる。

残り魔力量から行って、オールインの持続時間は10秒ぎりぎり。スカイの魔力変換速度400%もそのくらいで効果がきれるだろう。


いよいよ、最後の戦いへと入っていく。




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