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六十一話 決着

スカイが魔力変換速度200%を発動したのを見て、ただ事ではないと判断したカネントはすぐさま用意していた最大バリアを張っていく。

当初想定していたスカイの力なら防ぎきるどころか、しっかり跳ね返す未来まで見えていたが、その自信も今は既にない。

スカイの発する魔力のオーラが異常な威圧感も伴っている。経験値の高い彼がこの威圧感を読み違えるはずもない。


カネントはかつてブラロスと向かい合った時以外に、死ぬかもしれないという気持ちを味わったことがなかった。

しかし今スカイと向き合うことで、ビシバシと死の予感が彼の頭の中を行き来する。


それでも逃げ出すわけには行かない。

逃げ出したところで逃げ切れる気もしないからだ。


なので自分の出来得る最大限の力を発揮するまでである。

使い魔スククスの絶対にして最強の固有能力『ミラーカーテン』。


これを発動して、カネントは透明で輝かしい半径3メートルほどの球体に包まれる。

これがどんな魔法をも防ぎ、跳ね返すカネントの切り札であるミラーカーテン。

いつもならこれに包まれればどんな状況でも安心できるのだが、今日に限っては全く気が休まらなかった。


急いで彼自身の魔法も張っていく。

風の性質、上級魔法上昇気流。消費魔力600。

術者の周りに天空へと舞い上がるための風を起こさせる魔法である。


今回は空に飛ぶために使ったわけではなく、飛んでくる魔力弾の威力を弱らせるためのものである。

四方を上昇気流で。

そして自身をミラーカーテンの完璧な魔法で固めたカネント。

後はスカイからの攻撃を待つだけであった。


カネントのミラーカーテンの頑丈さは、何となくだがスカイにもすぐさま理解できた。

おまけに上昇気流まで張られた。

ミラーカーテンの分析を行っているうちに、相手はすっかり準備万端である。


はじめ、相手が攻撃をしながらまたバリアを張ってくるものと考えていただけに、すっかり怯えて引きこもってしまったカネントの行動は少し意外だった。

魔力変換速度200%を発揮している状態では、魔力弾も、そして武器強化の威力も倍となる。

先ほどより強力なバリアを張られたところで、それを突き破れる自信はあった。


しかし、それでは芸がない。

せっかく相手が引きこもったままなのだ、スカイは存分にこの場を活用するつもりでいた。


スカイの位置からは、壁を突き破った跡から体育館内も見えた。

生徒たちとスレインズのメンバーがこちらを見ているのがわかる。

カネントとの決着次第で、彼らの今後の指揮に関わる。


生徒たちの無事解放の為にも、圧倒的な勝利はこの場において結構重要であると言えた。


残りの魔力量はおおよそ150程度。

この量でスカイができることを考える。

全700種の魔法を行使できる今なら、魔法の組み合わせ次第でこの場をどうにでもできそうな気がしていた。

そして、閃く。


ちょうどいい魔法に心当たりがあるのだ。

使ったことがないので、いきなりの実践だと少し緊張はする。

しかし、カネントにちょっと待って。練習させてくださいと頼むわけにもいかない。


消費魔力量が100なのもちょうどいい。

無色の七魔で消費魔力量が倍になるが、それは魔力変換速度200%の二分の一効果で相殺できている。

残された150という心もとない魔力量でも行使可能な魔法であった。


それでもやはりいきなりの魔法行使に不安が残るスカイは、少し面白い試みをもって攻撃を仕掛ける。

二丁拳銃を構えたスカイは、それをあろうことかアエリッテに向けた。

さっきまで嬉しそうにスカイの勝利を祝っていた彼女が、驚きに目を見開いた。

「えっ!?なんで!?あなたのお肉を取った覚えはなくてよ!」

アエリッテは食べ物の恨みだと思っているらしい。

普段から盗み食いの多い彼女ならではの勘違いである。


しかし、スカイが彼女に向けて撃つはずもない。肉も取られていない。

この時スカイは魔法の詠唱を開始している。


闇の性質、初級魔法闇空間。消費魔力量100。

二箇所に、行き来可能な闇の穴を作り出す魔法である。


一つは拳銃を向けているアエリッテの前に。

もう一つは、ミラーカーテンの中へ。


カネントが戦闘の最初に言っていたことをスカイは思い出していた。

彼が言うように、何も持っている力だけでぶつかり合う必要はない、と。

正面からミラーカーテンを打ち破った方が実力差が明確されて気持ちがいいかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

