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四十話 両雄激突

いよいよ迎えた週末の公式戦。


一年生の会場では、スカイとバランガの試合がメイン試合に設定されており、席の予約が取れないほど人気の試合になっているらしい。


現在ランキング2位を走る男と同数の4勝をあげているビービー魔法使い。


スカイはそれに加えて2年生との試合を辞退しているので、1敗もついている。

しかし、それでもビービー魔法使い対天才バランガの試合熱を下げる要因にはなり得ない。


実はバランガが試合を盛りあげるために1週間前から宣伝活動を行なっていたりもしていたのだ、それがなくとも空席ができることはなかっただろう。


一般の観客が席を確保するためには先着でチケットを購入するか、ダフ屋から買うかという手段になってくる。

一方で在学生の観客数が席数を上回った場合、Aクラスから順に席に座ることができるようになっている。


2,3年生にもそれは当然適用されており、バランガとスカイの公式戦は上級生たちからも注目の試合として見られていたので、上級生のAクラスの生徒の姿がチラホラと見えている。


待合室からモニター越しに会場を見ていたスカイは何人かの見知った顔を見つける。

レメは来てくれているみたいだ。


まあ訓練にも付き合って貰ったし、当然ではあるが。

フルミンやアスクの顔も見えた。


驚いたことに生徒会長と副会長もしっかりと席を確保している。

見たくはなかったが今日の試合をセッティングした兄、スール・ヴィンセントの姿もきちんと見えていた。


上級生のAクラスだ、彼の影響力もあって最前列の席にて試合を待っていた。

タルトンの姿は見えなかった。Eクラスの彼には席を確保できなかったのだろうという予測が容易にできた。


自分を応援してくれるのはこの辺りだけだろうと考える。

別に大きな声援が欲しい訳ではなかったが、一人くらい見方がいないとなかなか辛いものだ。


メイン試合を迎える前に、闘技場では何試合か行われる。

その間スカイは控室で刀型の杖を見えていた。


実はレメから借りてきたのだ。

レメが自分の戦闘スタイルをとるならこの杖がいいわよ、と手渡してきたのが昨日。

正直使い慣れていないけれど、拳銃型の杖よりかは幾分役に立つだろう。


感触を確かめ、試合のシミュレーションをし、スカイは目を閉じて時を待った。

控室で呼ばれて、いよいよ試合の時が来たことを告げられる。


魔力弾を封じられて挑む試合はこれが初めてになる。

なんだか初々しい気持ちがスカイの中で生まれていた


こんなに緊張して、不安で、楽しみなのはいつ以来だろうか。


いろいろなことが裏で動き、せっかく回って来た機会だ。存分に力を発揮しようと決心して、声援が響きわたる闘技場へと向かった。

闘技場では先に現れたバランガ・レースに向かって盛大な声援が送られていた。


レメの小さなブーイングは多くの大声にかき消されて意味をなしていなかった。


バランガはそれにこたえるように両手をあげて降る。会場の熱は、それに合わせてさらに高まった。

しかし、反対側の入り口からスカイが登場して声援はたちまち止んだ。


会場を揺るがすような低い音のブーイングが鳴り始める。

ビービー魔法使いとしてただでさえ人気のないスカイだ。


スカイが前の試合を辞退したことで、チケットを買っていた客で怒りを抱えている者もいる。

バランガを応援している連中は当然スカイが気に入らないだろう。


更には流れで面白半分にブーイングを送っている者もいる。

何より、スカイの魔力弾が不正認定されたことで完全なヒールとなっていた。


完全なアウェー会場となったこの場所で、スカイは堂々とバランガと向き合った。

二人がこうして対峙するのはこれが3度目になる。


「よう、逃げずに良く来たなスカイ」

「バランガ、前々から言おうと思ってたけど、お前変な髪型だな」

彼のおかっぱ頭を指してスカイは言い切った。


いままで誰も指摘したことのない部分だ。容易にバランガを怒らせることに成功した。

戦略的に挑発されていることにも気が付かず、バランガは素直に怒りを表す。


「スカイ、調子に乗るのもいい加減にしろ。アニキから上手に負けろとでも指示されたのか? しかし、悪いが俺はそんなに簡単に終わらせるつもりはない。お前がもう二度と観客の前に立てないように惨めったらしくボロボロにしてから試合を決めてやる」


そういえば負ける約束だったな、とスカイは今更に思い返していた。

この一週間バランガを倒すことに専念していたのだ。そんな話はすっかり忘れてしまっていた。

スカイの気持ちにはバランガを倒して、兄の鼻っ柱をへし折ってやることしかない。


「悪いな。長い試合には付き合ってられない。こっちにも事情があるんだ」

主に魔力総量不足という事情が。


この試合が始まる前に、スカイはピエロに相談していたのだ。

無色の七魔で消費魔力量が倍になるのをなんとかできないかと。それと練度0の問題も相談した。


しかし、魔力消費量についてはピエロがほとんど取り合ってくれなかった。

魔力消費量を平常に戻す代わりに、魔法の威力をなくすとかそんなことばかり。

フルミンの禁断魔法で覚醒をして貰いたかったのだが、まだインターバルが必要みたいで覚醒には至らなかった。


そういうことで魔力総量枯渇問題は解決していない。

しかし、練度の問題に関しては解決している。


トリックメーカーで条件がうまいこと都合がついた。

構築したトリックメーカーは『練度違反』。

その条件、なんと既に練度100のもの以外の全魔法の練度が100になるというもの……。ただし、1分間だけ。

その後は練度100になった魔法が、練度マイナス100という聞いたことのない世界に入ってしまう。


練度マイナス100は一日経つとリセットされるのだが、マイナス期間中使用するとどうなるかピエロは教えてくれなった。


非常に怖いことこの上ない条件だ。

なのでバランガとの試合専用のトリックメーカーと決めている。でないと、魔法自体が非常に使い勝手の悪いものになってしまう。


1分間しか戦えない魔法使いは正直ダンジョンでは生きては帰れない。


そういう訳でスカイに与えられた時間はたったの1分。この時間で魔力変換速度200%も同時に使用するつもりだ。


そこで試合を決めなければ、その先に待つのは魔力量0で魔法も使えなくなった男である。


左サイド

スカイ・ヴィンセント Eクラス

魔力総量 999

魔力性質 無

使用可能 4種

対戦成績 4勝 1敗

ランキング187位


右サイド

バランガ・レース Aクラス

魔力総量 12400

魔力性質 水

使用可能魔法 56種

対戦成績 4勝 0敗

ランキング2位


モニターに二人の情報が表示されていく。

スカイがピエロを呼び出し、バランガも青いドラゴン、ウォータードラゴンを呼び出した。

スカイが刀を構えて、バランガも三叉の槍を構える。


バランガがただでさえしゃくれた顎をしゃくり上げて、少し嫌みな笑顔を見せた。

スカイは反応を示さない。


会場の声援が今日一番にまで高まると同時に、開戦が告げられた。


トリックメーカーの名前『練度違反』を追加。

それと練度100と、練度マイナス100の条件を一部変更。

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