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三十六話 驚愕の事実

「無色の七魔なんていうもので全部の魔法を使えるようになったからって調子に乗らない。一つ一つがおろそかなら結局はただの器用貧乏じゃない」

「それはそうだ」

当然スカイもその辺りは考慮している。だから練度は後々フルミンとピエロに相談するつもりなのだ。

そもそも望んで使っている訳でもない。学校側から不当に魔力弾を封じられたために仕方なく施している代替案なのだ。


そんな不満が顔に出たのか、レメに額を突っつかれる。

「集中しなさいよね。せっかく私が秘伝のレメ流光魔法戦闘を教えるんだから」

「すまん」

流派をつくったのか、というツッコミは飲み込んだ。

「今日はその体に嫌というほど光魔法の機微を叩き込んであげるわ」

「そのつもりだ」

練度を高めるためにもどんどん使っていかなければならない。


しかし、レメがここで言っているのは練度のことではない。レメは練度のことを感覚でしか知らないのであって、彼女が言いたいことは魔法に慣れること。

何ができて、何ができないか。何が起きて、何が起こらないか。どんなメリットがあって、どんなデメリットがあるか。

そういう知識は書物で呼んでも細かいところまではわからない。実際に使いこんでこそ強みも弱みもみえてくるものだ。


「はい、じゃあまずはこれから行こうかしら」

二人は運動場を借りて、特訓を行なっている。

運動場では許可を得れば魔法の行使が可能だ。復活の魔法がかけられた案山子に魔法をぶつけたりなんかもして良い。

同じ光の性質を持つ魔法使いでも、人によって戦闘タイプはかなり異なってくる。

レメは刀型の杖を手にしている見た目通り近接魔法戦闘タイプだ。同じ光の性質でも遠距離で戦う人もいるが、レメは自分と違うタイプにあまり詳しくない。スカイを一週間で強化するには、自分の得意とする魔法と戦闘スタイルを伝授してやることが一番の近道だと思っていた。


ということで、レメが一番大事にし、そして全ての基本としている魔法の詠唱をした。

「光速移動か」

詠唱中にスカイからの横やりがあったため、レメは詠唱を中断した。


現在の魔法の詠唱に、昔のような呪文は必要ない。

今は頭の中で念じるだけで詠唱が開始されるので、無詠唱ぽっく映ることもある。しかし、魔法を組み立てるためのロジックは体の中でしっかり起きているため、言葉はいらないが呪文を唱えるのと同じ作業が体の中では行われているのだ。


ここまでは魔法使いであればだれでも知っている知識。

レメが詠唱を中断したのには、別の理由がある。

「なんで今私が光速移動を詠唱しているって分かったの? 」

「なんでって。ほら魔力が一瞬ピピっと波打って、その感じが光の性質初級魔法の光速移動だからだよ」

「なによ!? ピピって! 嘘でしょ!? 相手が詠唱を開始したと同時になんの魔法を詠唱したかわかるっていうの? 」

「え? わからないのか? 」

二人の間に生まれる溝。まさかの知識ギャップが生じた。

「嘘つかないでよね。じゃあこれは」

レメは魔法の詠唱を開始する。

スカイはすぐに魔法を読み解いた。

「ピピッピと来たから、光の性質中級魔法武器強化だな」

「本当なの? じゃあこれは」

「光の性質上級魔法、一閃だな」

「じゃあ! これは……」

その後何度か繰り返したのだ、レメの細かいフェイクテクニックに引っ掛かることもなく、スカイは詠唱開始と同時に全ての魔法を言い当てた。


「こんなの普通だろ」

「そんな人いないわよ!? 普通は相手の魔法を予測しながら戦うの。魔物なんかは行動パータンや動きに特徴があって詠唱を読めたりするけど、人は違うわ。特に強い者ほど詠唱に癖は付けないものよ。自分で言うのもなんだけど、私のは特に詠唱に癖が出ないの。初級魔法でも上級魔法でも癖が一切出ないから相手は私の動きを読めないの。それ以外にも強みがあるけど、それは私の強さの一つなのよ」

「……いや、でもわかるものはわかるんだから仕方ない」

スカイはそれを当然のことだと思っていたので、今の今まで本当に知らない事実だった。

逆に、今までの対戦相手が、こちらがなんの詠唱を行なっているのかわからずに戦っていたことに衝撃を受ける。


「ちょっと待て。俺の師匠もできたぞ」

「あんたたち希少種がたまたま遭遇しただけよ。それは! 普通はわからないの。ピピっと来てもわからないの」

「でも上級魔法だとピピピッピピってくるぞ」

「ピが何個続いてもわかんないものはわかんないのよ! 」

これには心底驚愕するスカイだった。

じゃあ、皆はどうやって魔力変換速度を見抜くのか。

いや、魔力変換速度の知識は世間には出回っていない。そんなことを考慮しているのは自分くらいだと気が付く。

それにしても、まさかだった。スカイはショックのあまりその場に立ち尽くす。そして疑問が湧いてきたので、すぐさまレメに尋ねた。

「じゃあさ、如何にも上級魔法を発動するぞって感じで、初級魔法を放ってもいいのか? 」

「いいのかって何よ……。みんなそうやって戦術を立ててるのよ」

「そうなのか? 上級魔法が来るって思って、初級魔法が来たらどうするんだ? びっくりするだろう! 」

「びっくりするだろうって……馬鹿にしてるの? 」

眉をひそめるたレメの態度がイマイチスカイには理解できない。

自分は今、本気で疑問を口にしているだけなのだから無理もない。


「馬鹿になんかしてない。じゃあさ、上手にやりくりして中級魔法かと思わせて上級魔法をどーんとぶつけたらどうなるんだ? なあ! 」

「それが馬鹿にしているって言うのよ。公式戦ならそこで敗戦濃厚。実際なら死んでいるわ」

「……怖すぎだろ、それ」

「あなたのほうが怖いわ。なんだか全てを覗かれているようで恥ずかしいし。もうダメ、私詠唱できないっ」

レメは顔を覆って本気でそんなことを言っている。


レメにとっても、スカイにとっても衝撃の事実すぎて、その日は訓練に身が入らなかった。

しかし、相手が詠唱を見抜けないとなると、戦闘の幅は更に広がるなとスカイは思った。




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