三十一話 久々の本気
フルミン以外にはそれほど心を乱されないという自信があるスカイでも、流石にその知らせには動揺せざるを得なかった。
掲示板に表示されている件だ。
スカイの魔力弾を不正行為と判断して公式戦での使用禁止にする旨が書かれていた。
一体どこに不正の要素があったのだろうかと考えるが、心当たりがないのだから正答が出るはずもない。
スカイは一旦考えることをやめて、その日もいつも通り静かに学校生活を送ることにした。
いつも通りのスカイだったのだが、クラスの面々はどうやら放っておいてはくれなかった。
今現在ランキングでこそ100番台のスカイだが、勝率100%、4戦4勝の華々しい戦績を収めている。勝利数で言うと今現在一位である。
ビービー魔法使いのくせにと思っていた生徒は少なからずいたし、今回の不正認定でやはりそうかと彼らは納得していた。
陰口でスカイの悪口がそこら中で言われたし、あからさまい机にぶつかってくる者もいた。
スカイはそういった面倒くさい輩には構わないようにしたのだが、それでも執拗な嫌がらせは続いた。
スカイの不快指数が少しだけ高まった……。
その日の昼休み後だった、教室にある連絡用の魔導掲示板にスカイへの呼び出しがかき込まれた。
『1年生専用運動場にて多人数による魔法戦闘が発生。スカイ・ヴィンセントは直ちに現場に赴き制圧すること』
久々に生徒会からの仕事が来た。
魔法の実戦訓練も多いこの学校では運動場が広く作られており、設備も充実している。更には学ぶ段階に合わせて設備が変わるように、学年ごとにも運動場は分けれていた。
今日の呼び出しは1年生用の運動場だ。
時間帯からして、Bクラスの生徒が使っている時間。
彼らの中で何かしらの揉め事があったと見てよいだろう。
スカイが運動場に到着したとき、先にレメがその場にいた。
Bクラスの生徒が二手に分かれてぶつかり合っている。貴族の生徒と平民の生徒だろうと見当がつく。
教師と連携して一人一人、その前に立ちはだかって暴動の阻止を図るレメ。
ざっと見て魔法を行使して戦闘を行なっている者が20名ほど。
教師とレメの実力に疑いはないが、一人一人止めていてはダメだろう。
魔法を使える人間が集まるとこういった事件が起こるとの想定で実力に優れた生徒会役員が求められる。それか、過去にも何度かあったから生徒会役員が作られたのだろうか。
生徒会長が自分を率いれたのはこういうときのためだろうとスカイは納得し、日々頂いている穀物ジュースの為に仕事をすることにした。
ちょうど不快指数も高まっていたところだった。
杖である二丁拳銃をその手に掴む。
そして久々にあの魔法を行使することにした。
伝説のラグナシだけが行使することのできる魔法、魔力変換速度200%を。
詠唱時間が半分。消費魔力も半分に。そして威力は倍に。
髪の毛が少しだけ重力に逆らって逆立つ。魔力の高まりを感じ取り、スカイは魔力変換速度200%を発動した。
以前より行使可能時間は増えており、200%でいられる時間は1分まで伸びていた。
スカイは二丁拳銃を構えると、一人一人へ向けて撃つ角度を計算する。
計算完了と共に、重複詠唱も併せて魔力弾を一気に放った。
ダダダダダっと発射音が響いて、0.5秒のうちの20発が放たれる。
暴れていた生徒たちの、死角から撃ち込まれる威力1000もの魔力弾。
一瞬同時多発的に運動場に叫び声が上がり、直後バタバタと倒れていく生徒たち。
そして静まる運動場。
立っているのは教師とレメとスカイ。そして遅れて様子を見に来た生徒たちだけだった。
何が起きたのか理解できた生徒はあまりいなかった。
理解した生徒も完全に何が起きたか理解したものはいない。
