五十四話 盗み食い犯
ああああああああ!!!!
書いてた分が消えたああああああ!!
書き直したああああああ!!
心が痛いいいいいいいい!!
結界内へと無事に入ることのできたスカイは、当然見張りがいるであろう正門から入るようなことはせずに塀を飛び越えて高等魔法学院の敷地内へと侵入した。
タルトンがこの塀を乗り越える際に机を土台にしたのとは違い、スカイはいともたやすく駆け上って越えることに成功していた。
ここらへんは流石に森で育っただけあり、優れた運動能力が発揮されていた。
塀を飛び越えた先でもしもスレインズの誰かと鉢合わせようものならば、スカイの神速を誇る魔力弾で制圧するつもりでいた。
声も出させないうちに倒すイメージを描いていたが、幸運にも誰にも遭遇することなく物陰へと隠れることに成功した。
あまり土地勘に詳しくないスカイではあるが、生徒たちが隔離されている場所の検討くらいはつく。
スレインズからしたら当然一か所に固めておいたほうが管理しやすい。
全校生徒を管理できる広い場所といえば、体育館くらいしか思い当たらない。
最終的な目的地を決めて、スカイはそこへと行くルートを考える。
本丸であるブラロスと結界を張ったカネントとぶつかる前にいくらか相手の戦力はそぎたいと思っていた。
そうしなければ、戦いが伸びたときに生徒に被害が出てしまう可能性が生じてしまう。
進行ルートの途中でも見張りがいるだろうから、その都度制圧していくつもりである。
スカイの魔力弾をもってしたら、静かに、素早く処理していくことは可能だ。
とりあえず目の前の建物の窓から内部へと侵入することにする。
臭いである程度予測はついていたが、スカイが入った場所は食堂に隣接する厨房であった。
中の静けさから、料理人たちも連行されたことがわかる。
しかし、小さな音だが、何か物音がスカイの耳にとらえられた。
厨房内にある、食料保管庫の中から男がする。
スレインズの誰かが食料を調達しに来ているのかもしれない。
二丁拳銃を構えたスカイは、わずかに開いている食料保管庫の扉を足で開け放った。
「ふぁい!?」
拳銃型の杖を向けられたその人物は、大量の肉を咀嚼しながら驚きに声を漏らした。
スカイはあきれ半分に杖を下す。目の前の人物に見覚えがあり、そしてスレインズではないと分かったからだ。
「なんでこんなところで盗み食いをしている」
問われた相手は、干し肉をなんとか飲み込んで、恥ずかしそうに答え始めた。
「いえね、ちょっとジャンクな味に飢えていて、たまにこうして盗み食いに入るのよ。みんなには黙ってて、侯爵家のメンツもあるし。ねっ」
「はあー」
あまりの緊張感のなさに、スカイはため息をついた。
こんな状況下にも拘らず、まさかの盗み食い犯である。
警戒して損した気持ちもある。
口元を肉の脂で汚したその女性は、以前スカイと冒険者ギルドで出会った人である。
タンガロイ家の侯爵令嬢にして、天才魔法少女と呼ばれる、アエリッテ・タンガロイその人だ。
スカイだけでなく、アエリッテもスカイの顔を見て気が付いていた。
以前王都の冒険者ギルドに行った際に、自分以外の天才が存在がいることを知ったのだ。
それ以来スカイのことは強く記憶している。
てっきり高等魔法学院では同じクラスになるものと思っていたのだが、クラス内にはなぜかスカイの姿がない。しばらくアエリッテはスカイの存在を探していたこともあった。
あまり公式戦にも顔を出さない彼女である、広い高等魔法学院の敷地内ではなかなか偶然遭遇するということもなく、今日まで会えないでいた。
思わぬ遭遇に、アエリッテは驚き半面、うれしさ半面といったところである。
「高等魔法学院がスレインズに占拠されたことは知っているのか?」
少しずれた質問な気もしないではないが、目の前のアエリッテの様子から、スカイはまずこれを確認しておくべきだろうと思っていた。
「知っているわ。盗み食いに入っていたら、気が付いたら占拠されちゃってたわ。盗み食いに来ててラッキーだったわ。どうせ騎士団がすぐに来てくれるし、このまま食べていようと思ったの」
「お気楽だな」
危機的状況下で彼女の気の抜けた様子にスカイは思わずそんな言葉をかけていた。
しかし、無事ならいい。一人ずつでも安全を確保してやれるのいいことだ。
「食料保管庫なんて、すぐに抑えられるような気もするけどな」
一応の懸念点を述べてみる。
「もう一個大きいのがあるのよ。多分スレインズはそっちを抑えている。ちなみにそっちは施錠も厳重でなかなか忍び込めないのよねー。だからこっちの小さいので我慢よ」
盗み食いに入っている時点で我慢と言えるのかどうか、それは各々の基準次第である。
