二十二話 ボス級魔物超速討伐
「あれはオークキング。オーク種が突然変異してボス級になった魔物だ。今はまだ俺たちが通路にいるから襲ってはこない。ボスフロアに足を踏み入れた瞬間、攻撃が開始されるだろう。戦ったことがないならここで控えていろ。俺がやる」
相手がボス級ともなれば、スカイも手加減ができない。
足手まといがいても助けてやる余裕はないので、レメに警告しておいた。
「馬鹿にしないで。ボス級なら戦ったことがあるわ」
ボス級を前にしてうそをつくほどレメが無謀じゃないことは分かる。しかし、レメの魔法はいささかオークキングと相性が悪い気がして、スカイは再度レメに引くように指示したが、当然聞き入れて貰えなかった。
「あなたね、私を足手まとい扱いはやめて。たった一度私をびっくりさせたくらいで調子に乗らないで頂戴」
「やっぱりびっくりしていたのか。ならやったかいがある」
先ほどのコボルト戦で光速移動にあわせて魔力弾を放ったことがレメを驚かせたのだ。レメはまだそのことを根に持っていた。
二人が無駄口をたたいている間に、オークキングはボスフロアで立ち上がっており、手には棍棒を固く握りしめていた。
「あなたが無駄話をしているから相手が準備万端になっちゃったじゃない。奇襲の機会が失われた分はしっかり働きなさいよね」
「ボス級にもともと奇襲はないだろう。相手はオークキング。10万越えの体力と、10万越えの魔力総量を誇る。そのタンク性能と魔力総量を活かして上級魔法を連射してくるぞ。上級魔法の対処は? 」
「当然でしょ。馬鹿にしないでとさっきも言ったわ」
それなら死ぬことはないかなと、スカイは安心した。
同級生に無理させた挙句、死なせては流石に目覚めが悪い。
「出てこい、ピエロ」
「あなたもよ、ピノ」
二人は使い魔を呼び出す。
スカイの使い魔奇術師が魔域から出てきて愉快に笑う。
次いで、レメの使い魔である白い鳥が出てくる。サイズはピエロと同じく小型で白くモフモフとした毛を纏っており、見た目は若干鶏に似ている。額に緑色の輝かしい石がはめ込まれており、それが精霊族だという証明になっていた。
「精霊族の使い魔か。鶏みたいだな」
「あなたのは人族ね。あなたの不細工なのよりはマシよ」
「マシってことは、お前も鶏っぽいって思ってるってことだろ」
レメは答えなかった。代わりにスカイの足を踏むことで返事をする。
痛む足をかばいながら、スカイはレメの使い魔を軽く観察した。
精霊族の幻鳥、サンダーバードかなと推測する。
使い魔自信が雷を纏って戦うこともできるが、何よりもその最大の強みは契約主に雷を纏わせてスピードの底上げをすることだったはず、と依然読んだ資料の内容を思いだす。
二人とも準備が完了したので、いよいよボスフロアへと踏み入った。
二人が踏み入ったとたん、オークキングはその巨体から暴風のごとき雄叫びをあげながら突っ込んできた。
巨体に見合わず俊敏な動きに、二人は一瞬驚いたが、レメはサンダーバードから加速の雷を貰って余裕をもってかわす。スカイはレメほどの余裕はなかったが、直前でかわして脇腹へ魔力弾を2発撃ちこんだ。これでダメージが1000ほど入ったし、魔力弾の威力は600に上がる。
奇襲に失敗したオークキングはすぐさま棍棒を振り回して、二人を遠ざけて魔法の詠唱に入った。
闇の性質、初級魔法魔法反射。詠唱時間一秒。受けた魔法の威力を2倍にして返す魔法だ。
体力が有り余るオークキングならではの捨て身の魔法。
実際の詠唱時間は1.4秒だったので、魔力変換速度は70%前後だと判明した。
この1.4秒の間にスカイは重複詠唱で魔力弾を20発撃ちこんでいる。残りの時間は跳ね返されるリスクを考えて、魔力弾は撃ち込まなかった。これで魔力弾の威力は1600まで上がった。しかも既に相手の体力は一割ほども削れてしまっている。