レメでさえスカイがやったと理解したが、それにしても速すぎると困惑する。
少し逆立った髪の毛が落ち着き、スカイは魔力変換速度200%を解除した。
倒れる生徒たちを見て、仕事が完了したことを認めた。
Eクラスで溜め込んだ不快指数をスカイはかわいそうだと思いながらもBクラスの生徒たちにぶつけて発散したのだ。可哀想だとは思ったが、申し訳ないとは思わない。以前にBクラスの生徒にも馬鹿にされた記憶はある。少しだけすっきりした顔になったスカイだった。
そして黙って踵を返して教室へと戻る。
スカイがBクラスを制圧したとの話が広まると、Eクラスで今朝まで教室でスカイの悪口を言っていた連中も黙らざるを得なかった。
放課後、当然だがスカイは生徒会室に呼ばれた。
そこではレメの報告を受けとるスルン生徒会長とレンギア副生徒会長の姿もあった。
「聞いたよ、スカイ。お手柄だったね。同時に生徒20名を制圧したんだって? しかも1秒とかからずに」
レメがあげた報告で仔細を知ったらしいスルンがそう言ってスカイを出迎えた。
「ボーナスが欲しいですね。これだけ仕事を迅速に済ませたんですから」
「うーん、それはちょっと無理かもしれない。制圧の手際は素晴らしかったんだが、ちょいとやり過ぎたみたいだね。軽症者4名。重傷者16名。生徒会への苦情が凄いことになっているんだよ」
「うっ……」
ただ仕事をしただけなのに、そんなことになっているとは知らなった。
スカイはてっきり褒めて貰えると思ってここに来たからだ。
「まあそちらは私が片付けておくよ。心配しないで。それよりも、こんなに凄いんじゃ魔力弾を公式戦で使用禁止にされるわけだ、これは。嫉妬や恐怖が集まり過ぎると、この学校は良くないほうに話を持っていく傾向がある」
「使用禁止にされたので、今日は思い切って全力を出してやりました。公式戦ではない場で」
「いい性格をしているねー。あんまりやり過ぎると更に居づらくなっちゃうよ。まあそれでも君はなんとかしちゃうんだろうけど。とにかく、今日はお疲れ様です。公式戦で受けた不遇措置も私ができるだけかけあってあげるからさ、とりあえず大人しくしていてね。いろいろ貴族の力を使って学校側に圧力をかけられる人間は多いだろうけど、私ほどじゃない……! 」
ニヤリと生徒会長は笑って言った。
けれど、スカイは首を横に振る。
「別にいいですよ。レンギア副会長と戦うときは必要になりそうですが、他に魔力弾が必要そうな対戦相手なんて2,3人しか心当たりがありません。それにもう公式戦に出るつもりもないので、このままで結構です」
別に魔力弾を使えない訳じゃない。今日の様に、公式戦以外の場でなら使える。
卒業したいだけのスカイにとって、華々しい成績を公式戦でおさめることはたいして重要ではない。今までは挑まれたから返り討ちにしていただけなのだ。
「いいの? それで」
レメが心配して尋ねた。
「ああ、いいさ」
スカイはそう言い残して、生徒会室を後にした。
残された三人は、スカイの処分の話に戻る。
「彼はああ言っているけど、私は納得いっていない」
会長が言った。
副会長とレメが同意の頷きをした。
「どうやらこの件は彼の兄、スール・ヴィンセントとバランガ・レースが関わっている。私はそこをもう一度洗ってから対策を練るよ。君たちは大人しくしておいてね、特にレメたんは」
「なっ、なんですか? 私だけ」
レメが不満げに会長に言う。
「最近君は何かとスカイ君寄りの発言をするからね。下手に動いてもらうとレメたんの場合かなり目立つ」
「そ、そそそそ、そんなことないです!! 」
顔を赤くしたレメは、会長と副会長に微笑ましい目つきで見つめられた。
「その目をやめてください! 」
彼女の声が室内に響いた。




