六十五話 助言
連休明けつれー。
やる気でねー。
石油王になりてー。
……また頑張って書き続けます!
今も校庭ではビシバシと高密度で大量のの魔力がぶつかり合い、殺気を振りまいている。
生徒たちは避難し、戦いに参加していた騎士も何人か逃げ出しているというのにも関わらず、一人そこへと向かう男が一人。
もちろんスカイである。
もはやこの男が戦いに加わらなくても、事態は収まりそうではあるが、スカイはもはや止まることなどない。
そのことを一番理解している使い魔のピエロは、側をゆったり浮遊しながら着いて行っている。
頭の後ろで両手を組んで、曇った空を見上げつつ、我関せずの態度を取り続けようとも考えてはいたが、やはり少しだけ口を開くことにした。このままでは自分の契約主が死んでしまうかもしれないという気持ちを抱いたからだ。
「よう、相棒」
可愛らしい見た目のピエロだが、その地声はおっさんのそのものである。
人によっては気に入るかもしれないこのギャップだが、スカイはあまり気に入っていない。
話さなければ可愛いが、話したら可愛くない。性格もよろしくない。そこが嫌なのだ。
できればレメの使い魔ピノと交換したいと思っているくらいである。
走ってブラロスたちのもとに向かっていたスカイだが、珍しくピエロの方から声をかけてきたので、一度立ち止まった。
「なんだ?」
要件を聞く。
どうせ変な用事だと思ったいたが、その通りの質問が来る。
「なあ、俺ってかわいいよな」
片目をつむってウインクして見せるピエロ。
正直見た目だけならチャーミングなのだが、その低い地声と、いやらしい性格のせいでスカイはとても可愛らしいとは思えなかった。
「こんなに可愛いのにも関わらず、俺って結構人気がない使い魔なんだよ」
「知っている」
人族自体が人気ないし、奇術師なんて誰も選ばない。
スカイとは相性が良かったから、不思議な縁があっただけだ。
普通は癖の強いトリックメーカーを使う奇術師を選ぼうという、リスクを取る生徒は少ない。ドラゴン族こそが強力であり、リスクの少ない選択であり、勝ち組のやることだ。
「人気がないから、今まで契約した主は全員覚えている。と言っても、お前で3人目なんだがな」
「急ぎの話じゃないなら後にしてくれ」
今すぐにでもブラロスたちを叩き潰したい気分なのだ、ピエロの与太話に付き合っている暇なんてない。
しかし、ピエロも譲らない。
「大事な話だ。よーく聞きな、坊ちゃん」
「誰が坊ちゃんだ」
使い魔は魔法使いにとっては自分の半身とも呼べる存在だ。
いくら普段がふざけているピエロとはいえ、大事な話と言い切るのならスカイも無視することはできない。
「一人目は美人の巨乳ねーちゃんだった。あれは本当に最高だったな。今でも思い出して〇〇したり、こっそり〇〇したり、〇〇に〇〇も合わせて、〇〇しまくりだぜ」
スカイは拳銃の銃口をピエロに向けた。
「やめておけ。俺には当たらない。それにびっくりするから、本当にやめて」
「真面目に話せ」
こくこくとピエロが冷や汗を流しながら頷く。
「巨乳ねーちゃんの話はまた今度してやるよ。大事なのは、二人目の契約主だ。落ちこぼれと見下されるお前とは違って、それはそれは秀才タイプの相棒だったぜ。こう言っちゃ寂しいが、なんであんな優秀なボーイがドラゴン族じゃなくて俺なんかと契約したんだか」
「三日くらい寝てなかったんだろうな」
ピエロの可愛らしい口元から鋭い牙がその姿をのぞかせたが、スカイ同様ピエロも手出しはできない。
そういうタイプの使い魔なので仕方がない。
「たっく、腹立つ相棒だぜ。本当に優秀なタイプでな、さっきいただろあの少しポンコツな香りがする女。確か、アエリッテ・タンガロイって言ったか?ああいうタイプだ」
本当にアエリッテ・タンガロイのことを言っているのなら、秀才ではなくて、天才と呼ぶのがふさわしい。
彼女は魔力総量更には使用可能魔法で他者を圧倒している。
控え目に言っても、天才という称号にふさわしい資質を有している。
しかし、ピエロは敢えて秀才という言葉を使っている。
「いい相棒だったよ、よく酒をくれたし。でも、最後はあっけなく死んじまった」
「なにがあった?」
「魔法使い同士の戦いに敗れたってだけだ。今よりももっと魔法戦闘が盛んな時代だったからな。そりゃビシバシとやり合ってたもんよ」
「その話のどこが重要なんだ?」
聞く限り、スカイが今急いで聞く必要がある情報とは思えない。
「まあ、焦るなって。俺の契約主を殺した相手が、自称ラグナシって言う話だ」
この話には、流石にスカイも興味を示さざるを得ない。
魔力変換速度が100%に達したとき、師匠のアンスがスカイのことをラグナシと呼んだ。その時からスカイも自信がラグナシだという認識を持っている。
あれ以来なかなか得ることのなかった新しい情報が、まさかおふざけ使い魔からもたらされるとは予想外であった。
「お前と違ってよぼよぼの爺さんでな。長年の修行でようやくラグナシになったらしい。まあ、結局何がいいてーかっていうと、俺様の知っているラグナシっていうのは、お前のやっているようなこじんまりとした魔法使いじゃなかったってことだ。ありゃ正真正銘のバケモンだ。天才と呼ぶに相応しい。勝てるわけもねー」
「俺がこじんまりだと?」
突如の中傷にスカイはムッとした。
ピエロは態度を改めるつもりはないらしい。
「事実を述べたまでだ。お前が本当にラグナシならその1%くらいしか力を使えてないだろうな。本当に、ラグナシならな」
「どうしたらいいんだ?本当の力を使いきるには」
「知るかよ。俺はやられた側だぞ。詳しいことなんて知るわけねーだろ、小僧!」
中途半端な情報が一番困る、とスカイは不機嫌になった。
ピエロの奴が敢えて今言うから何か情報でもあるのかと思いきや、結局は、あなたはやればできる子なのよー、と言っている親バカと似たような言葉なだけだった。
これ以上話しても口論がひどくなるだけなので、スカイはピエロには何も言い返さなかった。
今一度気を取り直して、ブラロスたちのもとへ走り出した。
その隣で、ピエロが小声でぼそりと声を発した。
「まあ、死ぬなよ。お前が死んだら、次またいつ契約主があわわれることやら……」
小声だったが、スカイはしっかり聞き取った。
なんだかんだで、ピエロはスカイを心配している。
その気持ちもしっかりと最後に伝わった。
この戦いが終わったら、安い酒でも買ってピエロに飲ませてやろうとスカイは考えた。
高い酒にしないのは、勿体ないのと、純粋に金がないからであった。