要は、勝つことが大事である。

確実に、それでいて圧倒的に、そうやって勝てる方法をスカイは最終的にチョイスした。


アエリッテに杖を向けたのは、彼女を驚かせるのが目的ではない。

スカイへ警戒の視線を向け続けているカネントの意表を突くためである。


事実、スカイのやろうとしていることがわからず、自身の後ろに出来上がった闇空間に気が付いていない。

上昇気流、ミラーカーテン、カネントの体に張られたバリア、闇空間を使うことでこのうちの二つがショートカットできる。

カネントの体にはまだバリアが残っているが、武器強化、トリックメーカー、更に魔力変換速度200%で撃たれる魔力弾に対処しきれるか……答えは当然ノーである。


「フェイクだ。肉は俺が奢ろう」

スカイとアエリッテの間に生まれる闇空間。驚かせてしまった謝罪はまた後にするつもりである。

彼女には言葉での謝罪よりも肉を奢る方が効果的そうなので、奢る約束を口にした。


闇空間へ、スカイは威力マシマシとなった魔力弾を2発撃ちこんだ。


構えている正面からではなく、ミラーカーテン内から突如撃ち込まれる魔力弾。

カネントに対処できるはずもなく、撃ち抜かれた彼はミラーカーテン内の防御システムに自身の体も防がれて、外に出ることが敵わず中でバウンドし続けた。


ミラーカーテンの耐久値が限界だったのか、それともカネントがノックダウンされたからか、上昇気流もミラーカーテンもそのうち消えていった。

使い魔のスククスも寂しそうに魔域に帰っていく。


倒れこむカネントは、今度こそゾンビの如く復活することもなく、深い深い闇へと沈んでいった。

当分目が覚めることはない、それだけは断言できた。


魔力量がほとんどなくなって、今度こそ終わりだと理解したスカイはその場に座り込んだ。

アエリッテがいつ肉を奢るのかとしつこく迫るが、それを相手にする元気もない。

「今度だ」

「今度っていつよ!?食べ放題よね!?」

「知らん!」

侯爵家の人間の口に合う肉を提供できるか若干不安になってくるが、そこは問題ない。アエリッテはジャンキーな庶民味が好みである。

結構安上がりな女なのだ。


スカイの劇的勝利を見届けた体育館内では、スレインズのメンバーが徐々にその戦意を失い始めていた。

側近のカネントがやられて、ブラロスの姿も見えない。

今のスカイが見せた圧倒的なまでの攻撃力を誇る魔力弾を相手にできるとは思えない。


杖を手放す者や、その場に座り込むものなど様々だ。

対照的に生徒側が盛り上がって戦意を取り戻しているかといえば、実はそうでもない。


スレインズのメンバーたちと似たようにそのテンションは低めだ。

戦いが終わってほっとしている訳じゃない。

やはりビービー魔法使いが活躍したというのが納得いかないのだ。


魔力総量が少ないものは馬鹿にされる。

1000以下だとB級魔法使い。おまけに貴族であるならB級貴族。合わせてビービー魔法使い。

ビービー魔法使いは弱いから馬鹿にされるのだ。

それが強いとなれば、今まで教わってきたものがなんだという話になってくる。


謎の脱力感に襲われて、生徒側も喜ぶに喜べない。

生徒会長の一括が入るまで、結局ほとんどの生徒はぼーっとっているだけだった。


生徒会長の一声で、比較的回復が早かった平民生徒たちがスレインズのメンバーを拘束していく。

抵抗もされなかったため、こちらはスムーズにいった。

貴族の生徒たちは、やはりビービー魔法使いが活躍したことに抵抗があるのか、活発に動こうとはしなかった。


アエリッテから肉を奢る具体的な日時を指定されて、スカイは適当に了承した旨を伝える。

どんだけ肉が喰いたいんだ、という文句を言ってやりたいが、それよりも先に迎えに行く人がいる。


ジェーン・アドラーの足止めをしてくれたレメが心配だ。

賢い彼女のことだ。

きっと都合を見てジェーンからは上手に距離を取っていることだろう。


しかし、ジェーン・アドラーとブラロスの戦いが本格的になれば、その影響がどこまででるかわからない。

スカイが側にいてやれば、守ってやることもできる。

それほどか弱い女性ではないと知りつつも、重たい腰を上げて騎士団が結界を打ち破ったポイントを目指すことにした。



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