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二十四話 開戦

高等魔法学院では五日間登校した後、二日間の休みを設けている。基本的にはこのサイクルをとっている。

一年生にもようやく解禁された公式戦は、二日間の休みの内の火の日に行われることが決まっている。

火の日は休みの一日目であり、この世界では学校のみならず一般的な仕事も休みとなっている場合が多い。


一日に行われる公式戦は10試合まで。一人一週間に一戦という制限を設けている。

試合は基本的に申し込み順で、対戦相手を指名してもよいし、ランキングの近い者同士でのランダムマッチと言うのもある。


本日いよいよ解禁された一年生の公式戦は10試合全てが申し込まれており、そのすべてが対戦相手を指名した公式戦だった。


学校内にある、一年生専用の闘技場に生徒及び一般客が押し寄せる。

在校生が闘技場に自由に出入りできる一方、部外者は入場料を払うことで公式戦を観戦することができる。一試合いくらというカウントなので、人気のある試合とない試合の観客には明らかな差が出てくる。一般的にAクラス同士の対戦は人気であり、Eクラス同士の対戦はガラガラな観客席が目立つ。

公式戦で勝ちまくれば、2,3年生に上がる頃には固定客もつくと言われている。個人名で客を呼べる生徒には裏で教師陣から特別報酬を貰えるとか貰えないとか。

ちなみに、この学園で今現在、公式戦で最も客を呼べる生徒は生徒会副会長のレンギア・ケストである。在学2年少しで戦績は未だ無敗。次いで人気なのが生徒会長のスルンとなっている。


もしも二人の対戦が実現となると、学校側は事前に大々的に宣伝し、貴族やら大臣やらをも呼ぶほどの一大行事になると言われている。ちょくちょく教師たちが話を持ち掛けてはいるのだが、二人に了承してもらえていない。


今日のオープニングゲームはAクラスの生徒同士の公式戦から行われた。

申し込みはEクラスのタツが一番早かったのだが、Eクラス同士の公式戦はオープニングゲームに相応しくないとされて、順番が入れ替えられた。

タツとスカイの試合は3試合目に組み込まれている。


闘技場は上から見ると、試合が行われるフロアは円形上になっており、端は高さ2メートルもある壁で覆われている。その外側を観客席が覆っており、前の席から低く見えやすい配置になっており、後ろの席は高い場所に位置し試合の臨場感からは遠ざかる設計になっている。

部外者は高い席代を払えば、最前列の席で臨場感たっぷりの公式戦を楽しめる。金がないのなら後ろの安い席一択だ。


在学生はというと、Aクラスが前、Eクラスが後ろと決められている。一部大貴族専用席なんかはあるが、ほんの10席程度だ。

在学期間中の数少ない楽しみである公式戦を楽しむためにも、Aクラスに上がることが大事なことは明白だ。

オープニングゲームの生徒二人が登場して、闘技場は熱い声援に包まれた。なだらかにカーブを描いた天井は声が響きやすいように設計されたものだ。声が大きく響くほど、公式戦を戦う生徒の心に火をつけた。


