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六十四話 再びの戦意

スカイから向けられる厳しい視線に、しどろもどろになるバランガ。

なんとか必死に説明しようとするが、彼自身慌てていたため詳しい状況の説明ができない。

「あれだ、あれ!空から大量の岩が降り注いで来たんだ。本当だ」

確かに彼らの周りには岩が無数にあるが、降り注いだ状況を見ていないスカイにとっては簡単に信じるわけにはいかない。

レメを傷つけた犯人を正しく見つけるためにも、厳しい追及を緩めるわけには行かなかった。


プライドの高いバランガでさえも、下手なことを言うと今のスカイは危険だと理解しているので、必死に言い訳を重ねるだけだ。

実際レメを傷つけたのはバランガではないので、彼は嘘をつく必要はない。

レメに守って貰ったことは伏せながら、空から岩が降ってきた事実だけを必死に伝えた。


バランガの言うことが真実ならば、おそらくブラロスとジェーンの戦いの余波で岩が降ってきたのだろうと予測できる。

ならば、償いをさせるべきはその二人だ。

事実かどうかまだ判明しないが、スカイの中にもう一度戦闘熱が少し湧いてきた。


レメはまだ目を覚まさない。

健やかな寝息から、もう無事なのはわかる。

バランガの治療魔法がいい具合に働いたのだ。


その顔を見るたび、やはりレメの無事が最優先だと考える。

償いをさせるのは後だと判断した。


レメを抱き上げて、この場から離れようとしたスカイだったが、学園方面から一人の男が駆け出してきたのを確認した。

その様子は実に凄まじく、衣服もボロボロにして血を流しながらの脱出だった。


騎士団の男だ。

中年男性で少し訓練を怠けただろうと思われる体には、重たそうな脂肪がついていた。

厳しいことで有名な王都騎士団においては珍しい体たらくな体である。

「お前たち、こんなところで何をしている!?早くジェーン騎士団長の助けに行かぬか!」


スカイたちを見るなり、騎士団の男は声を張り上げて詰め寄った。

その勢いや、スカイの顔にどっぱどっぱと唾が飛び散るほどだった。


同じく側にいたバランガの顔にも唾が大量に飛んでいく。

特権階級にいるバランガがこんな仕打ちに耐えられるはずもない、すぐさま詰め寄った騎士団の男に文句を言おうとして詰め返した彼だったが、スカイに後ろから蹴り飛ばされた。