魔力弾の威力が上級魔法の威力帯を上回った。
これでスカイの準備は整ったといってよかった。
一連の動きをみて、レメは衝撃を受けていた。
スカイのほとんど目にも見えない詠唱スピードから繰り出される中威力の魔法。しかも、それが連射されている。ありえないことが目の前で起きている。オークキングが詠唱している間、レメは完全スカイに見入ってしまっていた。
オークキングの魔力反射が発動されて、黒い鏡がオークキングの周りに浮遊する。
あれを攻撃した場合、オークキングにダメージは入るものの、跳ね返ってくる魔法の威力はオークキングが受けたダメージの倍の威力になってくる。魔力反射が有効な10秒間、こちらも自身を強化するのが一般的な策になる。
しかし、スカイは自身を強化する魔法を持っていないので、特にやることがない。正直、相性の悪い魔法だと痛感していた。
「上級魔法を詠唱しているぞ。闇の性質、上級魔法闇の波動。やつを中心に闇属性の瘴気が一気に放たれる。この部屋中に放たれるだろうから、相殺できなければ死ぬぞ」
「わかっているわ! 黙ってなさい! 」
レメはちゃんと詠唱を開始していた。
光の性質、上級魔法一閃。杖に光属性を纏わせて超威力の一撃を放つ魔法である。主に一対一の時に使う、レンジの短い魔法だが、上級魔法同士の相殺にもちゃんと使えるものだった。
闇の波動は詠唱時間が8秒。魔力変換速度が70%なので、実際の詠唱時間は11秒弱。
魔力反射が無効になって、一秒間の無防備状態が生まれる。
この間にスカイは更に魔力弾を撃ち込み、相手にダメージの蓄積を与えると同時に、魔力弾の威力を限界の2000まで高めた。
スカイからのえげつない攻撃に怯みながらも、オークキングはようやく闇の波動を放つことができた。
彼を中心に、黒い瘴気が爆発的に拡散される。一般的な威力は1200程度だが、オークキングのはそれよりか若干威力が高いと見て取れた。
飛んでくる正気を、レメは詠唱完了させていた一閃で相殺する。若干一閃のほうが威力が高かったため、余波がオークキングへと向かった。
スカイの方はというと、魔力弾を一発打ち込むだけで相殺に成功していた。
その後は、ひたすらにスカイのターンだった。
高威力に跳ね上がった魔力弾を超速で一発一発丁寧に当てていく。
一発2000もの威力があると、オークキングは攻撃を受ける度に反動を起こしてろくに反撃の体制が取れなかった。
それを5秒も繰り返せば、武器強化を完了させたレメが加速の雷、そして光速移動を駆使してオークキングの後方に回り込み、その首をはねてオークキングを仕留めたのだった。
「簡単な仕事だったな」
オークキングが倒れると、スカイはそう言ってニコリと笑った。
レメはオークキングを見下ろしながら複雑な心境でいた。
あまりに簡単すぎたためだった。
以前、ボス級の魔物と戦ったときは3時間もの時間を要した。
オークキングがあのときの魔物より格下とは思えなかった。
それなのに、今回の戦闘で要した時間はおそらく1分程度。速いどうこうを通り越して、でたらめな次元だった。
スカイが何をしたのか、未だにあまり理解できていない。
超速で撃ち込まれる中威力~高威力の魔法。正直言って、対処の方法が全く見つからない。
公式戦を挑んだ自分が、今更に愚かしく思えてくる。
光速移動も、加速の雷も、全ての光魔法を纏う前に、おそらくその上を取られてしまうと簡単に想像がついた。
悔しさと、不甲斐なさと、少しだけスカイへの憧れが入りまじり、レメは不機嫌な気分で帰路についた。
レメが不機嫌にずかずかと一人で帰っていったので、遭難した2年生はスカイが背負って帰ることに。粘液がねちゃねちゃしており、非常に不快な気分になったスカイだった。
「手伝えや! あの女! 」
スカイの声がダンジョン内に響いた。