スカイはというと、闘技場の地下にある控室でオープニングゲームを見ていた。

地下室には天井から提げられた魔導モニターがある。カメラは闘技場を映しており、控室にいてもその映像が見れるようにと設置されたものだ。


上の歓声が地下にいても聞こえてきた。

公式線というのは結構な人気なんだなと今更に実感が湧いてきたスカイだった。


地下にある控室は二つあり、対戦者はそれぞれ別の部屋へと入れられている。公式戦まえに殴り合われても困るからだ。


もともと知り合いの少ないスカイは当然控室に知り合いなどいるはずもなく、一人黙って魔導モニターを見ていた。Aクラスの生徒の実力がどんなものかゆっくりと観察する。


公式戦はお互いに使い魔を呼び出した状態で開始される。

使い魔は別に呼ばなくてもいいらしいが、呼ばない生徒はいないだろう。


試合の開始合図があると同時に、二人は魔法の詠唱を始めた。

二人とも初級魔法から唱えている辺り、戦闘の心得はありそうだったが、それでもスカイからみて隙だらけというほかなかった。

二人とも詠唱中に足が止まっている。

詠唱中に相手に近づかれたら、近接戦闘に自信のない者はそれだけで試合終了となる。

相手に近づくそぶりがなくとも脚は常に動かしておくべきだ、と昔師匠であるアンスが言っていたのを思い出す。


結局魔力変換速度50%程度同士の試合はただ魔法をぶつけあうだけのつまらない展開が続き、先に魔力切れを起こした生徒が降参する、という形で終わった。

くそつまらん、という感想を残したスカイに反して会場は大盛り上がりだった。

初級魔法、中級魔法、更には上級魔法がぶつかり合う壮絶な展開だったからだ。

戦い慣れている者からしたら無駄の多い糞試合だが、魔法を使えない一般客からすれば珍しい魔法が飛び交う華々しいことこの上ない試合に違いなかった。


大盛り上がりの会場で、勝った生徒は客に手を振って応えた。

まだ興奮冷めやらぬ会場だったが、次の試合もあるので教師の案内に従って二人は控室へと戻らされる。


勝った生徒は控室に戻ってもヒーローだった。

皆に囲まれていい試合だったとほめちぎられる。本人もまんざらでもない様子で、こうこうとアドバイスもしていた。


調子に乗った彼は皆の包囲から解放された後、スカイにも近づいていって声をかけた。

「お前も試合を挑まれて大変だな。まっ頑張れよビービー魔法使い」

ポンと汗まみれの手で肩をたたいて、彼は皆の輪に戻っていった。

彼からしたら優しさで声をかけたのだろうけど、ビービー魔法使いと呼んでいる時点で失礼なことを忘れている。なんかあいつ嫌いだ、スカイはそう思った。


2試合目はAクラスとCクラスの生徒の対戦だった。

Aクラス同士も盛り上がるが、ジャイアントキリングがあるかもしれないこういった試合も人気だったりする。先ほどの試合熱もあって、2試合も興奮に包まれて始まった。

試合展開はAクラスの生徒が多様な魔法で攻め立て、Cクラスの生徒がそれに対処していく形で進んでいった。結局大きく挽回できる手だてもなかったみたいで、普通にAクラスの生徒が勝ってしまった。

またもひどい試合展開だったのだが、多くの魔法を見られた観客は満足気だった。


対戦し終わった生徒たちが控室に戻る。スカイ側の控室が2連勝と調子がいい。

いよいよ自分の番なので、スカイは控室から出た。

勝って戻って来た生徒から再度肩をたたかれた。

「お前も頑張れよ。俺たちの控室調子がいいからな」

なんの仲間意識だよ、と突っ込みたかったが、どうせ勝つつもりだ。

「わかった」

と一応答えておいた。


3試合目はEクラス同士の対戦。

今日は公式戦開幕の日なので、チケットを一試合分だけでなく一日分買っている客が多い。それ故、Eクラス同士の対戦でも空席はそれほど見当たらない。その代わりだが、一日見ていくつもりの観客はここぞとばかりにトイレ休憩をとったり、売店に走る者もいた。こういうところに原石が眠っていたりするんだよ、と通ぶっている者もいたが、予定表を見てやはりトイレにいくらなら今だなと急いで走り出す。


Eクラス同士の対戦なんてこんなものだ。

変に期待されていない分、緊張せず全力を出せるメリットはある。

どちらにしろ、スカイに気負いはないし、見て欲しい欲求もなかった。ただ申し込まれたから受けただけのこと。


スカイと同じクラスの生徒、タツと向かい合うと、対戦を見守る教師から再度ルール説明が行われる。

まず、二人には魔法障壁という魔法が行使される。

説明と同時に、魔法障壁を付与する使い手がスカイとタツのもとにやってきて詠唱をする。

魔法障壁とは、体を覆う魔法専用の鎧だ。


薄い膜が体に付き、目には見えるが触っても感触などはない。

実際の魔法障壁は基本的に魔法から一発身を守れれば十分なものだが、この闘技場に張り巡らされている魔石によって今付与されている魔法障壁はかなり強力なものになっている。


教師が説明を進める。

魔法障壁の防御力はおよそ2万に設定されている。大きな事故につながらないように魔法障壁の防御力が1万を切った時点で負け。

接近戦闘は可能だが、目、股間への攻撃は反則。

などなど細かい説明が行われる。

二人とも事前に知っている情報なので、軽く聞き流していく。


「では、試合に入るがよろしいか? 」

タツははい、と返事をし、スカイは頷くことで返答した。


教師が下がって、観客用の魔導モニターに対戦者の情報が映し出された。


左サイド

タツ・コノ Eクラス

魔力総量 1980

魔法性質 火

使用可能魔法 16種

対戦成績 0勝 0敗


右サイド

スカイ・ヴィンセント Eクラス

魔力総量 999

魔力性質 無

使用可能 4種

対戦成績 0勝 0敗


モニターに映し出された情報を見て、観客席にどよめきが起きる。

噂で聞いてはいたが、今年魔力総量で1000未満の生徒が入学したと。

どうやら、それはスカイ・ヴィンセント。今目の前に立つ生徒のようだった。






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