一般的には我慢ではないといえよう。
彼女の事情を把握できたスカイは、計画に戻ることにした。
いよいよ、スレインズとぶつかる時である。
「お前はここにいろ。今からスレインズを制圧してくる」
「騎士団に任せなさいよ。ここは王都よ。エリート騎士団がすぐに来てくれるわ」
「奴らは当てにならん。結界で時間がかかるだろうし、何より総攻撃の王命が出ている。どういう事情があるかしないが、スレインズの殲滅が最優先らしい。つまり、生徒たちは全員見捨てられたんだよ。侯爵家のあんたでさえな」
この情報にはさすがにアエリッテも驚いてていた。
てっきり生徒の安全最優先の作戦がとられると思っていたからだ。
それはスカイもレメも同じだったし、きっと今人質に取られている生徒たちもそう考えていることだろう。
「深い事情がありそうね」
「そういうことだ。ケガしないように食料保管庫でこもっていろ。すべて俺が終わらせてくる」
少し高圧的な言い方であったが、スカイなりの優しさでもある。
彼女が下手に動いて怪我をしないための配慮だ。
「食料保管庫を空っぽにするのが当面の目標だったけれど、私も行くわ」
「は?」
「だから、一緒に行って手伝ってあげるって言ってるの」
「いや、足手まといは困る」
「へえー」
思わずアエリッテは笑ってしまった。
幼少期より自分のことを天才と呼ぶ人は数知れずいた。
実際、魔力総量史上最高の28000、優秀な火の性質、さらに火の性質魔法全100種を扱える紛れもない天才である。
そんな自分を、スカイは足手まといと言い切ったのだ。
ただの口達者でないことはわかる。
アエリッテは冒険者ギルドでスカイがA級の魔物を2体も狩ってきているのを見ている。
自分と同じく冒険者ギルドから認めらえたゴールドカードも持っている。
実力に疑いはない。
それでも足手まといと言われるほど差があるとは思えなかったのだ。むしろ、間違いなく自分のほうが強いとアエリッテは思っている。
だからといって不快に思うわけではない。むしろ、楽しい気分でいた。
そして同時に、彼女の心に熱い火もつく。
「絶対に私も一緒に行くわ。スレインズを制圧する手助けをさせて頂戴。いえ、断っても行くわ」
「はあー」
また厄介な奴らに絡まれたとスカイは気を重くした。
しかし、スカイもうすうすではあるが、アエリッテが実力者だと気が付いてはいる。
邪魔にはならないかな、という結論を出した。
「杖は持っているのか?」
「いつも一緒よ」
彼女が背中を向けると、そこには青銅の鏡が浮かんでいる。
何か模様が彫られているみたいだが、歴史に関係するのか、土地に関係するのか、スカイにはよくわからなかった。
「太陽を模したものなの」
よく聞かれるからなのか、アエリッテから答えた。
彼女の杖は太陽を模した青銅の鏡である。
火の性質を極めた彼女らしい杖と言えた。
「杖があるなら大丈夫だな」
「なくても大丈夫よ」
どこまでも強気なアエリッテである。
「とりあえず、ほっぺについた食べかすを取ってくれ」
「うそっ!?」
手探りでほほについたでっかい肉片を取ったアエリッテだった。
実家でもよく父に言われていたことだが、いまだに成長しないところである。
「それと盗み食いの件は見逃していないからな」
「うっ……」
二人の話がまとまって、食料保管庫を出ることにした。
目指すのは二人とも生徒が隔離されていると予測している体育館である。
堂々と道の真ん中を歩くようなことはせず、二人とも慎重に歩を進めた。
道中、中継ポイントとして、これも予想通りところどころにスレインズのメンバーが配置されている。
途中で連絡が途切れれば怪しまれるだろうが、しかし各個撃破できるこのチャンスを二人は無駄にするつもりはなかった。
「俺が行く」
体育館へのルートの途中に立っていたスレインズのメンバー二人に、スカイは素早い動きで目の前に飛び出した。
拳銃型の杖をすでに向けている。
相手が驚きの声を発するまでもなく、重複詠唱によってスカイの魔力弾が2発さく裂した。
中級魔法の威力もある魔力弾である。
準備のできていなかった二人に防ぐ手立てはなく、もろに魔力弾を受けて、吹き飛ばされてその意識を失った。
まともに受ければ軽く骨が折れるほどの威力だ。そう簡単には目を覚まさないことがわかる。
後ろに控えていたアエリッテはスカイの一連の戦闘技術に相当驚いてはいたが、それでも負けているとはやはり思わなかった。
あの速さも、あの威力も、そこらの魔法使いじゃ当然対処できない。
しかし、自分ならば対処できうると今一度その自信を確かなものにしていた。