蹴られたお尻を抑えて、今度はスカイに抗議の視線を向けるが、バランガはすぐに理解した。

自分よりも、スカイの方が怒っていることに。


「助けが必要ならお前が身を挺して助けに行け。逃げて来て随分と偉そうだな」

「騎士団の言うことが聞けぬか!いいから早く行け!」

正論を言われても、一切ひるむことなく再び声を張り上げた彼だった。

しかし、ひるまないのはスカイも同じ。

むしろ驚異的な迫力をもってして言い返す。


「そろそろ、その口を閉じろ」

スカイは一旦レメを下ろして、ついには杖まで握った。

これにはバランガも騎士団の男も驚きを隠せない。


騎士団というのは権威もあれば、権力もある組織だ。

それを貴族の子弟とは言え、攻撃なんかすればただで済むはずもない。


「何をしている!?私を攻撃すればどうなると思っている!?騎士団への攻撃は反逆罪にもなりえる行為だぞ!私が一声かければ、一体何人が動くと思っている!」

「なら報告させないために殺すか」

スカイの言葉にはなんの冗談要素も含まれていない。

顔の真剣みからそれが伝わってくるので、騎士団の男もそれ以上何も言えなかった。


スカイが怒った理由として、もともとこういった態度のでかい人間が嫌いというところがある。怒りポイントプラス1。

更には彼が詰め寄ってきたときに大量の唾がレメの顔にもかかっている。怒りポイントプラス2。

疲労していてこういう面倒な輩の対応が面倒くさい。怒りポイントプラス1。

そして何より、逃げ来て来たことに対する怒り。怒りポイントプラス10。


この男は騎士団として、賊から民を守る使命を背負っているはず。

それで権威も権力も、さらには金も貰っている。

なのに、この男はその責務を放って逃げ出したのだ。

自分が戦うべきところで、生徒を嗾けて向かわせようとする始末。


こういった連中、貴族の中に特に多い特性に、スカイはほとほとあきれ返っている。

普段なら流せたかもしれないが、今日は疲れていることや怒りポイントが溜まっていたのもあって、ついに爆発してしまった。


杖を騎士団の男に向けて、スカイは魔力弾を二発撃ち込んだ。

脂肪のたっぷりついたお腹にめり込んだ魔力弾が彼を吹き飛ばし、地面に叩きつけられた騎士団の男は起き上がることがなかった。

まだ息はあるが、しばらく目を覚まさないことは確実である。


この行動は実に安易だった。

スカイにしては先を一切考えずに行った愚行とも呼べる。本当に殺してしまった方が良かったくらいだ。実際、この行動が後に彼の重石となってしまうほどに……。


しかし、目まぐるしい状況は、スカイに後悔させる時間も与えやしない。

レメが頭部に外傷を負った原因となる岩の雨とも呼べる魔法が、再び学校方面から飛んできたのだ。


「こ、これだ!これがこの女を傷つけた!」

バランガの言う通り、空から岩が降り注いで来た。

信用に足る証言だったわけだ。


空から降り注ぐ岩を、スカイは丁寧に魔力弾ですべて粉砕していく。

礫となって降り注ぐものは、スカイが身を挺して眠れるレメを守った。

バランガは一人であたふたしていたため、少し大きめの石が頭に直撃していた。かすり傷ができて、血が少し流れる。この男の非行に比べて、あまりに小さすぎる天罰だ。

「血、血ー!!俺の頭から血ー!!し、死ぬー!」

みっともなく叫び回るバランガに、スカイはあきれながらもちゃんとアドバイスしてやった。


「治療魔法で治せよ。使えるだろ」

「はっ、それもそうだ!」

すぐに治療に入るバランガだった。

先ほどその才能は証明している。自分の小さなかすり傷くらい、瞬時に治した。

「血が止まった!俺天才!死から逃れた!」

「は?」


相手をしているのが面倒臭くなってきたスカイであった。

スカイはこの飛んできた岩を見て、少しだけ償いの件を考えた。

しかし、実行するつもりはない。やはりまずはレメを安全な場所に運ぶ必要があるからだ。


そんな時、学校敷地内からもう一人現れた。

生徒会長の、スルン・イストワールだった。

急いでスカイを追ってきた彼女は、スカイへの状況報告と感謝、更にはスカイと一緒にいるだろうレメの安全も確認したかったため走って来たのだ。

スカイに再び抱きかかえられたレメを見て、スルンはまずその身の無事を確認する。


「無事そうね。怪我は……ヒールを受けた形跡ありね。あなたがやったの?」

視線を向けられたバランガが、なんとか頷いた。

「ありがとう、このお礼はまた今度。それとスカイ、あなたにも話が。スレインズはブラロスを除いて全員拘束したわ。生徒もみんな無事よ。皆を代表してあなたに感謝を述べます。あなたは英雄よ、ありがとう」

お礼なんてスカイにとってはどうでもいい。

それよりもスルンが来たのなら、スカイは自分の考えていることを実行できる。

今は礼よりも、償いをさせたい相手がいる。


「生徒会長、レメを安全な場所に頼む。あんたなら任せられる」

てっきり一緒に避難すると思っていたので、スルンはその提案に首を傾げた。

「レメたんを私に?」

「ああ、とにかく安全な場所へ向かってくれ。俺はもう一仕事ある」

「まさか……」

スルンの予想通りだった。


スカイは今から、ブラロスとジェーンのもとに向かうつもりである。

随分と怒りポイントの溜まったスカイだ、今更ながらにこの騒動の原因を考えた。


スレインズが高等魔法学院を襲撃していなければ……。

王命が強引な内容でなければ……。

騎士団長がもっと早くブラロスを仕留めていれば……。


そうなっていれば、レメが怪我を負わなくても済んだ。

バランガを殺そうとしていたが、原因はやはりブラロスであり、ジェーンであり、王命なのだ。


王命を出した王様にはいずれ、今は先に二人を……。

あの二人は、スカイの予測では二人ともただ戦いたいだけ、そんな根本的な精神が見え隠れしていた。

それを何度か敏感に感じ取っていたスカイは、そんな理由で事件に巻き込まれたことに非常に怒りを覚えている。


そこまでして戦いたいのなら、ラグナシと呼ばれた自分も参戦しようじゃないか。

そして、二度と戦いたいと思えないくらいに、やり合ってやろうと考えた。


「本当に行くの?」

スカイを止めようとしたスルンだったが、当然止まるはずもない。

「ちょっと二人ほど、仕留めてくる」



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